31. 赤福氷
伊勢うどんを食べた後はデザートタイムだ。伊勢神宮の内宮の近くには有名な観光地があって、そこに夏ならではの甘味があるんだよね。
『おかげ横丁』
江戸時代の街並みが再現されていて、お土産屋や飲食店を中心に数多くの施設が並んでいる。その全てが昔ながらの家々で作られているため、歩いているとどこか懐かしい雰囲気を味わうことができる。伊勢神宮の観光とセットになっていて、休日には大量の観光客で埋め尽くされる。
「……ここの……家って……木造……なんだ」
「精巧な造りでござるな。上から下まで、私たちの世界の木造家屋とは比べ物にならないほど複雑な作りでござる」
「150年くらい前の街並みを再現してるんだよ」
「150年前ですか!?」
江戸時代末期だから多分そのくらいだったと思う。まだわたしの家の近くにも似たような木造住宅が残ってるし、当時から建築技術についてはかなり完成度が高かったんだろうな。わたしとしてはそういう技術的な良さってあんまり分からないけど、木造のこの色合いが見ていてほっとするから好きなんだよね。
「150年でこんなにも世界が変わるでござるか……」
「どういうこと?」
「私たちの世界の文明は300年程前からたいして変わっていないでござる。しかしこの世界では150年のこの素朴な街並みが今の色とりどりの街並みに進化したでござるか……」
そう言われると、確かにこっちの世界での文明の進化のスピードって早いかもね。新しいものがどんどん出てきて止まらないし、それまで普通に使ってたものが気付いたら存在を忘れてたってこともあるもんね。
物珍しそうに街並みを眺める異世界組を連れて目的の店に向かう。外は強い日差しが肌を焼かんと激しい攻撃を仕掛けてくる。気温は明らかに30度を超えていて、肌を汗がダラダラと垂れ始める。シャモアちゃん以外でもぐったりしてしまいそう。少し歩いただけなのに体の芯から熱で温まった感じがする。
だからこそ、これから食べるデザートがおすすめなんだ。
『赤福氷』
東海地方で超有名なお土産『赤福餅』。激しい弾力のある白いお餅をたっぷりの甘いこし餡で包んだお菓子。いわゆるあんころ餅。この『赤福餅』をカキ氷に入れるという神懸かった発想により生み出された一品。しかもただ『赤福餅』をカキ氷に乗せたのではなく、カキ氷に合った餅や餡になるよう手を加えてあるのだ。抹茶シロップがたっぷりかけられた山盛りの氷が特製赤福餅と混ざり合ったとき、きっと口の中が幸せな冷たさで一杯になるのだろう。早く食べたい。
「赤福氷10個くださ~い」
赤福氷が来るまで座って一休み。暑くてぼぉ~っとしそうな頭に喝を入れて引き締める。
どうせまた見えるだろうから、動揺しないように気を付けよう、と。
この先視界の端にいつものメイド少女が映っても慌てない。自然な光景なんだと自分に言い聞かせる。せめて巫女さん姿ならまだ違和感薄かったのに……
そんなわたしの警戒をよそにすぐに赤福氷がやってきた。事前調査通りに、山盛りの氷に抹茶シロップがかけられている。赤福餅が見えないけど、中に入っているのかな。まずは一口。
「んん~」
シャモアちゃんの幸せそうな声が聞こえてくる。それもそのはず、真夏で火照った体が冷たい氷を口に含んだことで喜んでいるからだ。ひんやりしてて気持ち良いのはもとより、抹茶の香りも落ち着いた気分にさせてくれる。
「これだけ暑いと、思わず頭から被ってしまいそうです」
「根古ちゃん!?」
「冗談です」
「シロップがかかってなければなぁ」
「すみれさん!?」
「冗談だ」
「はむっ……無駄にするくらいなら……はむっ……私が食べるよ……はむっ」
ちょっとした掛け合いをやって遊んでいたら、シャモアちゃんが必死になって食べながら妙な突っ込みを入れてきた。
「シャモアちゃんストップストップ。ちゃんと氷の中を探った方が良いよ」
「?」
このままじゃ赤福餅にたどり着く前に氷がほとんど無くなっちゃうからね。シャモアちゃんは一旦氷だけを食べるのを止めて根元の方を少し掘り出した。
「あらあら、これは!?」
中から出てきたのは見るからに甘そうなこし餡。カキ氷に餡子を混ぜることを考えた人は天才だと思う。単体だと口の中がべったりする餡も氷と一緒に食べることでさっぱりする。さらに餅も入っているので食べごたえというか、ボリューム感も堪能することができる。
「おいひ~!!!」
ほっぺたをおさえて喜ぶシャモアちゃん。可愛いのぅ。
「やっぱり赤福氷はうめぇな」
「すみれさんは食べたことあったんだ」
「ああ、この辺りには良く来るからな。夏場に来たときは大体食べてくぜ」
「分かる~地元にあったら頻繁に通ってるよ~」
「太るぞ」
「う゛っ」
さすがにカロリー半端ないからね。地元に無くて良かったと思うべきか否か。
「玲菜どうしたの?食べないの?食べないなら私がもらおっか」
「誰も食べないなんて言ってないでしょ。弓弦に食べさせるくらいなら……くっ……カロリーが……」
横石さんはさっきの話聞いてスプーンが止まった。カロリーとの葛藤をしてるみたい。早く食べないと溶けちゃうよ~
「横石さん、無理しなくて良いと思うよ。どうしても食べられなかったらゆ~ちゃんでもわたしでも良いから残り食べるよ?」
「え?私の食べ残しを御影朋が食べる……?」
ちょっと横石さん、食べ残しって……そういう言い方するとなんか恥ずかしいじゃん!
「た、食べますわ!」
少し顔を赤くして慌てて食べ始めた横石さん。う~そういう反応されるとこっちも恥ずかしくなってくるじゃん。
何はともあれ、赤福氷、堪能させていただきました。美味しかったぁ。みんなも満足げな表情だ。さて、それじゃあまた熱で体が火照る前に退散するとしましょうか。
と、油断したこの時にきっとメイド少女が!
あたりをそっと見回してもどこにもいない。やっぱり意識してると出てこないのかな。この後は伊勢神宮から離れるから最後にちょっとだけでも挨拶できると良かったんだけどなぁ。そう思っておかげ横丁を出て車に向かった時に、その声が人々の喧騒や車の音に紛れて微かに聞こえてきた気がする。
「バイバイ」
……また来ます。
赤福氷はめちゃくちゃ甘いので、甘党でないときついかも。




