第12話 教授へのメールとリベンジマッチ
俺が大輔に見せたメールは、こんな感じだ。
『親愛なる友人、ミスターゴンドウ。
君がこの手紙を受け取ったということは、僕がもう次のステージへ行っているということだろう。君と拳を交わし、白髪染めをかけ合った日々。あれは僕にとってかけがえの無い日々だったよ。君にとってはどちらかと言うとかけ甲斐がある日々だったかな? 白髪染めを僕にね。おっと、ジョークはこれだけにしておこう。
さて本題だ。君にかけられた白髪染めだが、もう僕はそれを克服したと言ってもいいだろう。もし今また僕と君が白髪染めをかけ合うなら、それはもう君にとってかけ甲斐の無い時間になるだろうね。おっと、またジョークを言ってしまったよ。
てことで、君と白髪染めをかけ合う場所と時間を指定しようじゃないか。ミシシッピ川のほとりで、西のコンビニが開く頃に会おう。君とまた白髪染めを交わせるのを、楽しみに待っているよ。
愛を込めて。ヘイグ』
「うんダメじゃね!? なげーしずっとアメリカ人みてーだし! 何この小粋な手紙翻訳しましたみてーなの!?」
「え? 教授にメール送る時ってこんなもんじゃないのか?」
「そんなわけねーだろ! お前他の教授にも同じような変なメール送ってねーだろうな!?」
「送ってないよ流石に。4通ぐらいしか」
「送ってんじゃねーか! なんでお前入学一週間でそんなに教授にメール送ることあんの!?」
「そりゃ授業内容の質問とか色々あるだろ」
「まじなんでお前授業には真面目なの!? 普段そんなふざけてんのに!? あと最後のヘイグのせいでヘイグからメール来たみてーになってんじゃん! こんなの来たら迷惑メールに移動させるわ!」
「なんでだよ。ちゃんと大学のメールアドレスだからそんなことにはならないだろ。ほら見ろよ、ちゃんと『haig@kitazeki_u.com』って」
「じゃあダメじゃね!? 完全にヘイグからのメールだよそれ! お前なんで大学のメールアドレス勝手に変えてんの!? 学籍番号だったろ最初!」
「俺の学籍番号ヘイグだからさ」
「んなわけなくね!? 番号じゃねーしまず! ずっと誰なんだよヘイグ!? あとお前西のコンビニが開く時っていつだよ!? 常時空いてるわコンビニは!」
「いやお前、明日の12時に新しいコンビニできるだろ。駅の西口の方に。だから12時だよ」
「分かるわけなくね!? 知らねーしその情報! 西口の方にコンビニ新しくできんの!?」
「できるよ。田渕商店ってコンビニ」
「完全に個人経営じゃねーか! そんなよく分かんねーコンビニ基準で時間語んなよ! お前あとミシシッピ川も意味分かんねーからな!?」
相変わらずうるさいな大輔は。別にこれで伝わればいいだろうに。さて、俺は明日までにミシシッピ川に移動しないと。あれ、明日の12時って現地時間でいいのかな? まあ権藤教授も来るからそれでいいのか。アメリカとの時差って何時間なんだ? パスポートは昨日のうちに出しといたし、あとは航空券だな。さっき見たらとても出せる値段じゃなかったんだよなあ。250万て。ファーストクラスってそんなにするのかよ。権藤教授に出してもらうかなあ。
「じゃ、とりあえず送信っと」
「待てってバカ! これじゃ権藤も来ねーだろ!」
「なんだようるさいな大輔。俺が書いたメールに何か文句があるのか?」
「ありまくるし今全部言ったろ! 何聞いてたんだよお前!?」
「そりゃ高鳴る胸の鼓動を」
「誰と恋始まってんの!? いーからお前それ書き直せって!」
うるさいな大輔のやつは。別に権藤教授にリベンジしたいよってことが伝わればそれでいいだろ。なんでそれ以上が要るんだよ。もっと分かりやすくみたいなことか? 権藤教授にリベンジしたいよーって人ー? とか聞くとか? いやそれじゃ俺じゃなくて違うやつがリベンジすることになっちゃうな。じゃあもういいやこのままで。
