表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Crow  作者: むー2
34/50

第32話:予兆(よちょう)

アミティエの定休日。雄介はおやっさんとくみと共に、少し足を伸ばして穏やかな海辺へと来ていた。

雲一つない青空の下、寄せ返す波の音と、遠くで遊ぶ子供たちの無邪気な声が響く。おやっさんが淹れた水出しコーヒーを飲みながら、三人は砂浜に座り、贅沢な時間を過ごしていた。

「いい休日だな、雄介。たまにはこういう風に、何もしない時間も必要だ。……なあ、聞いてるか?」

「えっ、あ、はい。……本当に、いい場所ですね。……俺、この街に来て、アミティエで働けて、本当に良かったです」

「何改まって。雄介さんがいないと、お店回らないんだから。これからもビシバシ働いてもらいますからね!」

えりが拾い集めた色とりどりの貝殻を太陽に透かして笑う。雄介はその横顔を、記憶に深く刻み込むように静かに見つめていた。

(……どうか、この笑顔が、明日も明後日も続きますように……)


その瞬間、世界から音が消えた。

海鳥が鳴き止み、波の音さえも遠ざかる。空の色が、中心からドロドロとした禍々しい紫色に変色し、太陽が毒々しい光を放ち始めた。

「な、何……? 空が、腐っていくみたいだわ……!」

おやっさんとくみが立ち上がる。

紫の空に、鏡が割れるような音と共に巨大な亀裂が走った。そこから現れたのは、皇都全域を見下ろすナヤーの巨大な幻影だった。その声が、皇国の空気を震わせ、人々の鼓動を直接掴むように響き渡る。

『皇国の人々よ。余の名はナヤー。今この時、世界の終焉を告げる』

ナヤーの指が、皇城を中心とした四方の地点——「龍穴」を指し示す。

『皇城を囲む四方に、我が精鋭——四天王を配置した。これより24時間以内に、すべての魔人を排除してみせよ。さもなくば、四方の龍穴が連動し、地震、洪水、火事、竜巻……すべての災厄が同時に皇都を襲い、この地を跡形もなく消滅させる。……これは、神を迎えるための、わずかな余興だ』

宣戦布告。皇都全域がパニックに陥り、遠くの街並みから悲鳴が聞こえ始める。


「……雄介さん、あれ、一体……! 夢を見てるの……?」

震えながら空を見上げるくみの肩に、雄介は静かに手を置いた。その瞳には、すでにアミティエの店員としての穏やかさはなく、冷徹なまでの「覚悟」が宿っていた。

「おやっさん、くみちゃん。ごめん……アミティエに、忘れ物をしたのを思い出した。……俺、戻らなきゃ」

「えっ、雄介さん!? こんな時に何を言ってるの! 一緒に避難しないと!」

「すぐに行くから。……大丈夫。必ず、後で合流しよう」

雄介は一度だけ二人を見て、優しく、だが決別を告げるように微笑んだ。

そして、二人を振り返ることなく砂浜を走り出す。

物陰に隠しておいた**『天の鳥船』**に跨り、フルスロットルで加速する。

「……行こう。お前を倒せるのは、俺だけだ」

漆黒のマシンが咆哮を上げ、紫に染まった空の下、戦場へと化す皇都の中央へと突き進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