4. シャモアの場合
「ト~モ~さ゛~ん、だ~ず~げ~で~」
「うわっ誰っ!?」
朝起きて居間に入ると、床にうつ伏せに横たわっている女の子が、右手をわたしの方にのばしながらおどろおどろしい声で話しかけてきた。
「あ~づ~い~」
「もしかして、シャモアちゃん?」
白目剥いてて怖い形相してるけど、これシャモアちゃんだ。おっとりとした雰囲気がカケラも無いんだけど何があったの。
「どうしたの!?」
「……エ」
「え?」
「…………エア」
「エア?」
「………………エアコン、つけてください」
「は?」
「はぁ~生き返るぅ~」
エアコンをつけて涼しくなった部屋で、シャモアちゃんがソファーに仰向けになって寛いでいる。だらしない感じがミカンにそっくりだ。これ、中身が入れ替わってたりしないよね。
「それでシャモアちゃん、何があったの?」
「……別に、何もないよ」
何もないってそんなはずないでしょうが。
「……お姉ちゃんが失礼しました」
「うわっ、パステルちゃん?」
シャモアちゃんに突っ込もうかと思ったら、後ろからパステルちゃんに声をかけられた。パステルちゃんも来てたんだ。
「……お姉ちゃん……帰るよ」
「や~だ~か~え~ら~な~い~」
足をじたばたさせて駄々をこねるシャモアちゃん。これ、本当に中身入れ替わってない?
パステルちゃんはちょっと考えた後、シャモアちゃんのところに向かい両足を掴んだ。
「……帰る」
「ちょっとパステル?何を……ってはうっ!痛い痛い!止めへ~!」
驚くことに両足を持ってシャモアちゃんを引っ張り出した。ソファーから体が落ちた時にドスンと床にぶつかった。痛そう。そのままズルズルと引き摺って歩いて行く。なんという雑な扱い。
「ちょ、ちょっとパステルちゃん!?」
「……お騒がせ……しました」
そういうとパステルちゃんはシャモアちゃんを引き摺ったまま下田に転移して帰った。
「なにこれ?」
――――――――
その日のお昼過ぎ、今度はパステルちゃんが一人でやってきた。朝の出来事の説明をしてくれるらしい。肝心のシャモアちゃんは喫茶店でお手伝い中。
「……朝は……お姉ちゃんが……ご迷惑をおかけしました」
居間で冷茶を飲みながら二人でお話し中。チビチビとお茶を飲むパステルちゃんが可愛い。
「それで、あれは本当にシャモアちゃんだったんだよね?」
「……お恥ずかしい話ですが……お姉ちゃんです」
やっぱりシャモアちゃんだったんだ。
「暑さにやられてたようだけど、シャモアちゃんって確か魔法で自分の周りを涼しくしてたよね」
この話を聞いたとき魔法使えるのが羨ましかったので強く覚えてる。外出するとき使ってもらおうかなぁって思ってたんだよね。
「……お姉ちゃんは……その魔法を……使いすぎました」
「使いすぎ?」
膨大な魔力があるから大丈夫じゃなかったっけ?
