第11話:修練(しゅうれん)
部屋に戻った雄介は、ブーツを脱ぐ気力さえなくベッドに倒れ込んだ。
視界が青く明滅している。「碧鳥」の神速に、肉体の神経が悲鳴を上げていた。
荒い呼吸を繰り返す中、彼の意識は、この世界に降り立ったばかりの「あの日」へと沈んでいく。
管理者の空間から解放され、雄介が次に目覚めたのは、皇都の外れにある古びた神社の境内の森だった。
「……ようやく起きたか、若いの」
目の前には、パチンコ雑誌を片手に笑う、あのおやっさんが立っていた。
おやっさんの正体は、管理者に選ばれ、代々この世界で「楔」を守り続けてきた神主。雄介が戦士として完成するまでの後見人であり、この世界の理とエルクという脅威を叩き込む師でもあった。
そこから、エルクが本格的に動き出すまでの、張り詰めた一年間が始まった。
雄介に課せられたのは、管理者から与えられた強大な力を肉体に定着させるための、極限の精神と肉体の同調修行だった。
まずは、変身の核となる『八咫の鏡』の制御。鏡面から流れ込む膨大な情報と、負の感情を増幅させる「力」の誘惑。それらを精神の盾で弾き返し、己の魂を戦士の「型」へと流し込む。鏡が放つ重圧に耐え、己を失わずに変身を維持するための、神経を削るような対話の日々。
さらに、攻撃の要である『天叢雲剣』の重量感を精神で制御し、未だ謎の多い空間を司る神器『八尺瓊勾玉』を操るための、空間認識の訓練。一歩間違えれば、自身の存在すら空間の裂け目に消失させかねない勾玉の力は、凄まじい集中力を要求した。
そして最も過酷だったのが、属性を切り替える「形態変化」の修行だ。
今回使用した「碧鳥」のようなモードチェンジは、通常の数倍の負荷を神経系に強いる。修行中、何度も意識が飛び、神経が焼き切れるような苦痛に悶える雄介を、おやっさんは静かに、しかし厳しく律し続けた。
「力に溺れるな、雄介。お前が力を支配するんだ。さもなければ、お前自身が『異形』に飲み込まれるぞ」
すべては、皇都を蝕むエルクの牙を砕く、その時のための準備だった。
不意にドアが開く音で、雄介は意識を現実に引き戻した。
「……よぉ、まだ生きてるか」
入り口には、店での能天気な顔とは違う、かつての師匠の眼差しを湛えたおやっさんが立っていた。
「この程度でへたばるようなら、また一からやり直しだな。次は精神の奥底までもっと徹底的に叩き直してやるぞ、雄介」
雄介は、重い身体を引きずりながら、不敵に口角を上げた。
「……勘弁してくれよ。あの境内の空気は、もう十分吸ったんだ」
「なら、さっさとどら焼きでも食って精をつけな。次の敵は、待っちゃくれねえぞ」
おやっさんの言葉は、優しさと同時に、これから訪れる戦いの苛烈さを予感させていた。




