王子様=冷静沈着 計画的
ギルドはニュクスの腕輪から発せられる人避けの結界の領域を出て、森の中を逃げ出した民たちを追跡する。そうしてすぐに、痕跡が途切れた。地面には転移魔法の術式を組み込んだ大木がある。それを作動させようか迷っていると、目の前にファイが現れた。
「ここを見つけていらっしゃったのですね。」
「ニュクスの村にちょっかいを出していたエルドラの民を追っている。」
「問題ありません。この転移魔術は私が設置したものです。彼らが行く先も分かっています。」
作動させて欲しいと訴えかける前に、ファイは深刻な目付きでギルドを見た。
「その前にお伝えしたき儀がございます。記憶の解析が終了致しました。傀儡の魔術の操作にも目処が立っております。」
ギルドは魔術や記憶の解析には数週間、いや数カ月間は掛かるだろうと想定していた。しかしファイはそれを一日夜で済ませてしまったのだ。
喜ばしい事なのに、何故か深刻そうな表情のファイにギルドは目線で問いかける。
「大使の記憶に不自然なものが見つかったのです。」
ファイの手のひらから蝶が生み出され、ギルドの手に飛んでくる。ギルドが呪文を唱えると、映像と音がギルドの脳に流れ込んできた。
映る街並みはラジアのものだ。新聞の日付、それは。ギルドが生まれて数年後、今から15年ほど前の世界。
視界と服装からして、大使がどこにでもいる平凡な下男だった頃の記憶。彼は主人への悪態をつきながら鶏に餌をやっていた。
空に金色に光る何かが、風に流されてきりきり舞いをしている。それが近づいてくるにつれて、形状がはっきりとした。手の拳ほどの大きさの長方形、まるでカードのように厚みはない。今磨き上げられたかのように、艷やかな面が鏡のように周りの光景を反射する。
【金のカード】は風に流されてこちらへやってくる。そして鶏に餌をやっていた下男の頭に激突した。
「うぐうぅぅぁぁぁ!!!」
『あいたたたぁ……!!』
下男だけでなく金のカードが、人のように悲鳴を上げた。優しい印象を与える女性の声だ。
金のカードから霧のような人影が飛び出す。人影は金髪碧眼の包容力の高い印象を与える女性の姿となった。
その姿は神殿に飾られている女神の像と瓜二つだ。アストリエの伝統的な衣装とされているひだの多いドレスを、腰に豪奢な金の帯を巻いて留めている。髪は白のベールで覆われ、額には金の粒が光っている。
「貴方は……?」
「私は神様、女神様なんです!!」
女神は胸に手を当て、目まぐるしく表情を変えながら話す。
先程エルドラの神である金竜と正面衝突したギルドとしては、会って早速ではあるが、この女神と名乗る軽薄そうな存在を好きになる事が出来なさそうである。
下男と女神様とやらは会話を続ける。
『私の願いを叶えてくれるのでしたら、幸運を授けます!!』
「幸運、ですか?」
『そうよ。全ての不幸を幸福へと書き換える力。どんな身分に成り上がるのでも、どんな欲も叶えてみせます!!』
未来は大使の地位を手に入れる下男は、喜びに満ちた顔を更に輝かせた。
『俺は金持ちになりたいです!女を侍らせ、酒池肉林に溺れ、それから権力が………!!!』
天を仰いで手を伸ばす過去の大使。下男ははっと我に返ると地面の上で蹲る。
『そのためなら何だってします。女神よ。貴方の望みは?』
女神は下男のその対応を見て、嬉しそうに微笑んだ。
『金目のエルドラ人、彼はいずれ魔王となるでしょう。その前に見つけ出して殺して欲しいんです。』
「分かりました!!」
記録が途絶えても、ギルドは開いた口が塞がらなかった。このあとこの下男は出世し、エルドラの外交官となった。ギルドが5、6歳の時にエルドラで開かれた懇親会に現れてギルドに贈り物をした。そしてその数年後エルドラは滅ぶ。
映像と音が切り替わり、今度はアストリエ王宮の豪奢な室内を映し出した。彼は、傀儡の魔術で操ったアストリエの゙(・・・・・・)侍従にヘンダーソン公爵を殺害させていた。
「この事実もきっと揉み消せる。私には金のカードという超強力な味方がいるのだ。今世最強の運を味方にする私にはとって、全ての現実は私の思うがままなのだ!!」
