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王子様×お姫様=永遠の愛の不存在証明



ギルドは夜通し馬を走らせた。駅舎に寄り、管理人を起こして馬を替え、また走る。鞍の準備をさせるの時間ももどかしくて、裸馬のままたてがみを掴んで馬の腹を蹴る。アストリエ市街で最後の馬を駅舎に預けると、ギルドは追跡魔法を起動させてリリアナの痕跡を探す。リリアナを埋葬した際、黒百合を届けに行った家を思い出して真っ先にそこを確認することにした。


その家の周囲には真新しいリリアナの痕跡がいくつもあった。一番最後の移動痕は、リリアナが在宅中であることを示している。ギルドは、期待に胸を高鳴らせながら呼び鈴を鳴らした。


夜が白み始めたばかりの早朝であるのにも関わらず、人が動く音がして階段の下へと降りてくる。扉が空いて平凡な顔つきの男が怪訝げに顔を出すと辺りを見回した。彼にはギルドの姿が見えなかったのだ。ギルドは発動させていた隠密魔法を解除した。


「こんばんは。」


雨の音のなか、扉を開けた男に向かってギルドは微笑みかける。男は突然現れた男に唖然とした表情を浮かべるが、ギルドはその男が何者か尋ねる前から分かっている。


「リリアナ。」


男はギルドの腕を掴むと、扉の内側へ引きずり込んだ。閉めた戸を背にして、リリアナがネックレスを外す。男の姿が、細身の女に変わる。銀色の髪が肩に下がり、紫色の瞳がじっとギルドを見つめた。その目が水滴が落ち込んだ水面のように、揺らめき迷い動く。


ギルドの言葉が発される前に、リリアナはギルドの首に飛びついた。ギルドが頭から爪先までずぶ濡れだということには気にも止めていない。ギルドの服の水気を、リリアナの纏う男物の服が吸い取って、体温が混ざり合う。


ギルドは言いかけようとしたものが何だったのか、馬を走らせている間ずっと考え続けていたことがなんだったのか、すっかり忘れてしまった。代わりにリリアナの腰に手を回して抱きしめ返す。


「びっくり、した。」


言葉とともに、リリアナがギルドの首に回す腕の力がぎゅっと強くなる。


「無事なのは知っていた。けど、まさか、もう一度会えるとは思ってなくて。」


「それは、」

「先に言わせて。」


リリアナはギルドの首から手を離して目を合わせる。だが、リリアナは怖がるようにして、ギルドから目を逸らした。ギルドはリリアナの身体から手を離さなかった。リリアナがギルドの服を掴んで皺を寄せる。耐えるように結ばれた口元が強張った声が出る。


「私は、生き物じゃないんだ。」


「知ってる。」


ギルドは何でもないことのように呟いて、リリアナの腰を再び抱き寄せた。リリアナの頭がギルドの胸にぶつかって、小さな驚くような声が口から漏れる。


「俺も王族だって言わなかったからあいこだね。」

「怒ってもいいよ。」

「疲れるからやだ。」


即答するギルドに、リリアナは困惑した表情を浮かべた。


「そのかわり、暫くリリアナの家に居てもいい?」

「いいけど、私怒りっぽいよ?」

「知ってるよ。」

「勝手に物を動かすだけで不機嫌になるけど大丈夫?」

「じゃあ触る前に聞くようにするね。」

「私は眠らない。」

「俺の寝顔見放題ってことじゃん。」


リリアナはその応酬の何かがツボに嵌ったようで、笑い声を耐えるようにして肩を震わせた。


「私の居場所が分かったのはどうして?」


ギルドは雫が滴り落ちる黒髪を掻き上げて、くすっと笑う。それから人差し指を自身の唇に当てた。


「秘密。」


むっとしたリリアナは答えを探そうと、先程掴んだギルドの腕を恐る恐る掴んで持ち上げる。ギルドが芝居がかった仕草でその拳を開くが、その手のなかには何もない。リリアナはベルトに下げた袋、ポケット、服に視線を走らせる。目ぼしいものが無いと悟ると、ギルドの腕を誘導して、後ろを向かせてみる。


