第29話:剛腕(ごうわん)
「ほう、警察のデク人形か。……無駄なことを。その鈍重な体で、私の守りを崩せると——」
キングタートルが首を引っ込め、完全防御の姿勢をとる。
だが、玄武は無言のまま、その巨大な両腕を魔人の甲羅の端にかけた。
【モニター室】
「玄武、パワー最大出力。……ひっくり返せ!」
小野寺の叫びと共に、玄武の背面スラスターが猛烈な蒸気を噴き出す。
「ぬ、ぬぅぅ……何だ、この力は!? 馬鹿な、私の重さを持ち上げるだと!?」
「——対象を、反転させます」
玄武の剛腕が、数トンはあるキングタートルの巨体を無理やり浮かせた。ミシミシと大気が軋むような音を立て、ついに魔人の体が宙で一回転し、無防備な腹部を天に晒して大地に叩きつけられた。
「ぎゃあああッ! お、おのれぇ……!」
手足をバタつかせ、自力で起き上がれないキングタートル。
「……今だ」
モニター室で磐城が低く呟く。
クロウは『天の鳥船』のエンジンを最大まで吹かし、その加速を乗せて跳躍した。
空中で『八咫の鏡』が深黒の光を放ち、全てのエネルギーが右脚に集束する。
「お、やめろ、来るな! ナヤー様ぁぁッ!」
腹部という唯一の弱点に、クロウの超航空キックが突き刺さった。
ドォォォォォォォン!!
寺院の空を、黄金色と漆黒の炎が混ざり合った爆炎が焦がす。
爆風が収まり、静寂が戻った境内で、玄武がゆっくりと立ち上がる。
クロウは、傷ついた五重塔を見上げ、一度だけ短く頷くと、玄武の側を静かに通り過ぎていった。
玄武は、去りゆくクロウの背中に向かって、重厚な金属音を一度だけ鳴らした。それは、四方全ての守護が完了したことを告げる「勝鬨」のようでもあった。




