第16話 オンライン授業と緑の染髪マン
『HERO's HAIR』に向かって走りながら、俺はスマホからオンライン授業に入室する。なんかざわめきが聞こえるけど、何かあったのか?
……あ、俺染髪マンのまま授業受けてるわ。出欠確認で最初はスクリーンにオンライン受講の学生が映ってるのか。でもこれあれだな、変身解除するとむしろ俺の正体バレるから、もう染髪マンとして授業受けるしかないな。まあ特に問題は無いからいいか。
そのまま授業を聞くために画面を凝視していると、スマホから困惑した様子の教授の声が聞こえてくる。
『え、えー……。これからはコスプレでの受講は減点対象となりますので。あまり無いとは思いますが、皆さんお気をつけください……』
へー、コスプレで授業受けてるやつとかいるんだ。変なやつだな。なんでコスプレで授業受けたいんだよ。真面目に受けろよ授業ぐらい。
なんか教授がスクリーンを何度も見てるけど、どうしたんだろうな。ズッキーニが好きなカッパを見つけた時みたいな反応して。あんまりズッキーニ丸かじりするイメージ無いけど、カッパだといけたりするのかな。今度やってみるか。もしできたら俺をカッパとして認定してもらわないと。どこが認定やってるんだ? 日本きゅうり連盟とかかな。
ん? でも日本きゅうり連盟ならズッキーニ丸かじりでは認定してくれないか。なら日本ズッキーニ連盟とかに言わないとダメか。
そもそも日本にズッキーニ連盟ってあるのか? あ、なんかそれっぽいのはあるわ。正式な入会手続きは無くて、直接SNSに問い合わせればいいんだな。濡れタオルゾーメ倒したら問い合せてみよう。
問い合わせの文面を考えていると、大きく両腕を広げた金森さんの姿が視界に入る。
「そこの染谷柊吾くん、止まりなさい」
「おっと、通り過ぎるところだった! ありがとうございます金森さん。ぼーっとしてました」
「いいのよ染谷くん。人生時にはBOWっとすることも大事なんだから」
「すみませんその発音のつもりじゃなかったんですけども!? なんですかBOWっとするって!?」
「弓のように両端に刃を付けて接近戦をすることよ」
「いますけど特撮ヒーローとかで! 武器弓なのにわざわざ走って近づいて矢を使わないタイプのやつ! 俺もそのタイプってことですか!?」
「あら、染髪マンは髪色によってその能力に合った武器を使えるのよ。だから髪色次第では弓での接近戦も可能よ」
「可能なんですね!? なんでそんな大事なことまだ言ってなかったんです!? もう16話ですよ!?」
「16話って発音が給食屋に似てるわね」
「似てるかもしれないんですけどピンと来ないんですよ! なんですか給食屋って!? ト〇ファルガ○ローが給食当番を呼ぶ時ですか!?」
「宅配弁当の業者を呼ぶ時よ」
「それ給食に分類されます!? ややこしい呼び方しないでくださいよ!」
「私に言われても困るわよそんなの。私が考えたんじゃないんだから」
「とりあえず入りません!? ずっと美容室の前で何話してるんですか俺たち!?」
相変わらずマイペースだなこの人は……。マイペース選手権とかあったら優勝できるんじゃないか? でもマイペース具合ってどう判定したらいいんだろうな。目の前にきゅうりを置いたらどうするのかとか見ればいいのかな。じゃあ日本きゅうり連盟に連絡か。
「さてと、染谷くん。まずは変身を解いてもらえるかしら?」
「すみません金森さん、今変身解除すると授業に出てる全員に俺の正体がバレます」
「あら、今授業中なの? オンラインとかコンバインとかそういうのかしら」
「オンラインでいいでしょ!? なんですかコンバイン授業って!? 米を収穫する作業ですか!?」
「違うわよ。麦の方よ」
「穀物の種類はどうでもいいんですけども!? あのもういいんで早く染めてもらえます!?」
「仕方ないわね。これが『私はあなた色に染まります』という意味がある衛生服よ」
「それウエディングドレスとかの意味じゃないんですか!? 衛生服は食品工場とか見学する時に着るやつでしょ!?」
「それで、次は何色にするの?」
「急に戻らないでくださいびっくりする! 緑でお願いします緑で!」
金森さんは早速カラー剤を作りながら、俺を座らせて準備を始める。手際はいいのに始めるまでが長いんだよな。年末のバラエティ番組みたいだ。
「緑って言うと、染谷くんのガールフレンドのことかしら」
「美乃里こと言ってます!? なんであいつのこと知ってるんですか!?」
「そりゃ、君の戦いはいつもここでモニタリングしてるもの。当然美乃里ちゃんや大SKくんのことも知ってるわよ」
「大輔だけ本名がバレないように証言してくれた人みたいになってる! 普通そういう時D輔で表記しません!?」
