第18話:犠牲(ぎせい)
「チッ、邪魔が入ったか。死ねぇいッ!」
グラスホッパーが再び跳躍し、連続キックを放つ。
だが、千葉中佐の前に立ち塞がる「黒い影」——科学研究所が放ったプロトタイプ・アンドロイド『淤加美』は、一歩も引かない。
ゴォン! ゴォン!
肉体がぶつかり合う音ではない。金属が歪み、火花が散る衝撃音。
淤加美は、その内部機構を破壊されながらも、グラスホッパーの脚を三度にわたって正面から受け流し、あるいは掴み取った。
「な、なんだこいつは……!? 痛覚がないのか!?」
焦る魔人。淤加美の装甲は剥がれ、人工血液が黒く地面に滴る。
しかし、淤加美の電子頭脳には、小野寺所長から与えられた唯一の絶対命令が刻まれていた。
『市民を、そして前線の兵士を、一人として死なせるな』
淤加美は折れかけた右腕でグラスホッパーを強く抱き込み、零距離で固定。
「……ロック、完了。カドゥケウス、最大出力」
「やめろ、離せ! 貴様、自分ごと……!」
「排除を開始します」
無機質な声と共に、淤加美の胸部から改良版カドゥケウスの高周波振動が迸る。
魔人の細胞が沸騰し、叫び声すら上げられぬまま、グラスホッパーは淤加美の腕の中で粉々に爆散した。
爆風に煽られ、倒れ込む鉄の体。
駆け寄った千葉中佐が抱き起こしたとき、淤加美の顔面パーツは半分以上が消失し、剥き出しの回路が虚しく火花を散らしていた。
「……千葉中佐……」
「しゃべるな! 今、修理班を……!」
「……私は……人間を守る……『勤め』を……果たせましたか……?」
その問いに、千葉は震える声で答えた。
「ああ……。果たした。お前は、立派な戦士だ」
その言葉を聞き届けるように、淤加美の瞳の赤い光がフッと消える。
一人の「黒い影」の自己犠牲により、御苑に束の間の静寂が戻った。