「……こっちの世界……魔力がほとんど……回復しないんです」
「なるほど、分かった」
あるある、そういうのあるよね。こっちの世界は魔力の素とかそんな感じのが薄いから魔法が使えないとか回復しないとか。魔法の使いすぎで魔力が無くなっちゃったんだね。ゲーム的にはマジックポイントが切れたけど回復手段が無いってことかな。魔法使いにとっては致命的だ。
「これまで魔法で楽してたから、突然使えなくなって暑さに苦しんでたのか。でも、魔力が回復しないってことくらいすぐに気付いたんじゃない?」
「……はい……気付いてました。……でも……お姉ちゃん気にしないから」
「気にしないって、魔法が使えなくなるって大事じゃない?」
「……お姉ちゃんは……気にしないんです」
むしろ細かいことをちゃんと気にするタイプに見えるんだけどな。おっとりしてるけど何でもテキパキとこなしてるし、無茶な魔法の使い方をするようには見えないんだけど。
「……みなさん……お姉ちゃんのこと……勘違いしてます」
「勘違い?」
「……お姉ちゃんは……何をするにも……雑なんです」
「は?」
いやいや、雑ってシャモアちゃんの対極に位置する言葉でしょ。ないない。ないって。
「シャモアちゃんって喫茶店では接客テキパキとこなしてるし、アイドル活動のときも正確なリズムでわたしたちをリードしてくれてるじゃん。雑って感じには見えないよ」
「……お母さん」
お母さんってケイちゃんのお母さんじゃなくて、シャモアちゃんたちのお母さんの話かな。
「……お姉ちゃんが……何をするにも……あまりにも適当だから……家事を教えながら……雑な性格を治すように……頑張ったんです。……そしてお姉ちゃんは……一つだけ……覚えました。……決められたことをそのままこなすこと。……何を教えても……適当にやろうとするから……お母さんが……余計なことはしないようにって……強く何度も教えたら……それだけはできるように……なったんです」
決められたことをそのままこなすこと。それができるってのはかなり凄いことなんだけど、でもそれ以前にやっぱり適当なシャモアちゃんってのが想像できないよ。
「……お姉ちゃんは……適当で……脳筋だから……お父さんからもらった……おもちゃは……触ると壊すから……絶対触らせなかった。……料理も……普通に作ると……美味しいけど……工夫しようとすると……塩を大量に入れたりして……大惨事になる」
「いやいや、そういわれても普段のシャモアちゃんはそんな感じ無いよ~」
「……今のお姉ちゃんは……猫被ってる……あの話し方も」
「パステル!何話してるの!」
うわっ、シャモアちゃん?喫茶店の制服だ。可愛い。じゃなくて、お手伝い中じゃなかったの?
「……お姉ちゃん……お仕事中……サボるの……良くない」
「サボって無いよ!お客さんが来てないから休憩してるだけ!それより余計なこと話しないで!」
「……シャモアちゃん?」
「あ」
いつものおっとりとした雰囲気とは違って、ハキハキとした元気系キャラになってるんだけど。こっちが素のシャモアちゃん?
「……お姉ちゃんは……予定外のことがあると……自分で決めたルールも……守れない」
「うふふ。な、何のことかしら。それよりパステル、話があるので一緒に向こうに戻りましょう」
「……やだ。……あ、お客来たみたい。……お姉ちゃん……戻らなきゃ」
「だからパステルも一緒に」
「……それじゃあお仕事頑張って」
「え?きゃあああああ!」
転移ゲートがシャモアちゃんの足元に出現して吸い込まれていった。こういうの漫画で見たことある!
「今のパステルちゃんの魔法?」
「……うん……お姉ちゃんと違って……節約してるから……まだたくさん……使える」
「それならこれからも転移はできるのかな。でも魔法があまり使えないなら転移も数を減らした方が良いよね」
「……ううん……転移はほとんど……魔力使わない……お姉ちゃんも……一日休めば……使えるようになる」
だから朝や今もシャモアちゃんはこっちに転移すること出来たんだ。
良かった~これからアイドル活動の合同練習や打ち合わせがやりにくくなるかと思った。
「……私は……こっちの世界で……何かがあったときのために……魔力はほとんど……温存してる……まだ大量に使えるから……気にしないで。……お姉ちゃんは……暑さを我慢したくなくて……一日中魔法使い続けたから……自業自得。……注意したのに……聞かなかった」
話を聞けば聞くほどシャモアちゃんがポンコツにしか思えない。お母さんが頑張って教えてくれなかったら、向こうの世界でも生きていけなかったのでは。お母さんグッジョブ!
「……さっき話かけたこと。……あの話し方……こっちに来てから……はじめた。……向こうでは……乱暴な言葉使いが……多かった。……多分……おしとやかに……見せるための……自分ルール……そろそろ……ボロがでると……思ってた」
どうしよう、この事実はみんなに言っておくべきか。秘密にしとくべきか。いや、秘密にしようかな。わたしも朝やさっきのシャモアちゃんの姿見なければ信じられないもん。魔法が使えなくなったことで動揺してるみたいだし、ボロが出てみんなが察してくれることを祈ろう。
「シャモアちゃんってそんなに雑な性格だったんだなぁ。でもなんでわざわざ説明してくれたの?」
「……アイドル活動……工夫しようと……するかも。……本番で……やられたら」
あ~なるほど、確かに滅茶苦茶になっちゃうかも。突然舞台から降りて客席に特攻、なんてのもやりかねないのか。あれ?それってわたしが手綱を握るようにってこと?
「……にやり」
やられたー!でもにやり顔も可愛いから許す!




