14. 浄蓮の滝
駿河湾沼津サービスエリアを出たらすぐ先にある長泉沼津ICで高速道路を下りる。下りないと御殿場ジャンクションを通って元祖東名高速に乗ってしまうので注意が必要。長泉沼津ICから出たら後はほぼ一本道。伊豆方面への看板に従って伊豆縦貫自動車道を通り、流れで下田街道へ。今日は伊豆半島のど真ん中を南へ移動する天城越えのコースだ。
「だんだんと長閑な景色になってきたでござるな」
シェルフの言う通り、沼津を抜けると徐々に建物は減り、緑が多くなってくる。山道に差し掛かれば次の目的地までは後わずか。
ちなみに、伊豆の最南端にある下田市に向かうルートは大きく3つある。熱海から伊東や稲取を経由する東海岸ルート。こちらは慢性的な渋滞が酷くて時間がかかる。特に夏場は海水浴目当ての観光客が多く、朝から夕方にかけて大渋滞になる。
もう一つのルートが沼津から土肥方面へ向かうルート。こちらは沼津にある三津シーパラダイス付近で酷い渋滞になるものの、そこを抜ければスムーズに進むことができる。
そして最後が今回のルート。こちらも途中に有名な観光地が多いため休日になると渋滞が発生しやすいけど、今日は平日なのでかなり空いている。ということで何事もなく目的地に到着。
『浄蓮の滝』
伊豆の中ではかなりの知名度を誇る観光地。広い駐車場に車を止めると『浄蓮の滝観光センター』が目に入ってくる。お土産売り場やレストランがある、いわゆる観光地らしい建物。まわりを見渡しても滝らしいものは目に入ってこないのはなんでだろう。
「みんな集合~!うん、全員いるね。横石さん、まずはここでお昼を食べるんだっけ」
「そう思っていたのですが、少し予定より早めに着いてしまったので、先に滝を見てから食べるという順番にしますわ」
サービスエリアで結構遊んでいたけど、ここに来るまで道が全然混んでなかったから早く着いたみたい。時間にゆとりがあって良い感じ。
「でも、滝ってどっちにあるのかな。見たところ建物しか目に入らないんだけど」
「ああ、滝ならあの建物の裏にあるみてぇだぜ。向こうに看板があった」
建物の裏っていうと……あ、それらしい入口が見えた。
「よし、じゃあみんなで行ってみよう」
「え、ここ通るの?」
目の前には細くて傾斜のキツい山道。しかも結構下まで降りる必要があるみたい。年配の人がゆっくり降りてるのが見えるけど、危ないなぁ。
「みんな気を付けてね」
「「「は~い」」」
トントンとリズムよく道を降りてゆく。傾斜はキツいけど森林浴しているみたいでなんか楽しい。
「み~ちゃん、気を付けて降りるんだよ。足くじいたりしたら踊れなくなっちゃうんだから」
「ちょっとゆ~ちゃんそんなフラグ立てるようなこと言わないでよ」
「でもすごい大切なことだもん。アイドルはね、万全な状態でみんなの前に出るために怪我はご法度なんだよ」
「うん分かった。気を付ける」
足を踏み外すとか挫くとか、そうなることは想像もしてなかったな。そうだね、これからが本番なんだから怪我しないように気を付けよう。
「か~ぜ~がき~も~ち良~いん~だよ~。も~り~のか~おり~も良~いか~おり~」
「ふんふんふ~ん」
「ん~気持ち良いでござる」
異世界3人組は森の中を歩くのがお気に入りの様子。前に、モンスターの居ない安全な森なら一度歩いてみたいって言ってたから、歩けて嬉しいんだろうな。
「本当に気持ち良い空気ですわね。あの子たちみたいに歌いたくなる気持ちが分かるわ。すみれさんもこうやって森を散策するのは好きなのかしら」
「俺か?ん~どうだろう。気にした事ねぇや。歩くことより、すれ違った人と話してみてぇとか、そっちの方が気になるな」
「流石十ツ木様です。ぶれないでございますね」
「その十ツ木様ってやつ止めねぇか。なんか気持ち悪いよ」
「それは私も思っていましたわ。名前で呼んでくださって結構ですわ」
「ふふふ、申し訳ございませんが、たとえお二方のご要望であっても呼び方を変えることは難しいのです。十ツ木様、横石様」
「あんたもしかして結構性格悪い?」
「さぁどうでしょうか、ふふふ」
横石さんたちは会話の流れが変な方向に向かってる。確かにわたしも呼ばれ方が気になってたんだけど、あれってわざとだったんだね。わたしはもう慣れちゃったけど、みんなはまだこそばゆい感じがするみたいだ。様付けして呼ばれることなんて普段ないもんね。
そんなこんなで会話しながら谷底へ向かって坂を下り続けるとようやく一番下にたどり着くことができた。すると、一番下では音止めの滝に匹敵するレベルの爆音が響いていた。
「うわぁ白い!」
ものすごい水量の水が一か所から落ちてきて滝全体が真っ白になっている。まるでホースで強く水を出したかのような一極集中型の滝だ。あまりの水量に、かなり距離が離れているはずの遊歩道まで水しぶきが風に乗って飛んでくる。
