第10話:寸断(すんだん)
皇都警察庁、超常現象対策室。
室内の空気は、これまでになく重く沈んでいた。モニターに映し出されているのは、かつての首都高速道路「キャピタル・ルート」の無惨な姿だ。
「……被害状況の最終報告です」
部下の声が、静まり返った会議室に響く。
「死傷者数は数千名規模。移動に伴うソニックブームにより、路面は広範囲にわたって剥離し、高架橋の一部には亀裂が入っています。放置された数万台の車両撤去と路面の再舗装を含めれば、完全復旧には年単位の時間を要する見込みです」
霧島冴子は、資料を握りしめる手に力がこもるのを感じた。
「皇都の物流が完全に寸断された……。エルクの狙いは、単なる殺戮ではなく、この都市の機能を根底から破壊することね」
「はい。ですが、今回も『彼』が現れました。……これをご覧ください」
霧島の指示で、上空のヘリが捉えた赤外線映像が再生される。
そこには、あまりの速さに輪郭さえボヤけたパンサーの動きと、防戦一方のクロウが映っていた。しかし、戦闘が佳境に入った瞬間、クロウの全身が眩い光に包まれる。
「……モードチェンジ、だと?」
霧島は眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。漆黒の装甲が、鮮やかな「青」へと変色していく。その直後、目にも止まらぬカウンターがパンサーを捉え、大爆発と共に映像は終わった。
「あの漆黒の仮面……いえ、クロウは、敵の特性に合わせて自らの能力を最適化させる力を持っている。単なる怪人殺しのマシーンではないということね」
「追跡はどうなっていますか?」
霧島が問いかけると、部下は苦渋の表情で首を振った。
「現場を離脱した彼をヘリで追跡しましたが、前回と同じく第3地区の路地裏周辺で、熱源反応が忽然と消えました。やはり、意図的に追跡を撒く術を知っているようです」
「地道な聞き込み調査班の方は?」
「付近の住民や商店への聞き込みを継続していますが、今のところ進展はありません。あの周辺は住宅と古い店舗が密集しており、バイクの音一つとっても特定が難しい状況です」
霧島は立ち上がり、窓の外を見つめた。
「……ロスト地点が重なるのは偶然じゃないわ。彼はあのエリアに『拠り所』を持っている」
霧島の脳裏には、地図上で何度となくマークされた、あの一画が浮かんでいた。
「聞き込みの範囲を絞りなさい。目撃情報だけじゃない。最近、急に『休憩』が増えた者や、怪我を隠している者がいないか。どんなに些細な生活の変化も見逃さないで」
彼女の執念は、確実に一条雄介の日常へと、その銃口を向け始めていた。




