3. どこまでできるかな?
「プラムって人見知りの割にはライブで演奏するのは平気だよね」
「私は背が低くてドラムセットに体がほとんど隠れていて見られてないですから」
ドラマーの顔が見えないってネットで話題になっている。動画の中からドラムセットの隙間から顔が見えているシーンを探したり、数多くの想像イラストが書かれたりと、かなり盛り上がっている。見えていないことが逆に注目を呼んでいるとは思ってないだろうな。全員で前に出て挨拶とかやったらかなり注目されちゃうので、やりたくないって拒否されちゃう。話題になってる話は秘密にしておこう。
「向こうの世界で演奏してた時は顔が見えてたよね」
「私が注目されるってことは特にないですから。純粋に曲を楽しんだり、一緒に歌ったり、音楽を楽しんでもらうために演奏していましたし、みんな演奏してる人の顔なんて見てませんよ」
あれかな、異世界の酒場で盛り上がる曲を流したらみんなでビール片手にどんちゃん騒ぎするような感じ。確かにそれなら個人は注目されないと思うけど、抜群に可愛いからそういう目で見られることもあったと思うんだけどな。気付いてないだけかなぁ。
「あれ?ということはプラムは『注目されること』が苦手ってことなのかな」
「……そうです」
旅をしていたんだから、普通に知らない人と会話する機会なんて山ほどあったでしょ。それが問題ないなら、特別な見られ方をしているときが問題ってことなのかな。こういうのって気付かないで辛いことを押し付けてしまいそうになるから、どれがダメなのかちゃんと把握しておかないとまずいね。
「プラムが苦手なこと、確認したいんだけどダメかな?」
「確認ですか?」
「うん、わたしたちも知らないうちにプラムが嫌なことをお願いしちゃうかもしれないから、知っておきたいの」
「……良いですけど」
よし、それじゃあまずは……
「さて、今回の挑戦者はこちら、異世界から来たプラムさんです。実況はわたくし星野弓弦、解説は根古二夜さんでお送りいたします。根古さん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「お仕事の経験豊富な根古さんですが、今回の挑戦者をどう見ますか」
「そうですね、異世界から来たというところがやはり大きなポイントになると思います。我々の常識では予測できない反応をする可能性もありますから、細心の注意を払って観察すべきだと思います」
「そうですか、つまらない意見ありがとうございます」
「酷っ!」
何これ?ゆ~ちゃんと根古ちゃんが突然コント始めたぞ。ゆ~ちゃんはともかく根古ちゃんノリノリだよ。きっと『仕事』とかって唆されたんだろうな。
「早速ですが、挑戦者に最初の問題に挑んで頂きましょう。最初の挑戦内容は……きたあああああ『はじめてのおつかい』だあああああ」
「は、はじめてのおつかいですって!?」
いや根古ちゃん、何で青ざめて『ですって!?』なんて言ってるのよ。買い物だよ?いくらなんでも出来るでしょ!
「『はじめてのおつかい』はスタッフが用意した買い物リストに従って、たった一人で街に赴き買い物をするという超難度のクエストです。いきなり難易度の高いクエストにぶち当たった挑戦者プラム、果たして無事にクリアすることができるのでしょうか」
「このクエストは買い物リストに何が書かれているかによって大きく難易度が左右されます。今回何が書かれているかが楽しみですね」
「はい、またしても普通のコメントありがとうございます」
「え?これ嫌がらせですか?」
流石にこんな馬鹿馬鹿しいノリにプラムがノるわけが……
「おおっと挑戦者準備万端の様子。買い物リストとお財布と鞄を手に意気揚々と出かけました!」
ノリノリだったああああああ。なんでやねん。
「…………」
「…………」
「あれ?二人とも続きは?」
プラムが自転車に乗って家を出てから、二人は何も話さなくなった。プラムをこっそり追っかけて、途中経過を実況するんじゃないの?
「いや、誰も追っかけてないから待つしかできないし」
「映像無いので雑談しかできないです」
本当にノリだけでやってたんだ。え?これプラムが戻ってくるの待つの?
「買い物に出かけた時点で一人買い物は問題ないって分かったんじゃ……」
「さて、解説の根古さん、この間に過去の挑戦者について振り返ってみましょうか」
「え゛?あ、あ~そうですね、前回の挑戦者は非常に惜しいところまでクリアしましたよね……」
おおっと、スルーですか。いいですよ、この準備してない会話がどう続くか見続けてあげましょう。ほら、どんどん話しなさい!
そんなこんなで解説に振るだけのゆ~ちゃんと、涙目になりながら必死に無いこと考えて解説し続ける根古ちゃんの不思議な会話を延々と聞いていたら、プラムが帰ってきた。ガラガラっと扉を開けたと思ったら居間まで走ってくる。
「シェルフさん!」
「な、なんでござるか!?」
顔を真っ赤にしたプラムがシェルフをキッと睨んだ。すごい形相。シェルフの元に素早く移動し、服の胸元を両手で掴むとシェルフを大きく前後に揺らした。
「アレを書いたのはシェルフさんですね!一体あなたは何を考えてこんなものを書いてくれたんですか!」
「ちょっと、プラっ、待っ、ござっ」
「買えるわけないでしょうがああああああああああ」
「あっ、待っ、ごめっ」
すごい勢いで体が前後に揺れてる。脳が酔いそうだ。あのおとなしいプラムをここまで怒らせるなんて一体何を書いたんだろうか。
「リスト見るね」
シェルフを揺らしている間に床に落ちた買い物リストを拾って読んでみた。中古ゲーム、エナジードリンク、USBメモリ、など、リストには六つ書かれていた。最後の一つだけ文章になっていて、末尾に『(本)』って書いてあった。ということはこれは本のタイトルってことかな。聞いたことない本だな。長ったらしいからラノベなのかね。ちょっとスマホで調べてみよう。
……
「プラム、ちょっと落ち着きなって。このままじゃシェルフが壊れちゃうよ」
「でもっ!でもおっ!」
「どうどう」
このままじゃシェルフが倒れちゃうよ、それはダメだって。プラムの手を離させて、フラフラとしているシェルフに声をかける。
「シェルフ大丈夫?」
「なんとか……大丈夫で……ござる……」
「そっか、それなら良かった」
これなら安心だね。わたしは満面の笑みで視点が定まってきたシェルフに告げた。
「ギルティ」
ちゃんと意識がある状態で叱らないと。
いくらなんでも、買い物リストにアレな本を書いちゃダメでしょうがああああああああああ
プラムと一緒にシェルフにちょっとしたお仕置き完了。結局プラムの苦手について何も分からなかったじゃないか。
「それで、続きやるの?」
「もう飽きた」
「え゛?」
ゆ~ちゃんもう飽きちゃってるよ。根古ちゃんいじられ損じゃないですか。といっても、わたしが引き継ぐのは嫌だけどね。
「う~ん、じゃあどうしよっかな。プラムの苦手なこと調査」
「そのことなんですが、嫌なことがあればその時ちゃんと伝えますから大丈夫です。普段から気にされるのは申し訳ないです」
それもそっか。ちゃんと言ってくれるなら気にしなくて良いかな。結局、妙なコントを見せつけられただけだったような……気にしない!
「ごめ……ござ……」
聞こえない!




