第10話 軍団の目的と予約の電話
「おい柊吾! 柊吾! しっかりしろ柊吾!」
なんだうるさいな。人が寝てるって言うのに。なんか夢を見てた気がするんだよな。何かとても大切な……。
ああそうそう、スーパーでよもぎ餅を買い込む夢だ。確か明日が特売なんだよな。よもぎ餅の特売とか事前に決められるものなのかな。ああいうのって日持ちしないからその日に売れなかったら割引するものなんじゃないのか?
そんなことを考えながら目を開けると、焦った表情の大輔の顔があった。何があったんだ? 俺確かヘアマニキュアゾーメこと権藤教授と戦い始めたような気がしてるんだけどな。あ、そっちが夢? よもぎ餅買い込む方が現実か。
「大輔、俺のよもぎ餅は無事か?」
「まじ何の話してんのお前!? 吹っ飛ばされて病院運ばれて目覚ました第一声それ!?」
「病院……?」
大輔に言われて周りをよく見てみると、確かに病院だ。なんで俺病院にいるんだ? 今日内科検診の日だっけ?
「まあいいや。とりあえずよもぎ餅の無事を確かめに行くぞ」
「待てってバカ! よもぎ餅がどっから出て来たのか知らねーけど絶対今関係ねーだろ! 混乱してんの!?」
「いや全然平気だぞ。今なら一次方程式も解ける」
「逆に今まで解けなかったの柊吾!? よく北関大学受かったな!? いやお前いいからとりあえず聞いてくれって!」
何を大輔はそんなに焦ってるんだ。とりあえずさっき大輔が何か言ってたのを思い出してみるか。えーっと……。吹っ飛ばされて病院運ばれて目覚ましてみたいなこと言ってたな。吹っ飛ばされた? 誰に? 大輔?
「お前何俺のこと吹っ飛ばしてるんだよ」
「絶対俺じゃなくね!? 権藤教授だろ! お前は怪人になった権藤教授に吹っ飛ばされて気絶して、俺らが慌てて救急車呼んでそのまんま病院に運ばれたんだよ!」
「ごめん長くて聞いてなかった。笹かまがなんて?」
「するわけなくねそんな話!? 俺今この状況で笹かまの話してたら仙台好きすぎるって!」
「大輔くん、そのツッコミ合ってる!? なんかちょっと柊吾くんに発想引っ張られてない?」
お、美乃里もいたのか。わざわざ俺が目覚ますまで待っててくれた……いや違うなこいつ。多分授業飛ぶ口実見つけただけだ。さては嬉々として付いて来たな? その証拠に片手になんかドリンクみたいなの持ってるし。女子みんなあれ持ってるけどなんだよあれ。片手にドリンク持ってたら邪魔だろ。片手に持ってても役に立つのは握力鍛えるグリップみたいなやつだけだよ。あれの正式名称なんて言うんだろうな。後で大輔に調べさせよう。
「ところで柊吾くん、気づいてる?」
「美乃里がシャンプー変えたことか? 気づいてるに決まってるだろ」
「え、気づいてくれてたのー! うれしー! そうそう、今日から豚骨風味のシャンプーに変え……違うよ! そんなことじゃないよ! そもそも今日初対面だし!」
「今豚骨風味のシャンプーって言わなかった!? なんだそのラーメンみたいなシャンプー!?」
「だっていい匂いじゃん豚骨スープ。頭に付けてたらいつでも嗅げるよ?」
「価値観ぶち狂ってるな! 常時頭から豚骨スープの匂いしたら腹減って仕方ないだろ! 夏に水着着るためにダイエット中なのにそんなテロみたいなことしないでもらえる!?」
「待って柊吾お前ダイエット中なの!? 夏に水着着るために!? なんでそんな女子みたいなことしてんの!?」
「うるさいぞ大輔。くびれ欲しいだろくびれ」
「欲しくなくね!? 男でなかなかできねーだろくびれ!」
「まあ俺がくびれを手に入れるのを、首を長くして待ってればいいさ」
「別に待たねーし楽しみじゃねーし! くびれてどうすんだよ!?」
「そりゃお前、輝くビーチでごくごくビール飲んでな、そりゃもうくっびくび飲んでさ」
「クビクビうるせーって! なんか不安になるわ!」
「大輔くん黙れる? 今私結構大事なこと言おうとしてるよ?」
「そうだぞ大輔。せっかく美乃里が大学生でも稼げるビジネスのやり方を教えてくれようとしてるのに」
「ネズミ講でしょそれ!? 私まだ引っかかってないから!」
「これからも引っかかんないでくんね!? 何これから引っかかる予定みてーな言い方してんの!?」
「もーうるさい大輔くん! いーから言わせなさい!」
美乃里はバッグから小さな鏡を取り出して、俺の方に向ける。お、いい鏡だな。リサイクルショップとかに出したら600円ぐらいになるんじゃないか?
