第46話:九鴉(くろう)
【皇都・市街地】
戦場はいつの間にか皇城の跡地を離れ、蹂躙された市街地へと移っていた。空を覆う邪神マガツヒが放つ慈悲なき光に晒され、皇都の街並みは音もなく白き灰へと還っていく。
『八雷神』の力を以てしても、マガツヒの神威はあまりに隔絶していた。クロウの放つ紫電は、マガツヒが指先を微かに動かすだけで霧散し、逆に放たれる光の衝撃がクロウを容赦なくアスファルトへと叩き伏せる。
「我を止めるにはあまりに弱き者よ。己の無力を嘆きながら、死ぬがいい。心配するな。間もなくこの世界から、痛みも、悲しみも、形あるものすべてが消え去り、何もない白き世界となる」
マガツヒの冷徹な宣告が、大気を震わせて響く。
瓦礫の山に叩きつけられたクロウの装甲は至る所が剥がれ落ち、内部機構が悲鳴を上げている。だが、雄介は消えかかる意識の中で、深く、深く深呼吸をした。
(……ここは、俺がもともといた世界じゃない)
雄介は、管理者と交わした「ある契約」と、その報酬を思い出す。それは誰に語ることもない、彼だけの胸に秘めた約束。
この世界に来てから、まだ僅かな年月しか経っていない。それでも、あの喫茶店で、この街で見た人々の笑顔は、彼にとって何物にも代えがたい「護るべきもの」になっていた。
(たとえ異邦人でも……俺はこの人たちの明日を、無になんてさせない!)
雄介は自身の生命そのものを燃料として、鏡の核を暴走させる決意を固める。
装甲の隙間からは赤い火花が激しく散り、その身体は限界を超え、今にも崩壊しそうだった。
だが、男は止まらない。
彼は深く、地を這うように身体を屈めた。すべてのエネルギーを、その右脚へと収束させる。
「これで……最後だ」
噴き出す黒い蒸気が大気を震わせ、男は邪神を見据える。
すべてを賭した一撃が放たれようとした瞬間、視界は爆発的な光に包まれた。
そして、世界は白い光に包まれて――。