ギルドの目に答えがあるとは知らず、探るようにギルドを観察し続けるリリアナをギルドは微笑ましく見つめた。


「降参する?」

「しない。」


強気の即答にギルドは勝った気持ちになる。大きなくしゃみを一つした。リリアナは目をまん丸に開く。


「先にずぶ濡れの服を替えなくちゃ。」


ギルドはリリアナから投げ渡されたタオルで滴る水を吸わせる。


「入って。」


リリアナが新たなタオルと服をベッドに置いて廊下に消える。ギルドはもう一つくしゃみをすると、白いシャツとズボンに着替えた。サイズが大きすぎたため、袖をまくって手を出す。


唯一の光源である蝋燭が揺れると、部屋全体に伸びる影が神秘的に揺らめいた。


リリアナの部屋は簡素だ。年代物の質のいい棚に、ノートや図鑑が大量にささっている。壁には地図が、机の上には多くの本と小瓶が置かれている。


一際目を引いたのは机の上に積み上げられた鳥の図鑑たちと、その隣のドラゴンの形状に関する事が書かれていると思われるノート。走り書きのような筆跡のラフ画の傍には、指の形や翼の位置、飛ぶのに適したその大きさや角度などの条件が細かく描き込まれている。


テーブルの隅にはいくらか大きめの瓶が目立たないように置かれている。首を傾げて覗き込んでみれば、瓶の中には黒百合が。枯れていないことを見るに、かつてギルドがリリアナと共に埋葬したものであると思われる。


ギルドは濡れた服のポケットを探った。その手が掴みだしたのは、潰れた黒百合が収まっている。保存魔法がかかっているから枯れてはいないものの、ギルドと行動を共にしてきたそれは原型を留めてはいない。その黒い塊とガラスの中で形を完璧に保ったままの黒百合を見比べてみる。同じ茎についていたのにも関わらず、たった一週間ほどでここまで違いが生じているのだ。ギルドは何か気まずいものを感じた気がして、机から離れて黒百合だったものを元の場所にしまった。


リリアナがス二人分のスープを持って部屋に戻ってきた。ブラウスとロングスカートの上にローブを羽織った姿はまるで、神秘の力を宿した魔女のようだ。リリアナはギルドに布団の上に座るように促して、ギルドにスープを手渡した。


「エルドラから離れて良かったの?」


ギルドはリリアナの疑問を当然のことのように無視をする。ギルドはさっさとスープを飲み終えて、盆の上に皿を戻す。二人分の空の皿が盆の上に戻るまで、ギルドは一言も発さなかった。たっぷりの時間が過ぎて、ギルドはベッドに置かれたリリアナの手を握った。