「まずだな柊吾、お前のメールはとにかく意味が伝わりづらいんだよ。見本で編集してやるから貸してみ?」
「分かったようるさいな。送信済みメールのとこに入ってるから見てみろよ」
「OK送信済みメールな……送信済みじゃダメじゃね!? お前あれ送ったの!? まじで!?」
「そりゃ送るだろ。いつまでも下書きに入れておいたって仕方ないし。ずっと下書きに入ってるのはまだ10万字書けてない新作だよ」
「何お前なろう系作家とかなの!? まじかよ、あのまま送信しちゃったのかよ……」
「失敬な。ちゃんとヘイグをペトロフに変えて送ったよ」
「そこ変えても意味無くね!? 知らねー外国人なことには変わりねーじゃねーか!」
「でもペトロフはロシアでは割とメジャーな名前だぞ?」
「ロシアの名前だから言ってんだろ! 関係ねーもんもう! ヘイグはまだ敬具にかかってたけど!」
「ペトロフにはボルシチでもかかってるのかな」
「かけてやんなよそんなもん可哀想に! 何家族喧嘩でもしてんの!?」
「何言ってるんだよ。アナスタシアとの喧嘩に決まってるだろ」
「まずアナスタシアが誰か教えてくんね!?」
まあとりあえずこれで権藤教授を呼び出すことはできた。アメリカへの渡航日は権藤教授に出させるとして、後はどう倒すかだな。そこをちゃんと考えないとな。
そして翌日。俺は大きな崖がそびえ立つ岩場のようなところへ来ていた。あの後権藤教授からメールが返ってきて、とりあえずアメリカに行くのは意味が分からないから近場で目立たないところへ来いって言われたんだよな。せっかく初めてのアメリカ旅行楽しみにしてたのに。
「しっかし遅いな権藤教授。初デートには30分前に来いって教わらなかったのか?」
「まずデートじゃなくね!? お前よくクロゾーメ軍団の幹部と戦う前にそんな余裕こけんな!」
「いやまあだって、緊張とかしたって仕方ないじゃん。俺が権藤教授とチェスで戦うのは決定事項なんだし」
「待って今日の決闘チェスなの!? ボードゲーム!?」
大輔は崖の上から俺と話している状態。めちゃくちゃ声デカイなあいつ。俺と何メートル離れてるんだよまじで。離れていても心は一緒だよってか。やかましいわ。そのセリフ吐くほど離れてないだろ。
しかし権藤教授、何してるんだろう? 約束の時間は12時。もう今は12時0分15秒だ。普段学生には遅刻に厳しくするのに、自分が遅刻は良くないぞ。いや権藤教授の授業取ってないから知らないけども。
そんなことを考えていると、黒い球体が突然岩場に飛んで来る。なんだあれ? デカい鉄球? イ〇ディージョ〇ンズとかがよく追いかけられてるやつかな。あれなんでいつもあんなんに追いかけられてるんだろうな。変な趣味だ。
すると球体が消え、中から権藤教授が出て来る。あ、イン〇ィーのやつじゃなくてこいつか。ややこしいな。
「約束通り来たぞ、染谷柊吾」
「ようやく来たな、ゴンディー」
「なんだねその呼び方は!? 勝手にあだ名を付けないでもらえるかね!?」
「ああごめん、ちょっと鉄球に引っ張られて」
「さっきから君は何の話をしているんだね!?」
「ていうか遅いだろゴンディー。もう約束の時間から28秒も経ってるぞ」
「28秒は遅刻に入るのかね!?」
「入るだろ。少しでも俺との時間を長くしたいとか思わないの?」
「短ければ短いほど良いと思っているが!?」
「うーわ最低だ。彼氏の風上にも置けないわ」
「いつから私は君の彼氏になったんだね!? 何気に入学式の時からずっと私が君を性的に見ていると勘違いしていないかね!?」
「勘違いじゃないでしょ。事実でしょ。セクハラと結婚詐欺で訴えますよ」
「濡れ衣の余罪がどんどん増えていくんだが!?」
ゴンディーのせいでなんか戦うって雰囲気じゃなくなっちゃったな。でもこれは俺が望んだリベンジマッチ。なんとしてでもゴンディーを負かさないと。このために初心者用の将棋の本ちょっと読んだんだからな。2ページくらい。
