第21話:挙國(きょこく)
皇都警察庁、最上階の特別会議室。
巨大なモニターには、駅構内で人知れず戦い、一度も己の正体を明かすことなく立ち去る漆黒の戦士の記録映像が流されていた。
重苦しい沈黙を破ったのは、警察庁長官・磐城であった。
「——我々は、彼に甘えすぎていたのではないか」
磐城の鋭い視線は、映像の中の傷ついた戦士に注がれている。
「これまで幾多の市民、そして我が部下たちが、彼の介入によって命を救われた。彼はたった一人でこの街を護る側に立ち続け、公的な支援も称賛も得ぬまま戦ってきた。だが、それも今日までだ」
超常現象対策室長、霧島冴子は、その言葉を待っていた。彼女は誰よりも近くで、クロウが孤独な戦士として、その身を挺して日常を繋ぎ止める姿を見てきた。
「彼は排除すべき怪物などではありません。我らと同じ、この国を護る意志を持つ『同志』です。今までは彼一人に重荷を背負わせてきましたが、これからは我々警察も、彼と共に『護る側』の戦力として並び立たねばなりません」
霧島の力強い言葉に応えるように、磐城長官が深く頷く。
「その通りだ。本日、皇の勅命による『対魔特別緊急動議』が全会一致で可決された。これは単なる組織改編ではない。人類が、漆黒の戦士と共に戦う覚悟を決めた宣戦布告である」
1.対魔特務局の創設: 霧島冴子を局長とし、クロウとの戦術的連携を最優先事項とする。
2.特別鎮圧機動隊の再編: 魔人の攻撃に耐えうる最新防具と、改良型振動銃『カドゥケウス改』を全隊員に配備。
3.四方諸神シリーズ: 科学技術研究所が開発した、人型アンドロイド「淤加美」の意志を継ぐ後継機。皇國の技術を注ぎ込んだ4体が、クロウを支える「翼」として実戦投入される。
磐城は立ち上がり、集まった幹部たちを見据えて宣言した。
「これより、我々は彼の背中を預かる。彼と共に、この災厄を撃ち砕くのだ」
一方、奈落の如きエルクの本拠地。
教祖ナヤーは、皇都から流れ込むエネルギーの質が、単なる「恐怖」から「抵抗の意志」へと変化していることを敏感に感じ取っていた。
「ほう……。人間ども、抗う牙を研いできたか」
ナヤーの真の目的は、人々の死や恐怖から生じる負の感情、そして絶命の瞬間に放たれる生命エネルギーを皇都に集約させること。その先に待つ「大いなる儀式」の成就に向け、収穫を停滞させるわけにはいかなかった。
「団結すればするほど、それが崩れた時の絶望は深くなる。良かろう、収穫の刻を早めるとしよう」
ナヤーが背後の闇へ向かって杖を振るうと、これまでの魔人たちを遥かに凌ぐプレッシャーを放つ、四つの巨大な鼓動が響き始めた。
「更なる『災厄』を放て。皇都を、負の感情が渦巻く巨大な生贄の祭壇とするのだ」
光と影。双方がその戦力を最大まで引き上げ、皇都を舞台にした決戦の幕が、静かに、だが確実に上がろうとしていた。




