38. 再び三重へ
ライブ本番に向けて再度三重県に向かう。今回は荷物も多いので移動はズルして転移する。鵜方駅から電車で松坂駅まで戻り、南下する。
「そういえばネット上で次のライブ予想がずっと行われていたでござる」
「ライブ予想?」
そういえばホームページに次のライブ場所を当てられるか、という挑戦状を出してたなぁ。
「そうそう、それ気になってたのよ。エセ侍ずっと追ってたんでしょ、どんな感じだったの?」
「実は三重県を旅行してた時、何度も目撃されていたでござる」
「そりゃそうよね、だって何も隠さず旅行してたもん。私も何人かにサインしたよ」
目撃ってやっぱりゆ~ちゃんのアイドルオーラは隠せないのかな。
「そもそもみ~ちゃんが何も隠してないからね。犬っころの耳も特徴あるし、エセ侍の背の高さや日本人らしくない雰囲気も目立つもの」
「え、わたし?」
ミカンやシェルフは分かるけどわたしは無いでしょ~
「み~ちゃん1stライブはセンターで映ってたんだから、一番見られてるに決まってるじゃない。それに弓弦にも匹敵するくらいのアイドルオーラあるし」
「いやいやそんな馬鹿な」
「…………はぁ」
『これだから自覚無い娘は』みたいなため息つかなくても。
「そ、それで予想はどうなったの?」
雲行きが怪しくなってきたのでひとまず話を逸らそう。
「三重県だろうって予想になっているでござるが、具体的な日時と場所を正解している人はほとんど居ないでござる」
「ほとんどってことは居るの?」
「少数だけど居るでござる」
そもそも今回のライブ先は旅行で行った場所じゃないからね。旅行はあくまでも『日向さんに会うこと』『黒いもやが皆無の伊勢神宮の調査』『黒いもやの回収』がメインであって、下見は兼ねてなかったりする。ライブ会場は結構遠いため下見は断念したのだ。
「良く特定できたよなぁ」
「特定できたとしてもその中の何人が来るかも分かりませんわ」
「横石さんどういうこと?」
「とても小さな確率に賭けてお金を出してあの場所まで移動するのは、余程確信があるか、お金と時間に余裕があるか、あるいは近くに住んでいるか、あのイベントに元々参加する予定だったのか、くらいしか考えられないということですわ」
なるほど、確かにかなり遠いからね。せっかく来たのに空振りだったら色々な意味で勿体ないと思うだろうしなぁ。
「まぁでもある程度は居てくれた方が楽しいよね」
「そりゃあそうだよ。でも彼らの行動力は半端ないから、このくらい予想外のところの方が選別されて良い感じになると思うよ」
「ゆ~ちゃんのファン大量論が未だに信じられないんだよなぁ……」
「……早く曲たくさん用意してライブやった方が良いかもね。じゃないと実感しないだろうから」
うう、頑張ります。
そんなこんなで雑談しながら電車に乗って三重県をどんどん南下する。海を眺めて雑談しながら電車に揺られていると、目的地に到着する。
『熊野市』
三重県で有名なもう一つの観光地。熊野古道。『熊野』の名がつくこの熊野市はもちろん熊野古道の通り道となっている。毎年駅前で『オール熊野 世界No.1フェスティバル』が行われていてステージイベントをするスペースがある。今回はこのスペースを借りて演奏することになっている。ただし、フェスティバルはすでに終わっているため、とある別のイベントがある日に合わせてゲリラライブの形で演奏する。ゲリラライブとはいえもちろん許可はとってある。
ちなみに熊野古道観光も考えたけれども、熊野本宮大社は和歌山県にあるのと、遠くて時間が取れなかったため今回は断念した。いずれみんなで歩いてみたい観光地だ。