高らかに笑い、ヘンダーソン公爵の遺体を始末させる。大使は悠々と、自室へ向かって歩き出す。
「女神様、今回も何卒よろしく頼みますぞ。」
そう言いながらも大使は懐を弄った。いつもはそこにあるはずの金属の感覚、それが。慌てて胸を尻を、机をひっくり返し引き出しの中を、大使は手当たり次第に探し出す。
『ない、ない、ない、ないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないない!!!!!!!!金のカードがない!!!どこに、誰が一体誰が!!!』
大使の絶叫が響く。その日のカレンダーは今日から三日前を指している。記憶を見終わったギルドは、多すぎる情報量に頭を抱えた。
「待て待て待て、待って。流石にこれは。」
ファイは、手を前に差し出して4本の指を立てる。
「一つ、金のカードは、ランハルト様が仰っていた運を操る古代魔道具と同一の物かと思われます。その目的は金目を殺害しようと動いている。
二つ、大使が金のカードを手にした時期と大使が出世し始めた時期、大使が金のカードを失った時期とギルドが大使を襲撃した日は殆ど一緒ということ。」
「金のカードが運を操っているという事は事実と考えられる、ということか。」
「三つ大使が金のカードを見失った時刻は、私が金竜の短刀の存在をこれが認識した時刻と大体一緒なんです。そして、金のカードが大使から失われてたったの二日、我々が大使を襲撃した。」
ギルドの短刀が露見したこともギルドが大使襲撃を企てたことすら、【運】の力によって制御されていた可能性が高い。その事実に気がついて、ギルドは背筋凍るような、嫌な予感が体を駆け巡った。
「そして四つ、俺たちが目撃した瀕死のヘンダーソン公爵と大使が殺害したヘンダーソン公爵は恐らく別人だということ。」
「別人……、じゃあ、あの指輪は?」
ファイは言葉を発する前に唾を飲み込んだ。
「ヘンダーソン公爵から受け取った指輪には、ラジアの殺人魔術がかけられていました。」
物騒な単語に、ギルドは血の気が引く。あの野郎、死の間際になんてもの渡してくれたのだ、と。
「ですが……それが抑制されていたのです。誰かの血液によって。ラジアの殺人魔術は傀儡の魔術の技法と殆ど同じでした。つまりこの血は、傀儡の魔術の抑制剤と成り得るんです。」
「なるほど。何とかそれを実用化してほしい。ラジアとの戦争であの惨劇を繰り返したくない。」
ファイはギルドの淡々とした表情を見て視線をさ迷わせる。そして地面へ蹲った。
「申し訳ありません!!!!」
「え?」
ギルドは思わずきょとんと首を傾げた。ファイは一度顔を挙げて必至に言葉を継ぐ。
「金竜の短刀の狙いは金目のエルドラ人を殺すこと。十年前はランハルト様でした。そして今回は……」
「俺、か。」
ファイはギルドの目を見つめた。その灰がかった黄色の目は、金に見えないこともない。そして頭を地面にこすりつける。
「申し訳ありません。ご即位を促さなければ、このような事にはならなかったやも……!!」
ギルドは顔を緩めると、ふふふっと声が漏れ出た。この世の終わりのような顔をしたファイは、目を大きく見開いた。ギルドの声がやがて大きな笑い声に成長していくのを驚愕の目つきで見守る。
ギルドは知っている。まだ遅くない。遅くないのだ!!!何の因果かは知らないが、ギルドの目の色は美容整形魔法手で変えているだけ。それを解きさえすれば目の色は黒に戻る!!
金のカードが何故金目を襲おうとするのかは分からない。が、金目を標的としているのなら王子を生み出さなければ襲われることもないのだ。
ギルドのやるべきこと。
それは、王子としての演技を継続しつつ王位を守り抜き、その間に王族制度(金目)を廃止すること。
(俺はレンタル王子様。)
ギルドは蹲ったファイに向かって手を差し出した。
(偽物の目を使い、民を欺き神と世界を騙している。)
ファイはギルドと差し出された手を不思議そうに見つめた。
(エルドラがこれ以上汚されない為に、民をこれ以上嘆かせない為になら。苦手な王子の演技だろうがなんであろうが!!)
