30. 伊勢うどん
伊勢神宮から出た後はお昼ご飯だ。食べるのはもちろん地元の名物。異世界組もいつも通りの調子を取り戻して元気になった様子。まだ黒いもやが皆無なエリアなんだけど平気ってことは、神様が何かしてくれたのかな。
『伊勢うどん』
全国各地に点在するうどんの聖地の中でも特殊な部類に入る伊勢の名物。やわらかくてもっちりとした極太麺を濃い目の味の少量のタレに絡めて食べる一品。混ぜそばに近い感じだ。
伊勢神宮の周りには伊勢うどんを食べられるお店がたくさんあるので、適当に見繕って中に入った。
「それにしても、一体あんたら何があったのよ」
そりゃあ異世界組の異常な反応が気になるよね。
「……すごい……気配が……した」
「すごい気配?」
「強烈なまでに澄んでいて、それでいて強い圧迫感とも言える存在感、言葉を発するどころか息をするだけで汚してしまいそうに感じる清らかさ、そういった感覚がありました」
「むしろなんでこっちの人はあんなにすごいパワーに気付かないのかな~」
なんでって言われてもねぇ。
「案外神様はお前ら異世界組に挨拶したかっただけじゃねぇか?」
「挨拶は仕事の基本です」
「根古ちゃん仕事って……」
「例えば神様がこの世界の偉い人なら、外からやってきた人に挨拶するのは当然の仕事だと思います。そう、昔とある会社で受付のバイトを経験したときも……」
「お待たせしました。伊勢うどんをお持ちいたしました」
「むぅ」
話を遮られた根古ちゃんがちょっと不満そう。バイトの話も気になるけど、料理が来たから先に食べちゃおう。
伊勢うどんの見た目は非常にシンプルだった。真っ白な極太麺がほんのりタレで色付いていて、そこに小刻みに切られたあさつきがパラパラとかけられている。
「いただきま~す」
誰かの掛け声をきっかけにみんなでズルズルと食べ始める。うん、確かに評判通りにもっちりグニャグニャの触感だ。麺が太いから口の中がすぐいっぱいになっちゃう。でもこれ、タレをちゃんと絡めないとあっさりしすぎて……ううん、タレをたっぷり絡めてもそんなに濃く感じない。
「……」
みんなを見渡したところ、反応は半々かな。美味しそうに食べる人といまいちな表情の人。うどんは好みが分かれるからね。讃岐うどんみたいにコシがあるのが好きな人もいれば、博多のうどんみたいにやわらかいのが好きな人もいる。かけうどんみたいに汁がたっぷりかかっているのが好きな人もいれば、つけうどんとして食べるのが好きな人もいる。わたしは美味しければどれでも好きなタイプなんだけど、伊勢うどんは楽しみ方がまだ分からない。味が薄く感じるんだよね。食べ方が悪いのかなぁ。
「すみれさんはどのタイプのうどんが好きですか?料理が得意なのでこだわりありそう」
「俺か?俺は味噌煮込みうどんが好きだな」
「おお、そういうのもありま……あったねぇ」
また無意識に壁作って話するところだった、危ない危ない。丁寧語にしすぎないように気を付けないと。
「名古屋の味噌煮込みうどんも食べてみたいな」
「うふふふ」
おっと名物好きのシャモアちゃんが入ってきた。名古屋では何故かあんかけスパ食べたから、有名な名物として気になってるのかな。
「あ~アレはちょっと違うんだよな」
「違うの?」
「ああ、富士宮の店で出てくるような味噌煮込みうどんとはちょっと違って……まぁ、いつか食ってみろ」
「うっわ、その言い方はズルいなぁ、気になる」
「うふふふ、気になるですよ!」
いつか行くもん、食べるもん。
「ごちそうさま~」
なんて話をしてる間にミカンが食べ終わっていた。そんなに量は無いからね。この後デザートを予定しているから少な目で十分だ。
「そういえばさっきの話の続きだけど、神様のオーラ?みたいなのを感じたのは分かったけど、正宮でなんでいきなり畏まったのよ」
ゆ~ちゃんは神様トークの続きをしたがっている。確かにソレも気になってたんだよね。
「あそこにはとんでもない存在が居らっしゃったでござる」
「とんでもない存在?」
「見ることすら憚られるほどの強烈なプレッシャーで、清らかなオーラだけで浄化されて消滅するのではと思ったくらいです」
「良く分からないけど、一番偉い神様が居たってことかしら」
「おそらくそうでござる」
思わず跪いてしまうほどの存在かぁ。あの時の言葉はやっぱり失礼だったかな。
「エセ侍なら浄化されてまともになるんじゃない?」
「もとからまともでござる!」
「じゃあスマホ没しゅ……」
「ごめんなさいでござる」
なんだ、浄化されてないのか。
「それにしてもあの神社に神様が本当に居たなんてなぁ。黒いもやが全くないのは神様の力のおかげなのかな」
「……間違い……ないと……思う」
「もしかしてわたし、あの時神様を邪険にしちゃったからもう守ってくれなくなるなんてことは……」
考えないようにしようと気を付けてたけど、だんだんと不安になってきた。神社を出たときに見たあの子が本当に神様だったなら、笑顔だったし怒ってないとは思うけど。
「大丈夫だと思うでござる。今は最初にここに来た時よりも弱くなっているけど守ってくれている感じは残っているでござる」
「そうなの?」
「うんうん、すごい心地良い感じなんだよ~」
「良い感じに力を抑えてくれているみたいです」
それなら安心して良いのかな。わたしが原因でこのあたりの治安が乱れるとかになったら申し訳なかったもん。
「よし、それじゃあそろそろお店出ようか」
「は~い」
お昼ご飯を食べて少し休憩したので出発だ。みんなは徐々に席を立とうとしている。わたしは最後に水を飲もうと思って口に含んだその時、視界の端に遠くのテーブルで伊勢うどんを食べている女の子が見えた。
「ぶふうううぅぅぅぅ!」
「ちょっ!み~ちゃん汚い!」
「げふっげふっ!」
驚いて漫画みたいに水を思いっきり吹き出しちゃったじゃないの。もう一度"メイド服の"女の子を見るともちろん消えていた。
「み~ちゃんどうしたの?」
「ごめん、水飲んでたら変にむせちゃって」
「大丈夫?」
「うん、もう大丈夫」
噴き出して濡れてしまったテーブルを片付けて、今度こそ出発しようと立ち上がる。もう一度チラっと横目でさっきと同じテーブルを見ると、幸せそうな顔でちゅるちゅると伊勢うどんをすすって食べているメイド服の女の子が居た。
もしかして、伊勢神宮だけじゃなくて周辺でも出没するの?
伊勢うどんは味がシンプルで薄めなので、弾力系が人気の今のご時世には合わないかもしれません。
ちなみに私は蕎麦派




