第45話:降臨(こうりん)
【皇城・玉座の間】
『八雷神』の力は、教祖ナヤーの想定を遥かに凌駕していた。
クロウが放つ八条の紫電は、ナヤーが模倣を試みる隙すら与えず、その外殻を原子レベルで焼き切り、漆黒の肉体を貫いた。
「——これで、終わりだ!」
クロウの渾身の拳がナヤーの核を粉砕する。かつて無敵を誇った教祖は、絶叫とともに崩れ落ちた。
だが、その瞳に宿ったのは敗北の悔恨ではなく、狂信的な悦びだった。
「……クク、ハハハ! 見事だ、クロウ。貴様のその『正義』こそが、最後の鍵となったのだ……!」
「何を言っている……?」
「四方の龍穴には、すでに十分な負の感情が満ちた。だが、その濁流を『中心』へ導くには、強大な依代の死と、その瞬間に生まれる凄絶な怨念が必要だったのだ……。我が死を以て、天の岩戸は開かれる!」
ナヤーの身体から、どす黒い瘴気が噴き出し、空に渦巻く四方のエネルギーと共鳴を始めた。皇都全体が、これまでとは比較にならない不気味な震動に襲われる。
「神よ……千年の眠りより覚め、この愚かな世界を我が色に染め上げよ! 冥王、『マガツヒ』よッ!!」
絶叫と共に、ナヤーは自身の肉体もろとも爆砕した。
その瞬間、皇都の空から色が消えた。
皇城が音を立てて崩れ去り、大地の底から溢れ出したのは闇ではなく、目を焼くような「白き光」だった。
世界は白く塗り潰されていた。
空を覆うのは、慈悲なき光を放つ「邪神マガツヒ」。
その姿は、クロウと似た背格好でありながら、背後には幾重もの光輪を背負い、存在自体が地上に終わりの鐘を鳴らしていた。美しく、しかし決定的に禍々しいその神は、空に浮遊したまま静かに地上を見下ろしている。
「……ようやく、この檻から解き放たれたか」
マガツヒが言葉を発するたび、周囲の瓦礫が光に溶け、無へと還っていく。
灰色の空の下、絶望的な光に照らされながら、クロウはついに運命の地点に辿り着いた。