「柊吾くん、髪の毛が真っ黒だよ!」
「え、俺の髪の毛って黒幕だったのか。フィクサーってやつか。フィクサーってなんかピ〇サーみたいだよな。おもちゃとか動き出したりするのかな」
「凄いスピードで脱線するじゃん! 柊吾くん見て!? 髪色!」
「おもちゃなら髪色変わらないだろ。あ、でも女の子向けの美容室ごっこ用の人形とかなら髪色変わるやつもあるのか」
「おもちゃの話してないから今!」
「おもちゃの話って英訳するとトイストー」
「それ以上は言わないでね!? お願いだから! あとそろそろ危機感持てる!?」
……あ、俺の髪色か。確かに言われてみれば黒いな。不自然なくらい真っ黒だ。ああ、ヘアマニキュアゾーメになんか食らったのか。白髪染めだよな多分。あーあ、まだ言っても染めたばっかりなのになあ。また金髪にしてもらわないと。
「柊吾お前、呑気してるけど体は大丈夫なのかよ? めちゃくちゃ吹っ飛ばされてたぞ!?」
「そんなにか? じゃあ鳥人間コンテスト出たらいい線行くかな」
「どーでもいいわそんなこと! 体は大丈夫なのかって!」
「魚はタイ料理なのかって?」
「言ってねーよ! 調理方法によるだろ!」
「大輔くん、アクアパッツァってタイ料理?」
「ちげーよイタリア料理だよ! 美乃里ちゃんも入ってくるのやめてくんね!? 話ややこしくなるわ!」
「話を戻すぞ。タイ人が現れたらパクチーをくれるアプリについてだけど」
「どこまで戻ってんの!? お前それ俺がアプリ作った時のボケだろ! 柊吾のそのやたら強いタイ推しは何!?」
「まあ体は大丈夫だよ。なんか急所外れてたみたいなんだよな」
「急に本筋に戻んないでくんね!? テンションの切り替えが間に合わねーから!」
「大輔くん、体って音読みだとタイだよね」
「だから何!? 無理やりタイに話戻さないでくんね!?」
そんなに心配されるくらい吹っ飛ばされたのか俺は……。権藤教授、なかなかやってくれたな。まあクロゾーメ軍団の幹部なんだもんなあ。そりゃ強いか。
ていうか幹部とエンカウントするの早くない? 俺まだほとんど怪人と戦ってないよ。ヒーロー番組なら相当序盤だぞ? ちゃんと戦ったのシャンプーゾーメとコンディショナーゾーメだけだし。あの一瞬で散ったあんま覚えてないやつは戦ったうちに入らないだろうし。なんだっけあいつ。部分入れ歯ゾーメとかだっけ。
「急所は外れてたにしても、相当な勢いだったぞ!? 大丈夫なのかよ骨とか内臓とか!」
「そうだよ柊吾くん! 慢性的な倦怠感とか大丈夫なの?」
「美乃里ちゃん多分それちょっとちげーわ! 内科のやつだわ質問が!」
「骨とか内臓とかは多分大丈夫そうだな。どこも特に動かせないほど痛いとかは無いし。でも慢性的な倦怠感と軽い微熱が」
「風邪じゃねそれ!? そんな症状いいって今! むしろなんでそれしかねーの!?」
「そういや柊吾くん、権藤教授にクロゾーメ軍団の目的について聞き出してきたよ」
「すげーな美乃里ちゃん!? あの状況で!? 根性えぐくね!?」