「はあ……。もういい。とりあえず君は、私と戦いたいのだね?」
「最初からそう言ってるだろ。理解力欠乏症か?」
「そこまで言われるかね!? そもそも君は一度も私と戦いたいと口に出していないが!?」
「そういうのは俺から言うんじゃなくてゴンディーから言って欲しいだろ!」
「めんどくさい彼女か何かかね君は!? あとゴンディーと呼ぶのはやめてくれないかね!? 友達じゃないんだから!」
「え……! 友達以上ってコト……?」
「そういう意味じゃないが!? コトを片仮名で書かないでもらえるかね!? もうめんどくさいから始めようか……。チェンジ」
ゴンディーの体を再び黒いものが覆い、それが弾けてゴンディーの変身態、ヘアマニキュアゾーメが姿を現す。せっかちだな。まだゴンディーで遊びたかったのに。まあいいか。
「変身! 染髪マン!」
俺は染髪マンへと姿を変え、ゴンディーと向かい合う。
「さあ……始めようじゃないか」
「あ、ちょっと待って。今髪セットしてるから」
「いつ真面目にやるんだね君は!?」
うるさいな、髪セットしてるのは俺の意思じゃないぞ。金森さんが変身してからセットしなさい、さもなくばあの真実は全世界に拡散されるとか言うから。後半言ってたっけ。まあいいや、あの真実ってなんだろうな。高校生の時学校の帰りにコロッケ買ったらお釣りが5円のはずが10円だったことかな。結構暗いと見間違えるもんな。
「なんでコロッケの話をしているんだね君は!?」
「あれ? 俺の心の声聞こえてた?」
「しっかり口に出していたが!? いいから真面目にやってくれないかね!?」
「言われなくてもやるさ。ほーれっと」
俺は一瞬でゴンディーの後ろに回り込み、その背中に拳を叩き込む。さっきまで俺がいたところから今の俺の位置まで、雷が尾を引いている。
「ぐっ……! 何をした……?」
「いや、別に何をしたって言われても……。まあ英語と世界史は入念にやったけども」
「誰が今受験勉強の話をしているんだね!? 戦闘中だが!?」
「いや、受験勉強だって戦闘だろ」
「3年生の担任か何かかね!?」
ゴンディーがツッコミを入れる隙に、俺はまた後ろに回り込んで蹴りを入れる。飛んで行くゴンディーの前に回り込み、蹴る。後ろに回り込んで蹴る。回り込む。蹴る。回り込む。蹴る。回り込む。蹴る。ちょっとポテチを摘む。回り込む。蹴る。回り込む。ゴンディーの服の裾でポテチの油を拭く。蹴る。回り込む。蹴る。この繰り返しだ。
そうするうちに、ゴンディーはボロボロになって人間の姿に戻る。
「はあ……はあ……。染髪マン……。まさかこれほどの力とは……」
「違うぞゴンディー。今の俺はヘアセットをしたことでパワーアップしてる。マッシュにセットしてるから、今の俺は染髪マンマッシュだ!」
「染髪マンマッシュ……。恐ろしい力だ……。今日は負けを認めよう……」
「行くぞ! イナズマパンチッッ!!」
「ええ!? 今私負けを認めると言わなかったかね!? ええ!?」
俺の拳から放たれた雷は、ゴンディーを直撃。黒焦げになったゴンディーに合掌してから、俺は大輔のところへ戻った。
「おい柊吾、お前戦闘中に俺のポテチちょっと取らなかった?」
「取ったよ。なんでお前お菓子食べながら観戦モードなんだよ。人が必死で戦ってるっていうのに」
「いや必死じゃなくね!? ポテチ食って敵で油拭いてなかった!?」
「うるさいな、ぶっ飛ばすぞ」
「理不尽!!」
しかしなんかヘアマニキュアゾーメ倒せちゃったな。クロゾーメ軍団の幹部を倒せたってことは、しばらく怪人は出ないかな? でも幹部が何人いるかとか知らないからなあ。ゴンディーに聞いとけば良かったな。
まあいいや、とりあえずしばらくは平和だと思っておこう。