「それで、美乃里ちゃんとはどこまで行ったのかしら。とても興味があるわあなた」
「急に大統領夫人みたいな話し方しないでくださいよ……。美乃里は別にガールフレンドとかじゃないですから!」
「あら、じゃあ何? ガールフレネミー?」
「最悪じゃないですか! あいつ俺のこと裏で悪く言ってるんですか!?」
「それは無いと思うけれどね。まあそれはいいわ。カラー剤ができたから早く染めるわよ。全く、いつもここまでが長いんだから染谷くんは」
「もう今度からここ来る時は最初から録音しとこうかな」
金森さんは手早く俺の髪にカラー剤を塗り、しばらく置いてシャンプーしてくれる。金髪がかなり白に近くなってたから、色が入るの早いな。まあその方が都合はいいんだけども。
「さて、これでいいかしら?」
「バッチリです金森さん! できればいつもある無駄なやり取りだけ省いてもらえると助かります!」
「あら、でも私はあの無駄なやり取りの中に染髪マンの情報を混ぜるのが趣味なのよ」
「次からは情報だけ伝えてくださいね!? ああもういいや、怪人倒して来ます!」
「そう言えば染谷くん、さっき教授が美容室に行きながらオンライン受講をすると減点って言ってたわよ」
「そんなやついるんですか? 常識無いなあ。俺ならそんなやつガツンと言ってやりますよ」
「あら……。ちょっとブリーチしすぎて脳に影響が出たかしら?」
何を言ってるのかよく分からないけど、とりあえずこれで準備はできた。ちょうど染め終わりで授業も終わったし、スマホはしまえるな。
ていうか変身した状態で髪染めてもフォームチェンジできるんだな。なんか金から徐々に緑に変わっていくのシュールだったな。カビが広がる過程を早送りで見てるみたいで。
あ、金森さんにヘアセットまでしてもらえば良かったな。仕方ない、自分でやっていくか。
俺はその辺のガラスに映る自分を見ながら髪をマッシュにセットし、緑の染髪マンマッシュに変身して、元いた場所へ走り出した。
「ヌレヌレ〜……。どれだけ考えても、あいつが負けない理由が分からないヌレ……」
おいあの一反木綿、まだあんなに考え込んでるぞ。コンディショナーゾーメもだけど、なんで俺が適当に与えた問題にあそこまで真剣になれるんだ。バカすぎるだろ。
「おい一反木綿! バカな考えごとはやめてさっさと倒されろ!」
「あ、お前戻って来てたヌレか! あれ、なんか緑になったヌレか……?」
「あ、気づいたー? イメチェンしたんだー!」
「そんな女子トークするつもり無いヌレ! 倒されろだとヌレ? そんな簡単にやられるわけにはいかないヌレ! 倒されるのはお前の方ヌレ!」
「お前みたいな一反木綿に俺が倒されるわけないだろ。さっさとかかって来いよ一反木綿」
「さっきから種族で呼ぶのやめてくれるヌレか!? わっちにはちゃんと濡れタオルゾーメって名前があるヌレ!」
「でもお前らも俺たちのこと『人間』って呼ぶだろ」
「確かに……」
1ターンで論破されてしまった濡れタオルゾーメは、どうやら今までの自分たちの人間への接し方を省みているみたいだ。よし、今がチャンスだな。
俺は濡れタオルゾーメの後ろに一瞬で周り込む。確か緑は風の能力。マッシュだと風そのものにもなれるみたいだな。
あそうだ。金森さんが言ってた、能力に合った武器とかいうのを試してみるか。えーと、どうしたらいいんだ?
すると腰のベルトが光り出し、俺の目の前にずっしりとした片手銃が出現した。
お、念じれば出る感じか。助かるな。これ例えば500円玉を武器だと思い込めば、いっぱい出てきたりしないのかな。それなら500円玉貯金とかめちゃくちゃできるのにな。
とりあえず片手銃を濡れタオルゾーメに向かって構えた俺は、思い切りパワーを込めてから引き金を引いた。
「食らえ! 春一番ッ!!」
「ぬあー!? なんか体が急速に乾いていくヌレ! 辛いヌレ! 熱いヌレ! あと技名が適当ですごく引っかかるヌレ!」
「なんでだよ春一番って暖かくて強い風だろ。びったりじゃないか」
「ヒーローの技としてダサいヌレー!!」
「あ、お前ダサいとか言ったな! もっと風強めてやる」
「ああー!! カピカピになるヌレー!! 髪を濡れたまま放置するとカビが生えることがあるから気をつけるヌレー!!」
カピカピになった濡れタオルゾーメは、そのままただのタオルに戻ってしまった。まあそんなもんかこいつは。俺がこんな変なのに負けるわけないもんなあ。
……あれ? そういや美乃里は? 濡れタオルゾーメを見ておくように頼んだはずだけども。どこ行ったんだろう。美乃里のことだから品川駅とかかな。あそこ駅の中に本屋あるし。あいつ本とか読むのか。意外だな。




