23. ビジネスホテル
日向さんの話を聞き終わったらもう21時近くになっていたので急ぎ出ることにした。日向さんは泊まっても良いって言ってくれたけど、流石に10人分の寝場所を確保してもらうのは申し訳なかったので固辞させてもらった。横石さんは友達に久しぶりに会っただろうから泊めて貰えばって勧めたけど、いつでも来れるから気にしないでって断られた。
「あらあら、うふふふ」
「さえちゃん!言わないでよ!」
う~ん、なんだろう?
この日は電車で桑名駅まで戻ってビジネスホテルに宿泊予定。ゆ~ちゃん以外はもちろん未経験。入り口から入るとすぐにフロントがあったのでチェックインする。すでにネットで予約済みなので名前などを少し記入するだけで簡単だった。
二人用の部屋を五つ確保してある。ということで部屋分けという仁義なき戦いが始まった。横石さんはじゃんけんを強く主張していたけれど、じゃんけんだと五組決めるのは大変なのでクジにすることになった。
「じゃあ全員同時に引くよ。せ~のっ!」
部屋に入るにはもらったカードをドアの取っ手の近くの黒い部分にかざす必要があった。電子音が鳴って開錠された部屋の中に入り、フロントで教えてもらったように入口横の差込口にカードを差すと部屋の電気がついた。使ってないときは電気がついていないってことは節電対策なのかな。しかし残念ながら今は夏真っ盛り。急いでエアコンをつけねば部屋が暑すぎて堪らない。
部屋の中は半分以上がベッドで占められていて、壁際の狭いスペースに横長の机が置かれている。シンプルな作りだけれども、休む分には十分だと思う。というか、ベッドがこんなに広い意味あるの?
トイレとお風呂は入り口近くの扉の先にあり、洗面台もセットされていた。ちなみにビジネスホテルを予約するときになんとなく気になって調べたんだけど、『ユニットバス』はトイレとお風呂がセットになっているものではないんだって。勘違いしてた。実際は壁と天井とお風呂が一体となってるのが『ユニットバス』で、それに加えて洗面台とトイレが一緒なのは『三点ユニットバス』って言うんだってね。知らなかった。
「ん~今日は長時間移動が続いて疲れた~プラム先にお風呂入る?」
わたしと一緒の部屋になったのはプラムだった。他の組み合わせは、まぁいっか。
「プラム?」
「え?あ、なんですか?」
日向さんの家を出てからプラムはぼおっとしていて何かを考えているようだった。大事なことを考えているのかもしれないと思って話しかけずに見守っていたけど、お風呂でのぼせないかちょっと心配。お風呂の前に少しだけお話をしておいた方が良いかもしれないね。
わたしはベッドの上に腰かけるとプラムを隣のベッドに腰掛けるように促した。
「日向さんの話、気になってる?」
「気になっている……のでしょうか」
プラムはそういうとまた考え込んでしまった。プラムの考えがまとまるのをじっくりと待とう。
「自分が人前に出ることが苦手な理由。そんなこと考えたこともありませんでした。日向さんはちゃんとした理由があって、向き合ったら今がより良くなった。私も何か大事な理由があるのでしょうか。それとも日向さんと違って特別な理由が無いことを恥じているのでしょうか。動揺しているような気がするのにその理由が分からない。すごく変な気分です……」
プラムの疑問に答えられるのはプラムしかいない。自分との対話っていうのはわたしも悩んだとき良くやるけど、答えが出てこないとドツボにはまるんだよね。そういうときわたしはどうするか。これだけは正しいっていう答えを少しだけでも見つけて、残りはまた今度考える。そうやって気持ちの切り替えをしながら少しずつ前に進む。ま、それが簡単にできないから難しいんだけどね。
明日は悩む暇すらないほど楽しいことが待ってるから、今日はちょっとだけ背を押して気持ちを切り替えやすくしてあげられれば良いな。
「答えが無い人の方が多い」
「日向さんの……」
「うん」
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「私が人前に出られなくなった理由は『期待を裏切ることが怖かった』ことが原因でした。でも、一緒のコンクールに出場した人とお話をすると、彼女たちは少なからず舞台に出ることを恐れてはいましたが、私のように明確な理由があって怖がっているわけではありませんでした。失敗したら馬鹿にされるかもしれない。努力したのに失敗したくない。観客は成功を期待しているはずだから裏切りたくない。自分の容姿が貶められているのではと不安になる。数多くの理由があって、そしてどれか一つだけが理由という人はあまりいませんでした。それどころか、はっきりと納得できる答えが無い人の方が多いです」
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「プラムの人見知りに理由があるかは分からないけど、必ずしも明確な答えがあることじゃないから、一度に答えを求めようとしないほうが良いんじゃないかな?」
「一度に?」
「うん、これからまだまだ時間はたっぷりあるんだから、少しずつ考えようよ。難しい問題だもん、一度に答えようとすると疲れちゃうよ。疲れたら答えなんて出ないと思うしね。急いで解決したい問題じゃないならゆっくり考えよう」
「……そう、ですね」
そう答えるプラムの表情は、納得がいったとは思えないものだった。でも、
「心配かけない程度に悩もうと思います」
そういって微かに笑ったプラムの顔を見たら、安心できた。
ファブ〇ーズとか、安いスリッパとか、風呂の狭さとか、風呂カーテンの使い方とか、枕選べる方式とか、成人向けなアレとか、ネタにしようと思いましたが小ネタだらけになるので封印。
一番言いたいのは、カード差さないと電気がつかない方式は夏場かなり辛いので無くなってほしいということ。