「上等だよ。」
ギルドはファイの手を取って立ち上がらせる。そして言う。
「シリウスのところに行こう。」
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「この奥へどうぞ。」
ファイに続いて地下への階段を降りながら、ギルドは小さく頷く。
「いやー、さすがだね。シリウス。」
「何がですか?」
「計画性や実行力があれば、こんな機密保持の【き】のない組織、瞬殺されているよ。」
「それ褒めているんですか?」
ギルドは深く頷いた。
「アストリエの諜報機関に伝手があってさ、そこに載ってたんだよね。エルドラの過激派集団の事。」
アストリエ情報室室長セノイのところで見た情報をそのまま伝えればファイは青ざめる。
「シリウスに多くの人を惹きつける力があったからこそ、多くのエルドラの民を生かしてくれたんだよ、本当に奇跡だ。」
安堵に満ちたギルドの声を聞いて、ファイはギルドの顔を凝視する。
「生きてさえいれば、これから俺がなんとでもしてやる。」
防音の魔術の仕掛けられた扉を開けばそれはそれはエルドラではありきたりな光景が広がっていた。
「ラジアの大使は我らが故郷、エルドラを滅ぼした将軍の一人だ!」
「皆のもの覚悟は良いか!のこのことやって来たその首を刎ね、天地に眠る同族への慰みとするのだ!」
「「おう!」」
その血気盛んな様子に、ファイは大きくため息をついて壁を殴った。
「その大使はお亡くなりになったんで計画の中止を!」
だが、ざわめきが止むことはない。それどころか益々酷くなっている気がする。ギルドは遠慮することなくずかずか入っていく。そして、輪の中心で酒を飲んで騒いでいるシリウスの目の前に立った。双子の姉とは似ても似つかない巨体。いかつい顔は、武勇を重んじるエルドラの民を率いるのに適した顔立ちだ。だが、その風貌はきちんと手入れされているとは言えない。ギルドは微笑を顔に張り付けて声を掛ける。
「こんにちはシリウス。俺の事覚えてる?」
ギルドはシリウスの酒が置かれた机の上に飛び乗って、短刀をベルトから外すと机の上に突き立てる。軽く振り上げただけだが短刀は鍔の手前まで易易と木の板を貫いた。
「弱虫で泣き虫だったギルドだよ。でもエルドラの王位継承者の証、金の竜の短刀を持っている。だから今は王子ということになるね。」
ギルドは黄色の目をエルドラの民たちに見せつける。驚きのざわめきが広がり、それが徐々に熱を帯びていく。
「エルドラの若き太陽よ、憎きラジアの者共に復讐を!」
「ギルドが来てくれれば百人力だ!」
「どうして復讐を考える。」
「当たり前だろうが!!」
「奴らは森を汚した!!同族を殺した!!復讐は正当な権利だろうが!!」
「ラジアの大使は我らが故郷、エルドラを滅ぼした将軍の一人だ!」
「のこのことやって来たその首を刎ね、天地に眠る同族への慰みとするのだ!」
ギルドの質問一つで、エルドラの民たちは収集つかないほど荒れに荒れた。
「復讐を!!」
「ラジアの人間を皆殺しにしてやりましょう!!」
「王子がいれば全て上手くいく!」
そういう人たちの声が、かつての自分と重なった。もし、もし。
『復讐するな』『王子であることを忘れろ』
もし、六歳の頃の自分だったら。復讐を正当化するためだけの神輿になっていたはずだ。復讐の御旗となり、感情に任せた攻撃で大した影響も与えられず、全滅していた。だが、そうならないよう引き留めてくれたのは父の遺言と、リリアナの存在だろう。ギルドは再び静かに問うた。
「俺は何をすればいい。」
「まずは、アストリエに居る大使を殺す。奴らに思い知らせてやるんだ!!」
情報が古い。だがギルドは口を挟まなかった。代わりに湖面のような静かな心で続ける。
「その次はどうする?」
「次?!んなもんあるわけが」
「俺がやるからにはどんなことであっても成功させる。大使を殺した次にしたいことは?」
別の民が口を開く。
「ラジアの人間に復讐したい。」
