第35話:白光(びゃっこう)
白虎の加速に翻弄され、自慢の羽を数枚切り落とされたオウルは、その顔を醜く歪めた。
「……小癪な。その鉄の獣を動かしている『脳』を叩けば、すべては終わる!」
オウルは空中の白虎を無視し、急旋回して指揮車両——小林中佐が座る位置へと狙いを定めた。
「死ね、指揮官ッ!」
オウルが超音速の急降下を開始する。
「中佐! 逃げてください!」
隊員たちが叫ぶが、白虎は陽動と知りながらも、優先プロトコル「指揮官および隊員の防衛」を最優先させた。加速装置を無理やり逆噴射させ、白虎はオウルの進路に割り込む。
ガシャァァァァァン!!
オウルの鋭い爪が、白虎の胸部装甲を貫き、内部の駆動系を無惨に引き裂いた。火花が飛び散り、白虎の動きが目に見えて鈍くなる。
「ハハハ! 壊れたな! 誇り高き白き虎が、ただの鉄屑に成り下がったぞ!」
中破し、片腕を垂れ下げる白虎。もはや加速装置は沈黙し、自立走行すらままならない。オウルは勝利を確信し、最後の一撃を加えるべく再び上空へと舞い上がった。
「……計算通りだ、魔人。貴様は、私たちが『生身』であることを侮りすぎた」
小林中佐が、血の混じった唾を吐き捨て、不敵に笑った。
小林は破壊された車両から這い出し、あえてオウルの降下軌道上に自らの体を晒した。降下してきたオウルの爪が、小林の肩を深く、深く貫通する。
「……捕まえたぞ、梟」
「な、何だと……離せ、人間!」
小林は激痛に意識が飛びかけながらも、予備の電磁拘束具を自分の腕ごとオウルの脚に叩きつけた。磁力が発動し、二人を一つの肉塊として固定する。
「撃てぇぇぇ!! 白虎!!」
「——了解。最終出力を、開放します」
白虎が残った右腕の『カドゥケウス砲』を、ゼロ距離でオウルへと向けた。小林を、そして白虎自身をも飲み込みかねない禁断の射撃。
まばゆい白光が爆発し、西の空を昼間のように照らし出した。
【皇都警察庁・対魔特務局 総司令部】
静寂が支配するモニター室。誰もが息を止め、西の信号を見つめていた。
そこへ、ノイズで途切れがちな通信が響く。
『……こちら西の、白虎チーム……。西の龍穴、死守。……任務、完了……』
通信の奥で、誰かの激しい咳き込みと、金属が崩れる音が聞こえる。
『……小林中佐以下、生存者……数名……。繰り返す、任務……完了……』
プツリ、と通信が途絶えた。
モニターに表示されていた白虎のバイタルサインが、緩やかに「SILENT(機能停止)」へと変わる。
「……小林。見事だった」
磐城長官が深く帽子を被り直し、震える拳を隠した。
西の竜巻は消えた。だが、それはあまりにも重い、命の対価だった。
霧島冴子は、画面から消えた白虎の光点を見つめ、唇を血が出るほど噛み締めていた。
「……あと、三箇所」
その時、今度は南の空が、不気味に赤く染まり始めた。