「結構簡単だったよ? 大福あげるから教えてくださーいって言ったらすぐ教えてくれた!」
「子どもみてーな釣られ方してんのに餌渋すぎるって! 何そのシルバーチルドレン!?」
「大輔、金の卵って英訳するとゴールドポーチドエッグだよな?」
「ちげーしなんで今言ったのそれ!? あとさらっと卵調理してんのはなんで!? いやお前、クロゾーメ軍団の目的気にならねーのかよ!?」
ああ、そういや気になるっちゃ気になるよな。忘れてわ。あと大輔にあの握力鍛えるグリップみたいなやつの正式名称調べさせるのも忘れてたわ。後で言わないと。
「あのね柊吾くん、クロゾーメ軍団の目的は、世界中の人の髪色を黒にすることらしいの! そして行く行くは世界から色を無くして真っ黒な世界にして、その真っ黒な世界で会社を作って『ブラック企業』って名乗るのが目標らしいよ!」
「最後のやつ要らなくね!? 何本当の意味でブラック企業名乗ろーとしてんの!? 黒いビルでも建てときゃいーじゃん!」
「いや、俺なら『株式会社ブラック』って名前で企業するな」
「いーんだよ今ややこしいブラック企業の作り方は! 脱線が激しいって今回!」
「事業内容は『ナマモノ』のシール作りだ」
「地味すぎるって! あとお前が作りたいの『天地無用』のシールじゃなかった!?」
しかしクロゾーメ軍団、世界を真っ黒になんてそんな尖った日焼けサロンみたいな目標掲げやがって……。どうするんだよみんながみんな湘南出身みたいになったら。サーフィンとか流行りそうだな。
「大輔、美乃里、俺はとりあえずこの白髪染めを落とせないか相談してみる。二人は俺のことは気にせず戻ってくれ。美乃里はちゃんと授業受けて、大輔はちゃんと退学手続きを済ませるんだ」
「勝手に俺退学にしないでくんね!? なんで俺退学なの!?」
「だって大輔くん、さっき教授ぶっ飛ばしてたじゃん」
「そーいや忘れてた……。うわ待って、なんか学生課からメール来た! やっべ俺ちょっと行ってくるわ!」
じゃあな大輔。短い間だったけど、お前と過ごした大学生活は忘れない。たった3日間だけど、お前のことは多分忘れない多分。知らないけど。
さて、俺は金森さんに電話かけて、すぐ白髪染め落とせるか聞かないとな……。
「ん? 美乃里は学校戻らないのか?」
「んー、今日仮登録してた授業、元々全部違うなーって思ってたから。飛んじゃおっかなーって。柊吾くんだって一人で病院いても寂しいでしょ? 痛みは感じてないみたいだけど、お医者さんはすぐ動ける状態じゃないって言ってたよ?」
「そうなのか……? あんま実感無いけど……。まあそれならちょっとゆっくりしてくか」
「そーだね! 私リンゴ剥いてあげるよ! さっきそこで黄金のリンゴ生ってるの見つけたんだよね」
「待ってそれ死ななくなるとかそういうやつじゃない!? 神話ご用達のアイテムじゃない!?」
とりあえず美乃里が普通のリンゴを買いに出たタイミングで、俺は金森さんに連絡をして美容室の予約を取る。しっかしこの白髪染め、ちゃんと落ちるのかな?




