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Crow  作者: むー2
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第39話:氷結(ひょうけつ)

【皇都・東の龍穴】

貯水槽の九割が硬い氷に閉ざされ、濁流は静止した。かつて縦横無尽に泳ぎ回っていた鮫魔人シャークは、今や氷の迷宮へと引きずり出され、その機動力を奪われている。

「……チョこざいな。水がなくとも、貴様らを噛み殺すことなど造作もないわ!」

シャークは巨大な三叉矛を振り回し、氷壁を粉砕しながら青龍へと突き進む。千葉中佐の周囲に残った隊員は、もはや数えるほどしかいない。

「青龍、状況を報告せよ」

「——冷却コア、最終段階。龍穴の完全封印まで、あと120秒。ですが……千葉中佐、本機の駆動系は凍結の余波で完全に固着。迎撃行動は不可能です」

「……分かった。ここからは、俺たちの仕事だ」

千葉中佐の強化外骨格も、水の凍結時の圧力で各所が歪み、警告音が鳴り続けている。それでも彼は、残された右腕の振動ブレードを起動し、シャークの前に立ち塞がった。

「来い、化け物。ここはもうお前の海じゃない。……俺たちの墓場だ」

激突。シャークの圧倒的なパワーに、千葉の装甲は次々と剥ぎ取られていく。しかし、千葉は倒れない。部下たちの遺体が氷の中に閉じ込められ、自分を見つめている。ここで退くわけにはいかなかった。

「……青龍、最後の命令だ。私が奴に噛みつかれた瞬間、動力炉を暴走させ、凍結エネルギーを一気に開放バーストしろ。龍穴ごと、すべてを永久凍土に沈めるんだ」

「——千葉中佐、それではあなたは……」

「……警察官に、二度の命令をさせるな」

シャークが勝利を確信し、大きく口を開けて跳躍した。千葉はその顎の中に、自ら腕を突き入れた。

「捕まえたぞ、シャーク……!」

「なっ……貴様ッ、何を笑って……!」

千葉の冷徹な微笑みが、青白い光に飲み込まれた。

「——了解。東の龍穴、完全凍結。……さようなら、千葉中佐」

キィィィィィィィンッ!!

貯水槽全体が、絶対零度の閃光に包まれた。シャークの絶叫さえも一瞬で氷に閉じ込められ、龍穴から溢れようとしていた災厄は、巨大な氷の結晶となって完全に沈黙した。


【皇都警察庁・対魔特務局 総司令部】

東のモニターから、青龍の機体バイタルが完全に消失した。

静寂。ただ、ノイズ混じりの音声記録だけが、司令部に静かに流れる。

『……こちら東の、青龍。……任務、完了。……本機はこれより……氷の墓標として……龍穴を……守護……し……』

プツリ、と音が途絶える。モニターには、西、南に続き、東の地点にも「CLEAR」の文字が灯る。

「……千葉。……貴様まで、勝手に行きおって」

磐城長官が帽子を深く被り直し、その顔を隠した。

霧島冴子は、流れる涙を拭うこともせず、震える声で最後の方角を告げる。

「……北です。……藤岡大佐と玄武が……最後の激震の中にいます」

北の空。そこでは、皇都を真っ二つに割らんとする地響きが、今まさに最高潮に達しようとしていた。

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