熊野市駅に降りたら、駅前広場の下見をする。空間魔法で仕舞った荷物を取り出して、先に現地入りしていた山宮さんたちに渡す。あとは本番までに準備してくれるはずだ。それまでは一か所だけ観光してからお昼を食べて、衣装に着替えるという流れだ。
「車出すので乗って下さい」
「山宮さんありがとうございます」
山宮さんの好意に甘えて観光地まで乗せてもらおうっと。
『鬼ヶ城』
熊野市沿岸に位置する海岸景勝地。名前からしてお城がそびえ立っている、あるいは城跡をイメージするけれども実際は海岸の奇岩を鑑賞するところ。海食洞が地震で隆起したことで、1km近くにも及び奇岩が並んでいるらしい。遊歩道が整備されていて、ごつごつした岩場を散策することが可能。ちなみに、実際に近くにお城もあったみたい。
「それじゃあ出口側で待ってますんで」
運転手の方は遊歩道の出口側で待ってくれるらしい。至れり尽くせりだね。
遊歩道に足を踏み入れると確かに奇岩だらけだ。階段状の岩場、波で削られたような荒々しいごつごつした岸壁、逆に突起の少ない大きな岩盤、頭を覆うほどの大きな岩窟、反対側を見れば大海原。豪快な景色だなぁ。
「大きな波がざっぱ~んって打ち寄せるのが似合いそうだね」
「分かります。写真に撮ってみたいです」
「根古ちゃん写真撮るの気に入ったの?」
「はい!」
根古ちゃんの色々なことを好きになれるのって、良いところだよね。
「おおっ、これはすごいでござる!」
「おお、すっげぇなぁ。倒れてきそうだぜ」
シェルフとすみれさんが驚いているのは千畳敷と呼ばれるところ。頭上に斜めになった平らな大きな岩盤がそびえ立っていて、今にも落ちてきそう。地面も平らなので、まるでホタテ貝の口が開いている形みたいだ。頭上の岩盤の表面はハチの巣みたいな形の突起があって物々しさを感じられる。
「ホントこれ、大丈夫なのかな。落ちてきそうだよね、プラム。……プラム?」
近くにプラムの姿が見えたので何気なく話しかけたけど反応が無かった。
「プラム?おお~い、ぷ~ら~む~?」
「わわっ!な、なんでしゅかっ!」
目の前で手のひらをひらひら動かしたらようやく気付いた。
「もしかして、緊張してる?」
「き、ききき、緊張っ!してますっ!」
お手本のようなカチンコチン具合だ。リラックス、は無理にしなくても良いかな。
「わたしもだよぉ~」
「ええっ!トモさんがですか?そうは見えないですけど……」
いつも通りに見えてるかもだけど、緊張しないわけないんだよ。
「伊豆の時もそうだけど、やっぱり緊張するって」
「ううう、緊張しながらでも堂々としているトモさんが羨ましいです……」
「う~ん、別に緊張したままでも上手く話が出来なくても良いんじゃない?」
「え?」
ステージで噛んだらダメだとか、自己紹介をスラスラ言えなきゃダメとか、別にそんなことは無いと思う。もちろんスラスラできるに越したことは無いけどね。
「周りを見て。色々な石や岩があるでしょ。それも単なる岩じゃなくてすごい個性的なものばかり。あの大きな岩なんて見ていて倒れそうでハラハラしちゃう」
「……」
「プラムの緊張して上手く話せないのも、『個性』なんじゃないかな」
「……個性?」
「そう、個性。恥ずかしがり屋で人前に出ると照れて上手くお話できないけど、演奏すると見違えるように格好良くなる。そういう個性、ギャップがあって可愛いと思う」
「か、かわっ……!」
「プラムが治したいと思ってるなら別だけどね。でもこうやってわたしたちと仲良くなったし、日常生活で不便があるわけでもない。なら、恥ずかしがり屋も一つの個性ってことで良いと思うよ。本気で照れた女の子って滅茶苦茶可愛いんだから」
「あ、あうう……」
だからたくさん緊張してたくさん照れちゃえ。どうせ演奏し始めたら滅茶苦茶楽しくなっちゃうんだから。いずれ照れるのがクセになっちゃうかもよ。




