第38話:深淵(しんえん)
【皇都・東の龍穴(湾岸地下・巨大貯水槽)】
東の龍穴から溢れ出した濁流は、地下の巨大神殿を思わせる貯水槽を、底の見えない深海へと変えていた。暗濁とした水の中に潜むのは、四天王の一角、鮫魔人シャーク。
「ホーッ……。水に溺れる陸のアリどもが、この私に挑もうとはな」
千葉中佐率いる青龍チームは、水中活動用の強化外骨格を装備し、重い足取りで貯水槽の底に立っていた。だが、水の抵抗は彼らの動きを鈍らせ、逆にシャークにとっては、あらゆる方向が攻撃経路となる。
「右だ! 散開しろ!」
千葉の号令が無線に響くが、シャークの速度はそれを上回る。暗闇から突如として現れる巨大な顎が、隊員を強化外骨格ごと噛み砕いた。血が水中に霧のように広がり、シャークの狂気を加速させる。
中央に鎮座する『青龍』は、内蔵された冷却コアを臨界点まで励起させていた。
「——凍結プロセス、開始。機体周囲、マイナス180度。これより本機は、龍穴封印のための固定砲台となります」
青龍の足元から、青白い結晶が這い出すように広がっていく。波打つ水が瞬時に硬い氷へと変わり、パキパキと大気を震わせる音が水中に響く。しかし、この大規模凍結を行う間、青龍は一切の防御行動がとれず、無防備な「氷の核」と化す。
「いいか、奴を青龍に近づけるな! 弾丸が尽きたら体当たりでもいい、我々の命を盾にしてでも、この氷のフィールドを完成させるんだ!」
千葉中佐が叫び、自らシャークの突進の前に割って入る。水中銃から放たれる振動弾がシャークを牽制するが、魔人は嘲笑うかのように水流を操り、隊員たちの陣形を内側から崩していく。
「ホーッ! その人形ごと、氷の彫刻にしてやろう!」
シャークの三叉矛が、防壁となっていた隊員の胸部を貫く。
「……行か、せん……!」
瀕死の隊員は、貫かれたままシャークの腕を掴み、最後のリミッターを解除した。
「中佐……青龍を……頼みます……!」
水中で起きた小さな爆発。その光の中で、千葉中佐は歯を食いしばり、次々と散っていく部下たちの犠牲を背負って、氷の結晶が龍穴を覆い尽くすその瞬間を、ただ一点に見据えていた。