「なるほど。ラジアの民を全員虐殺するということで。その次は?」
「略奪する。俺たちがそうされたように、」
「次。」
その男は黙した。ギルドは後ろに手を組んで、エルドラの民たちの間を回る。
「もうないの?」
ギルドの声が静かな空間に響き渡った。だが、その問いに答えられる人間はいない。その中に一人の気の弱そうな男が気まずそうに身動ぎしている。ギルドは、言ってみろ、と視線で促した。
「……エルドラに帰りたい。それさえ叶えば」
「てめぇラジアにやられたことを忘れたのか!!」
途端にシリウスの怒声が響く。
「今のところ、①ラジアの民が存在しないエルドラを取り戻す②大使を殺す③ラジアを全員殺す、の順だな。他に意見のあるやつは?」
ギルドの、まるで今日の夕飯を決めるような口調に、シリウスはどんどん苛立っていく。
「机上論はうんざりだ!!」
シリウスの剛腕によって机がひっくり返される。
「今更何しに戻ってきた!!復讐に水を差すためか!?邪魔するためか!?お前はその王族の短剣で、どんな役目を果たしたんだ?どんな役目を果たすと言うんだ?今までずっっと逃げ回ってたくせに!!」
ギルドは短刀の柄を片足で踏みつける。そして、冷たく目を細めて聴衆を睥睨した。
「どう弁明してもお前達が腹を立てるのは知っている。手っ取り早く『王族試し』で決めればいい。その為に即位したんだ。」
「……いいだろう。」
ファイは荒っぽく上着を脱ぐと、壁に叩きつけた。壁に掛けられた槍を手に取ると、ギルドに向かって突き出した。ギルドは身を捻って躱し続ける。
「逃げてるだけじゃ勝てないぞ!」
「体格差を考えろ。俺が正面切って向かって勝てる訳が無い。」
「そういう卑屈な考えが気に入らないんだよ!!」
観衆たちは争いに巻き込まれないように逃げ出していく。ギルドは躱し続けながらも、徐々に壁際に追い詰められていった。が、ふっと身を屈めれば、力任せに振られたシリウスの槍は木の柱に刺さる。槍を引き抜こうと藻掻くシリウスに飛びついて腹を蹴る。シリウスの巨体は一撃で吹っ飛んだ。机や椅子の中に倒れ込んだシリウス。どよめき声が上がる。
ギルドはシリウスに歩み寄って睥睨する。
「これが卑屈か?」
「卑怯者!!」
「卑怯で結構!!」
ギルドはシリウスの槍を押収すると遠くに投げる。近くに立っていた民は一気に伏せる。人の身長より高い安全な位置に、槍は壁に突き刺さった。
「王族試しは、俺の勝ちでいいか。」
王族試しはエルドラの民が持つ、一生に一度のみ、王子に向かって戦いを挑むことが出来る権利。ギルドがシリウスの獲物を奪ったことでその勝敗は決した。負けたからには否が応でもギルドに巣違わなければならないのだ。シリウスはぎりぎりと歯を食いしばっり、痛む身体を押さえながら、身体を揺らして立ち上がる。
「それでもエルドラの王子かよ!!!」
シリウスの泣き出しそうな絶叫に、ギルドは滔々と返す。
「ではシリウス、俺の代わりに王子になったら何をするつもりだった?」
「ラジアとアストリエに復讐を!!!」
ギルドは表情を一切変えず、瞬きを一つだけする。
「具体的に言え。何人殺せば、誰を殺せば満足する?王族、貴族だけか?その子女はどうする?侵略に関わっていない民も含め全てを殺害すれば十分か。」
「……だが同族を殺された。国を追われた。この怒りと憎しみを何処にぶつければいい!!耐え忍ぶのはうんざりだ!!!」
シリウスは渾身の怒りを込めてギルドを睨み上げる。獣の呼吸音のような荒い息がその口から洩れる。
「逆に聞こうじゃないか、エルドラの王太子ギルド。お前はどうやってエルドラを取り戻す。我々が納得できる答えが得られなければ、ラジアに一矢報いて散ることにする。
これこそがギルドが求めていた構図。ギルドは散乱した机の一つに歩み寄ると、それを起こした。
「金竜にお目覚め願おうと思う。」
そこにささったままになっていた金竜の短刀を引き抜き、自らの腰へと戻す。
「はっ?」
「え?金竜!?」