滝のすぐ横は崖の岩肌が見えているんだけど、そこが規則的な柱の形の割れ目になっているのが面白い。岩肌に茂っている緑色のシダと周囲に生い茂る草木の緑と滝の白さに滝つぼの青。多くの濃い色が強く存在を主張していて風景全体が迫力満点。
「すげぇ強い景色だな、こりゃ」
思わずつぶやいたすみれさんのこの言葉がすごい納得できる。美しいとかの芸術的な良さもあるんだけど、それ以上に五感を刺激してくる自然の強さが印象的。
「……」
あ、滝大好き異世界3人組が固まってる。この反応は久しぶりだね。
「私はそろそろ離れますわ。凄すぎて疲れましたわ」
「あ~弓弦もそうする。疲れる~って感じすごい分かる」
「もう少し見てようかしら」
「なんでよー!」
横石さんとゆ~ちゃんペアは相変わらずのコントだね。でも疲れるって感覚も分かる。ずっと見ていたい凄い景色なんだけど、強い景色だから体が勝手に緊張しちゃうんだよね。
「御影様はまだこちらに残りますか?」
「ううん、そろそろ離れようと思う。根古ちゃんは?」
「はい、私も離れようと思います。あちらのお店が少し気になりますので」
そういえば谷底には小さなお土産屋があるんだよね。店前で本わさびを売ってたから買いたかったんだ。この後はまだまだ長い旅が待ってるけど、異世界組の空間魔法の力借りればダメにならないしね。
あ、ちなみにアイテムボックスは時間が経過しないタイプのものなので、普段の買い物でも利用してたりする。
「おう、朋も来たか」
さすがすみれさん。いつの間にか店員さんとお話してる。
「本わさびを買おうかと思って」
「ならコレとコレとコレあたりが良いやつだぜ」
「え?すみれさんわさびの良し悪し分かるの?」
料理がすごい上手だし、食材の鮮度判断も得意なのかな。
「いんや、さっき教えてもらった。わさびの見分け方は知らんかったからすげぇためになったぜ」
あとでわたしも見分け方教えてもらおうかな。美味しかったらまた買いに来るかもしれないし。
滝は予想以上の迫力で大満足。お腹も減ってきたのでそろそろ戻ることにした。
「今度は登るんだ……」
一本道を降りてきたということは、そこをまた登るということ。体力があるみんなだから別に苦ではないけど、年配の方はかなり辛そうだね。
戻ってきたら観光センターでお昼を食べた。観光センター独自のメニューを食べた人もいれば、普通にお蕎麦を食べた人もいる。特に何もなかったので内容は割愛。
お昼を食べた後はデザートタイム。観光センターより少し先の道の駅に、下調べしたときにすごい気になったデザートが売ってるんだよね。楽しみ!
「わぁ~これがあの『わさびソフト』なんだ!」
わさびソフトと聞いて何を思い浮かぶでしょうか。
緑色のソフトクリームで食べるとほんのりわさびの香りがする。
普通はそう思うよね。
でもここのはそんなよくある変わり種ソフトクリームじゃあないんですよ。
なんと、すりおろした本わさびがソフトクリームに乗ってるんです!
どんな味がするんだろう、いただきま~すっと。ソフトクリームは普通に甘いバニラだね。わさびと一緒に食べると……ツーンと鼻に来るのに口の中は甘い。なんだこれ、面白~い。
「シェルフ、わさびを避けていると最後のほうでわさびだらけになりますわよ」
「うぐっ、どうにも勇気が出ないのでござる」
「わさびも苦手なんでしたっけ?」
「香りは好きでござるが、鼻への刺激が苦手でござる」
異世界3人組はわさび経験済み。というのも寿司を何度もせがまれたので、何回目かにチャレンジしてもらった。わさびの香りは3人とも好きだったけど、寿司にわざわざつける必要が無いって言われちゃった。
シェルフは鼻にツーンとくるのが苦手なのでほとんど食べないけど、ミカンとプラムは気に入ったらしく時々わさび単体で食べている。
「くっは~この刺激たまんねぇなぁ~」
ちょっとすみれさん!?さっき買った本わさびを自分ですりおろして追加でかけてるんですけど。ソフトクリームの上がわさびだらけだよ。流石にそんなに緑一杯だと辛すぎでしょ!
「おめぇらもやってみるか?」
「やるやる~」
ミカンならやるって言うと思ったよ。大丈夫かなぁ。
「みどりいっぱい~あむっ」
あ、動き止まった。イヌ耳が反り立ってる。涙目になってきた。
「ひゃ~~~~~~~!」
突然走り出した!ちょっとミカンどこ行くの!
「お~いし~~~!」
気に入ったんかい!
浄蓮の滝は事前調査無しで行ったら思いの外迫力があってびっくりしました。谷底までの道が結構急なので足腰が元気なうちに行ってみることをオススメします。そして見た目のインパクトが強烈なわさびソフト。天城わさびの里とか道の駅とかのキーワードと一緒に検索すればヒットするはず。画像を見て興味を持ったら是非行ってみてください。ちなみにわさびによって当たり外れがあるそうです。




