第17話 通学路と美乃里の思い付き
美乃里のやつ、本当にどこに行ったんだ? 濡れタオルゾーメを倒してから周りを探してみてるけど、美乃里がいる気配が無い。あれかな、普通に大学行ったとかかな。まあ授業あるしな。流石にあいつも大学を優先したか。
じゃあ俺も大学行くかな。流石に直接授業受けに行くなら、変身は解いて行かないとな。さっき美容室でも思ったけど、椅子に座る時に膝の装甲が邪魔なんだよ。ガッチャガチャいってうるさいし、授業の邪魔になったら大変だ。
ベルトから櫛を引き抜いて変身を解いた俺は、一応美乃里に連絡をしてから大学の方へ向かった。
しかし濡れタオルゾーメがちょうど通学路に出てくれて助かったな。倒してそのまま通学できるのってこんなに便利なのか。怪人が何時から活動してるのか知らないけど、これからは1時間ぐらい早めに家出て倒してから通学しようかな。朝活ってやつだ。
それにしてもそろそろ暑くなってきたなあ。5月になったらもう最近は夏だ。夏と言えばスイカ割りだ。俺あんまり器用じゃないから、スイカ割りとかやるとどうしても癖でバットの振り方しちゃうんだよな。インローかアウトローかどっちかに賭けて振るんだけど、低めギリギリのストライクゾーンを狙って振るからスイカの上の方しか割れなくていつも文句言われるんだよ。どうすりゃいいんだよ。
でも5月が近いってことはもうすぐゴールデンウィークか。ゴールデンウィークは大学も休みだな。何かすることあるか? 実家に帰るほどの休みでも無いし、そもそも俺はこの町に越して来たばかりだ。なんかまだ帰るの気まずいよな。1ヶ月経ってないしな。ゴールデンウィークより長い連休はプラチナウィークって呼ばれるけど、それより長い連休を取ったらダイヤモンドウィークとか呼ばれるのかな。硬そうで嫌だな。そもそもダイヤモンドって炭素だと思ったらあんまりありがたみ無いよな。ダイヤモンドでAって文字作ったらダイヤのAだよな。それにしてもダイヤモンドって
「長いよその意味不明の考えごと!? 何してるのずっと!?」
「ん? ……ああ、美乃里か。お前どこ行ってたんだよ。今ちょうどスキマ時間で始められる副業について考えてたところだ」
「考えてないよねそんなこと!? ダイヤモンドでA作ろうとしてなかった!?」
「あれ、なんで俺の考えてたこと知ってるんだよ。もしかして美乃里って伊東か?」
「言うならエスパーでしょ! なんでエスパーと伊東の2択外すの!? ずっと声に出てただけだから! あとダイヤモンドでA作る話だったよね!?」
「だから副業だよ。ダイヤモンドを手に入れるには金が要るだろ?」
「ああもう思考が次のフェーズに行ってたんだ!? スキマ時間にできる副業でダイヤモンド買おうとしてるの!? もう真面目に働きなよ!」
「でも男キャバ嬢ってあんまり稼げないんだよ」
「男だからじゃないかな!? せめてホストやれば!?」
「ホストって言われてもなあ。知らない留学生受け入れるの嫌だし」
「ホストファミリーじゃないよホストクラブ! え、この文脈で通じない!?」
ホストクラブって、なんだその変なクラブは。ホストファミリーになるための会員制システムとかか? 登録したら条件にマッチした留学生を受け入れることができるとかそういう。なんでそんなよく分からないものを勧められてるんだ俺は。
「それにしても美乃里、どこにいたんだ? 濡れタオルゾーメを見ておくように頼んだけど、いないから大学行ったんだと思ってたぞ」
「うんちゃんと私濡れタオルゾーメ見てたよ? でもなんかちょっと電話で外した隙に濡れタオルゾーメも柊吾くんもいないんだもん。慌てて追いかけて来たんだよ?」
「ごめんあんまり聞いてなかった。玄界灘の潮風がなんて?」
「言ってないよ!? 何その若鷹軍団を鼓舞しそうな話!?」
「鍛えし翼が逞しいところまでは聞き取れたぞ」
「だから言ってないの! 私も私でよく分かるよこんなネタ! これによってめっちゃ野球女子の設定にならない!? 大丈夫!?」
「しかし電話で外すにしては結構長くなかったか? 俺が到着するちょっと前から、濡れタオルゾーメを倒すところよりも後ってことだろ?」
「急に話戻すじゃん! 聞いてたじゃん! 電話の内容は柊吾くんにも関係あるから、伝えようと思ってあの場でしてたの!」
「俺に関係ある……? てことは麻薬たまご関係か」
「違うよ!? まだ麻薬たまごハマってるの柊吾くん!?」
麻薬たまごじゃなかったら俺に関係ある話ってなんだよ。俺が本名隠してやってる麻薬たまご専門のSNSアカウントは、総フォロワー1680人でたまに麻薬たまごについてDMが来たりするんだからな。『@mayaku_love』ってアカウントでやってるから何回か通報もされたけども。