民たちが漏らす頓狂な声に動じることなく、エルドラの詳細な地図を懐から取り出して机に広げる。そして地図に描かれた山の輪、その隅にある一点を指さした。皆がそれを見ようと机の周りに人の輪ができる。
「エルドラ最奥の山は金竜と呼ばれる活火山がある、その山を刺激して溶岩を垂れ流させ、盆地の中の市街地全域を火の海にする。」
そんな話など全く聞かされていなかったファイが、困惑げに口をポカンと開けた。ギルドの声は静まり返った室内に滔々と響く。
「戦はただ戦えばいいというものではない。地道に方策を積み重ね、汎ゆる可能性を考慮したうえでエルドラの民の被害を少なくする工夫が必要だ。」
ファイやシリウスはぽかんと口を開けたままだ。民の一人がその場にいる全員の心情を代弁する。
「ちょつちょっちょつ、ちょっと待って、これって戦の話……は?金竜?金竜使って国取り戻すの……?戦……でしょ?ここは普通戦でしょ!?」
「最初は俺もそう考えた。だが俺は賢くない。兵の損耗率とか戦力分配とか天候、兵糧輸送経路とか考えて地道な作戦練るのが苦手だ。それで金竜に一面焼け野原にしてもらったほうが手っ取り早いという結論に辿り着いた。……7年くらい前に。」
7年前とはギルドが11歳の頃の話だ。何でもないことのように話し続けるギルドに、もはや皆は話についていけない。
「め、めんどくさいから……やけのはら……手っ取り早い……」
「山地は重力に従う金竜には潰されない。ラジアを全員追い出して斜面崩壊した山を壁で塞ぐなりすれば、エルドラは陸の孤島に戻る。」
想像していた戦とはまた別の殲滅作戦を淡々と話すギルドの周りでは、呆れたような沈黙が漂っていた。ファイは頭を抱える。
「だからニュクスに会いに行ったのですね……。」
シリウスは先程の怒りなど忘れてしまったかのように、酷く純朴な声で訊く。
「あのさ、ギルド。あんた……戦を何だと思ってんの?」
「人間同士の殺し合い。直接手を下すのは金竜だが、これも戦のうちだろう?」
溶岩で市街地丸ごと埋め尽くすのは、正確には殺し合いとは呼ばない。一方的な蹂躙だ。シリウスがあきれたように噴き出してから、エルドラの民たちを見回す。
「金竜にお出まし願う、これに異論あるやつは居るか!!」
「住み慣れた街が燃えるのは嫌です!!だけど、それでエルドラに帰れるようになるなら致し方ありません!!」
「俺も!!」
「私も!!」
それらの声は徐々に大きくなり、やがて満場一致となった。
「分かった!!」
今日一番に大きなシリウスの声が響く。
「大使の殺害は見送りとする。エルドラが戻る算段がつくまでそこらで待機だ!!」
「へい!」
「声が小さい!!!」
「「「「「「「「へい!!!」」」」」」」」
ギルドは胸中で安堵の息を漏らした。作戦は上手く行った。そして何より、この場に居る全員が、ギルドの目の秘密について気が付いていないのだ。シリウスはそんなギルドの胸中を察することはなかった。
「実際のところ、金竜を動かせる道筋はあるのか?」
「金竜の短刀、それに王族。他には何もいらない。そう聞いている。それに金竜の許可も取った。あとは、金竜が暴れ終えるまでエルドラには近付かないほうがいいが、家財道具は放置されるだろう。助けるのも略奪するのも見納めとして観光するのも自由だ。」
ファイが顎に手をやって考え込む。
「そうですね、森での生活に慣れるのも時間が掛かるでしょうし、ある程度の物資は必要ですから。元居候共から奪うことにしましょう。
金竜の落とし子、いつ始めますか?」
「伝承では半月の日が良いとされている。準備が出来次第決行する。」
ギルドは、相変わらず湖面のような心で、エルドラの民たちを見守った。
月との距離が近くなる半月の日は、火山や地震が起こりやすかったりそうではなかったり(裏覚え)。ということで半月。
ギルドやべぇ。
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