第17話:襲来(しゅうらい)
平和な日曜の皇都御苑。
家族連れやランニングを楽しむ人々で賑わうその場所に、不気味な排気音が響き渡った。
「なんだ、暴走族か……?」
一人の男が振り返った瞬間、視界を過ったのは緑色の閃光。
蝗魔人グラスホッパーが、不気味に蠢く有機的なバイクに跨り、群衆の中へと突っ込んできたのだ。
「ヒャハハハッ! 逃げろ、跳ねろ、潰れろ!」
逃げ惑う人々。だが、グラスホッパーのバイクは、逃げる人々の背後から無慈悲にその身体を撥ね飛ばし、路上のベンチごと人間を粉砕していく。
逃げ遅れた女性が転倒し、その喉元にグラスホッパーの鋭い爪が振り下ろされる。
悲鳴は一瞬で断たれ、鮮血が御苑の芝生を赤く染めた。かつての憩いの場は、瞬く間に阿鼻叫喚の地獄へと変貌する。
「貴様ぁぁッ! 撃て! 撃ちまくれッ!」
千葉中佐率いる対エルク部隊が急行し、一斉掃射を開始する。
だが、グラスホッパーはバイクを捨てて跳躍。空中で静止したかと思うと、その強靭な脚力で隊員たちの頭上から次々と「死の着地」を決めていく。装甲車は紙細工のように踏み潰され、隊員たちの絶叫が木霊した。
ついには千葉中佐の弾丸も尽き、グラスホッパーが嘲笑うように空高く舞い上がる。
「さらばだ、勇敢な虫ケラ!」
太陽を背にした、必殺の空中キック。
中佐が死を覚悟したその時。
ドォォォォォォン!!
空気を切り裂く重厚な駆動音と共に、横合いから飛び出した「黒い影」が、グラスホッパーのキックを正面から受け止めた。
「……クロウ、なのか……?」
煤煙の中から現れたのは、漆黒よりもさらに鈍い、鉄の輝き。
中佐が呟くが、その「影」は一言も発さず、ただ静かに、赤く光る眼光で魔人を捉えていた。