「麻薬たまごはどうでも良くてね、私来週から柊吾くんの家に引っ越そうと思って!」
「ちょっと待て美乃里。今お前なんて言った……?」
「やっぱびっくりするよねー! 柊吾くんの家に引越そうかと」
「そっちじゃない! 麻薬たまごがどうでもいいって言ったのか!? 聞き捨てならないぞそれは!!」
「そっち!? いや絶対そっちより後半の方が大事な話してたよ!? この内容で麻薬たまごの方に引っ張られる!?」
「麻薬たまごはな……人生なんだよ! 人が事をなすと書いて人生だ!」
「人事じゃん! 面接でもするの!?」
「テッパンの質問は長麻薬たまごと短麻薬たまごを教えてくださいってやつだよな」
「長所と短所でしょ!? 麻薬たまごの長短はもう形状の話だよ!」
「ウミガラスの卵って細長いらしいぞ」
「知らないけどそれは! ね、聞いて!?」
ウミガラスの卵でも麻薬たまごって作れるのかな。今度投稿のネタとしてやってみるか。
……ん? 美乃里なんか変なこと言ってなかったか? 俺の家にどうちゃらって。ちょっと遡って読み返してみよう。ええーと……。
「tougokun no ie ni hikkosouto omotte……? は!? 美乃里お前、俺の家に引っ越すのか!?」
「ローマ字で書いてあったっけ!? うんだからそう言ってるじゃんさっきから! あと本文を遡るとかそういうことするのもうやめてね!?」
「お前急に引っ越すとかどうなってるんだよ。どの引越し業者を使うんだ。予約は間に合うのか?」
「心配の方向性が思ってたのと違う! 私が勝手に一緒に住むことにしたのはいいんだ!?」
「……あ、確かにそうだな。美乃里が俺の家に引っ越すってことは、俺と一緒に住むってことか。銅製ってやつか」
「字が違うよ字が! 生活をブロンズ製にしないで!? 同棲!」
「お前それ、生みの親はなんて言ってるんだよ。大丈夫なのかよ」
「うんだから生みの親が別にいる前提で話すのやめて!? 前も言ったけど! 親はむしろ彼氏ができたのかって喜んでたよ?」
「お前の親の貞操観念どうなってるんだよ! 普通10代の娘が同棲とか言い出したら止めるだろ! 俺彼氏でもないし!」
「そこはごめーん! 柊吾くんの家、駅からも大学からも近いし便利だからさ、住んじゃおって! 彼氏ってことにしとかないと流石にマズいからさ」
「でもお前それいいのか? うちの冷蔵庫には麻薬たまごがぎっしり詰まってるから、他の食材とか入る余地無いぞ?」
「冷蔵庫の心配はまた後々するから! 麻薬たまご好きだね!?」
「今麻薬たまごはどうでもいいんだよ!」
「私さっきそれ言ってブチ切れられたんだけど!?」
え、まじで俺の家に引っ越す気なのかこいつ? 許す親も親だけど、まだ知り合って日が浅い男と一緒に住む美乃里も美乃里だろ。そもそも俺許可出してないし。
同棲ってお前、付き合ってもないのにそんなの許されるのか? しかも美乃里と住むメリットが俺には無いし、親になんて説明すればいいのか……。
「悩んでるみたいだね柊吾くん! 私が解決してあげよーか!」
「そもそも原因がお前なんだけども!? なんで俺の家に引っ越したいんだよ本当に……」
「ね、柊吾くん! 私がお母さんに電話してあげるからさ、スマホ貸して!」
「いや俺狼煙しか持ってなくて……」
「戦とか始まるの!? さっき私にメッセージ送ってたでしょ! ほらさっさと貸す! えーっと、この『占いの母』って登録されてるのがお母さん?」
「違うわ! それは俺が高校生の時によく行ってた占いの店だわ!」
「柊吾くん占いとか行くんだ……。しかもそんな頻繁に……。あ、もしもしー? 柊吾くんのお母さんですかー? 私詰石美乃里って言います! 柊吾くんの彼女なんですけど、来週から柊吾くんと同棲したいなって! あ、いいです? ありがとうございます!」
「話早いな! どうなってるんだうちの親は!?」
「あ、全然そんな引っ越し費用とか出してもらわなくても大丈夫です! お気遣い無く!」
「出してもらいたい言い方だろそれは! がめついなお前!」
「はい! また改めて今度ご挨拶に行かせていただきますのでー! はい! よろしくお願いしますー! はい、失礼しますー!」
「サラリーマンみたいな切り方するなよお前! おじさんが見えたわ!」
「てことで柊吾くん、来週からよろしくね? ちょっと手狭だけどそこはごめんね?」
「それ言うなら俺なんだよ! なんでお前が言うの!?」
え、これ決定事項? 本当にこいつ来週引っ越して来るの? まじかよ、俺の荷物だってまだ完全に荷解き終わってないのに……。
とりあえず冷蔵庫の麻薬たまごだけは死守しないとな……。




