第43話:皇城(こうじょう)
【皇城・大極殿】
「神の座」を掲げる皇城の静寂は、無慈悲に引き裂かれた。
正面突破を果たしたのは、杖を突いたあの老人ではない。漆黒の甲殻に身を包み、鋼をも容易く引きちぎる巨大な角を冠した怪人——エルク教団の頂点に君執する教祖、兜虫魔人ナヤーであった。
「……脆いな。人の築いた威信など、この程度のものか。救いなき羊どもに、真の終焉を授けてやろう」
皇宮警察の精鋭たちが銃火器で応戦するが、ナヤーの堅牢な外殻の前には火花を散らすことすらできない。ナヤーは一振りで兵士たちを薙ぎ払い、蹂躙しながら奥へと進む。その隙に皇宮警察は死に物狂いで皇王を避難させることに成功するが、もはや皇城にナヤーを止める術を持つ者は残されていなかった。
ナヤーは静まり返った玉座の間へと辿り着く。彼は不敵な笑みを浮かべ、玉座の前で両腕を広げた。
「始めるとしよう。世界を塗り替えるための、聖なる共鳴を。これこそが、我が教団の悲願なり」
ナヤーが禍々しい詠唱を始めると、皇都の四方からどす黒い負のエネルギーが皇城へと集束し始めた。四方の龍穴で繰り広げられている特務局と四天王の凄絶な死闘。そこで生まれる「恐怖」「絶望」「憎悪」が、教祖ナヤーを介して皇城の地下に眠る巨大な霊脈へと注ぎ込まれていく。
「もっと叫べ、もっと抗え。貴様らの死が、真なる神を招く香火となるのだ!」
その時、儀式を妨げる爆音とともに、大極殿の壁が粉々に砕け散った。
降り注ぐ瓦礫を切り裂いて現れたのは、猛烈な勢いで突進する漆黒のマシン——『天の鳥船』。
「ナヤーッ!!」
バイクから飛び降り、玉座の間に降り立ったのは、冥界の戦士クロウ。
余計な装飾を排した、漆黒の流線型の装甲。マントも盾も持たず、ただ己の拳と鏡の力を頼りに立つその姿は、教祖ナヤーの放つ圧倒的な威圧感に一歩も引くことはない。
「……来たか、迷い鳥。だが遅かったな。四方の叫びは、すでに我が掌中にある」
「それはどうかな。お前の独り芝居は、ここで終わりだ」
轟ッ、と二人の間で雷鳴が響き渡った。紫の空から降り注ぐ稲光が、玉座の間を白く、鋭く照らし出す。
ナヤーの巨大な角が不吉な放電を始め、クロウのバイザーには宿敵の姿が鮮烈に映り込む。
一瞬の静寂。
そして雷光が闇に消える瞬間、二人は同時に、殺意の弾丸となって床を蹴り出した。