「リリアナは、何歳まで生きるの?」


リリアナは答えなかった。ギルドが想像するに、それは本人にも全く予想の付かないものなのだろう。


「例えば俺がおじいちゃんになったとしても、リリアナはきっと今のまんまなんだね。」


ギルドが握ったリリアナの手は、困惑する素振りを一切見せない。リリアナは天井を見上げて目を閉じた。


「もし、もしさ。」


手を伸ばして半ば夢見心地でリリアナの頬を撫でる。


「俺がここで突然死んだりとかしたら、リリアナはずっと覚えていてくれる?」


衝撃的な言葉を受けて、リリアナはぱっとギルドの顔を振り返った。ギルドは至って真剣な表情だ。


「なんでそんなこと言うの?」

「別に分からなくていいよ。」


リリアナの髪を夢見心地で撫でながら、ギルドは静かに問いかける。


「黙って置いていかれる方の気持ち、君に分かる?」


分からないくせにと嘯きながらリリアナの髪を弄ぶギルドの手首をリリアナが掴んで引き剥がす。


「分かる。」


「痛いほど分かる。私は年を取ることも死ぬこともない。あなたも、おばあさまも、これから生まれてくる人も、全員私を置いていくの。」


リリアナは目に涙を湛えていた。しまったと思ったギルドはリリアナから目を逸らした。リリアナはギルドの顎を持ち上げると、ギルドの黒い目に向かって微笑んだ。


「でも、あなたが一緒に地獄にだって堕ちてやると言ってくれたから、あとでどれほど泣くことになろうともこの時間を大切にしたい。」


きまりが悪そうにふいとギルドが顔を逸らせば、はぁ、とリリアナがため息をつく。失望というより、手間のかかる弟を持った姉のようにな仕草でギルドの胸倉を掴んだ。


「肩、痛いのでは?」

「痛くなんてない。」


ギルドは嘘をついた。本当は、馬を飛ばしている最中に眠気に襲われて転げ落ちてしまったときに痛めたのだ。リリアナはそんな胸中を察したのか、ギルドの肩口にそっと触れて細い指で筋を軽く打った。ギルドは僅かに顔を歪めた。患部を見せろと命令し半ば呆然としたギルドに背中を見せろと命令した。


「ったく、無茶をする……」


リリアナの指が鈍く痛む肩口に触れ、冷たい感覚を皮膚に残す。これはひどい、とリリアナが呻く。


「熱持っている。薬を塗っても?」

「使う前に一度見せて。」


差し出された軟膏に、魔法をかけて毒性がないか確かめる。リリアナに小瓶を返却すと、ふたが開く音がする。


肩に広がる鈍痛に、冷たい指が触れ優しく軟膏を伸ばしていく。胡坐をかく足の足首を握って、痛みをやり過ごす。


「今日のギルドは不自然だ。」


柔らかい感触の布が何度か背中に押し当てられ、ハサミが布を裁断する音が響く。ギルドは沈黙を以て応える。包帯が丁寧に巻かれ始める。短いやり取りと、手早い手当ての音が暫く続く。


「リリアナってさ、人の話聞くの上手いよね。」

「そう?」

「それって俺だけじゃなくてさ、誰彼構わず言うんでしょ。心配するふりをして相手が心許してくれると色々都合い」


リリアナが力強く背中のツボに指をあて、押した。


「いっ……。」

「妙な勘繰りをするな。私がギルドの現状を聞きたいから聞いている、嫌なら答えなければいい。だが、邪推と偏見を押し付けられるのは不愉快だ。」


肘の付け根と手首にそれぞれ親指を乗せて筋を緩めるリリアナ。ギルドは痛みで顔を引き攣らせる。


「あの……結構……痛いんですけど……」


「ざっと触った感じ、首の筋は固まってるし、背中の古傷はそのまんま、身体の軸は歪んでる。つまりその、努力はする。」


リリアナは指で筋肉を小突いて緩めていく。心地よい振動にギルドは夢中になる。無言が暫く続く。


「人間は身体に傷跡が残るのね。」


残らないのか?と聞こうとしてやめた。牢で出会ったとき、ちいさな傷や腫物の一つや二つ、普通の人間には誰しもあるものが一切見当たらなかった。


「羨ましいのか?」


リリアナは一つだけ頷いた。手当てが終わったので、ギルドはお返しに、とリリアナの髪に触れても良いか聞いた。リリアナは黙って櫛を渡す。そしてギルドが背後に座るのを許した。ギルドは、乱雑に下ろされた髪の先の方から銀の束をほぐしていく。毛を引っ張らないように慎重に。


ギルドは手先が器用だ。リリアナがよくやるように、長い前髪を編み込んで後ろに回す。エルドラでよくある、細かなひもを取ってきてもらって、三つ編みに混ぜ込んで色を付けた。手鏡を覗き込んだリリアナが、ほう、と感嘆を上げる。


