第2話:一撃(いちげき)
「死ねッ、黒羽の邪魔者が!」
蜘蛛魔人が叫び、指先から鋼鉄をも切り裂く粘着糸の弾丸を連射する。クロウは紙一重でそれらを回避し、倉庫の支柱を蹴り上げ、魔人の側面へと回り込んだ。
「……貴様、何者だ」
クロウのマスク越しに、低く、冷徹な声が響く。
「我らは、来るべき真の夜を待つ『白き邪神』の尖兵よ! 貴様のような、どこの馬の骨とも知れん男に語る名などない!」
魔人の鋭い肢が、クロウの漆黒の胸部装甲を火花と共に弾き飛ばす。クロウは衝撃を殺しながら後退し、赤い単眼を細めた。
(邪神の尖兵……管理者が言っていた通りか)
「この世界には、お前のような怪人が他にもいるのか?」
クロウは問いながら、掌に力を込める。授けられた力はまだ、彼自身の身体に馴染みきっていない。しかし、その「取っ掛かり」の感覚が、敵の殺気に呼応して熱を帯びていく。
「カカカッ、無知な男よ。皇都の闇には、すでにお前たちが想像もできぬほど多くの『同志』が潜んでいる。貴様が守ろうとするこの世界は、遠からず我が主の慈悲——すなわち死によって塗り潰されるのだ!」
魔人が興奮に身を震わせ、大きく口を開く。
「喜べ、貴様もその糧にしてやろう!」
「……そうか」
クロウが腰を落とし、地を這うような低い構えに移行する。その周囲の大気が、不自然なほど静まり返った。
「組織がある。数も多い。そして、狙いは世界の終焉……。確認は、それで十分だ」
「何だと……?」
「お前たちが世界を終わらせるというのなら、俺の『転生』を奪った契約も、無駄ではなかったということだ。——失せろ、害虫」
クロウの全身から、漆黒の蒸気のようなエネルギーが噴き出す。
それは管理者に授けられた「異世界の力」が、彼の怒りに触れて初めて牙を剥いた瞬間だった。
焦った蜘蛛魔人が、必死に全身から糸を放ち、クロウを拘束しようと躍起になる。だが、覚悟を決めた「カラス」の動きを止めるには、その糸はあまりに細すぎた。