「じゃ、解くね。」


ギルドが伸ばしたその手を、リリアナは上半身だけを器用にひねって華麗に避ける。そのままベッドを転がってギルドの勢力圏から逃げ出した。


「駄目。」

「初めてだからその」

「やだ。」


ギルドが折れると、彼女は勝ち誇ったように笑う。


「やっぱり私、ギルドの目が好きだな。」


「多くの不条理を見つめても、決して強さと優しさを失わない。誰も見捨てない。ずっと澄んだまま今を見ている。」


「リリアナも綺麗な目をしているよ。世の不条理を全て飲み込んだ、孤高で冷たい目。」


「父上のあの言葉さえなければ、多分俺もお前みたいな目をしていた筈だ。」

「違うよ。多分。」


平行線だ。互いに相手が羨ましいと言い、今更生き方を変えられないのも知っている。


「隣で寝ていい?」

「夜のお誘いのつもり?」


ギルドが黙って頷くと、リリアナは鼻をつんと持ち上げるようにして笑った。


「いいでしょう。」


ギルドはリリアナを抱き寄せて、その腕の中でほっと息をつく。

世の中の王子様であれば、ここで愛の言葉を囁くだろう。だが全ての愛が、相手の為になるとは限らない。だけど、ギルドはリリアナと同じ人生を歩めないことが悔しくて悔しくて仕方がなくて。リリアナにとっては一番最初に過ぎないのかもしれないけれど、それでもどうか自分のことを覚えていて欲しくて。

だからギルドは、情事で定番のセリフなんて一切言うつもりなんてなかった。


「「穢してやる。」」


覚悟を決めて言った言葉は、ギルド一人だけのものではなかった。見つめ合った二人の続きの言葉は、その息の隙間に溶けて消えていく。


リリアナの銀の髪の簾から、眩い朝日が煌めいた。


ギルドの基礎スキルはストーカーが絶対手にしちゃいけない能力な気がする。


どうせ誰もリアクションしないだろうから、恋愛展開考察の下書きを原文ママ乗せておく。

ギルドがヤンデレ化出来なかったのは、まあ私がなんかうーん、まあ、短期的な快楽を得ようとするならばヤンデレ化は間違いんじゃないですけど、当事者の精神性が幼稚に見えてヤンデレってどう考えても永続的な関係性にはなり得ないじゃないですか。個人的な所感として苦手というのもあります。が、リリアナさんがどんな分野にしろやられたことは倍以上にしてきっちりやり返すタイプなので、ギルドヤンデレ化が成立しないのです。

リリアナヤンデレルート?うーむ。可能かもしれないが、多分ない。リリアナは不老不死なので、人間より一つ格が上なんですよね。レンタルで培った演技をすれば誰だって手懐けられますし、リリアナが本性を見せれば大概みんな逃げていく、と。だからこそ、そんな自分に遠慮なく踏み込んできたギルドが好きで。

ただまだ自分と寿命のある人間を同格に置いていないので若干距離を作っているというか、ギルドに主導権を握らせて観察して楽しんでいますね。自主性を重んじるタイプ。ただし、自分のテリトリーを荒らしたものはギルドだろうと誰だろうと許さず報復を辞さない。

ギルドもその性格をよく分かっていて、リリアナがブチギレそうな気配がしたらとっさにそれを避ける(生存本能強め)。

書いててヤンデレの定義がゲシュタルト崩壊してきた。


ギルドさんは風来坊気質で寄り添われてもふらっと居なくなる。相手がストーカー化しやすいタイプ


リリアナさんは、相手に察しろと命じるタイプ。基本面倒臭がられて人に好かれないし好きにならないタイプ


まさに割れ鍋に綴じ蓋。だが、なんで互いにここまで惚れ込み合っているのか言語化が難しい。


お読みいただきありがとうございます。


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