15. トンネルには行かない
「次の目的地ってここで良いんだよね?」
わさびソフトを食べてすぐの道路わきの小さな駐車場。周りには何も無いんだけど、どこに行くんだろう。横石さんがこの場所で何を見るか秘密にしてるんだよね。
「ちょっと遠いですけど、ここから歩いて進みますわ」
「え?山に入るの?」
「いいえ、ちゃんと舗装されている道ですわ」
急な坂道を歩いて道なりに進んでゆく。
「この先の川沿いに山道へ入ると珍しい形の石や大きな木があるようですけど、今回は時間が無いので寄らないですわ」
この辺りって何があったっけかなぁ。浄蓮の滝のすぐあとって確かトンネルが……ってそうか、この道ってもしかして!
「お、鹿がいるぜ」
道路の真ん中に2頭の鹿が居てこっちを見ている。親子鹿かな。こっちをガン見してピクリとも動かない。
「野生動物だからみんな刺激しないようにね」
距離もあるし、しばらくこっちも動かずにじっとしてよう。脅かせば逃げるとは思うけど逆に襲われたら危ないのでそれは最後の手段だね。
「中々動かないなぁ」
「困りましたわね、予定を変えて車で向かおうかしら」
そういえば異世界組3人の反応はどうだろう。モンスターだと思って変に攻撃態勢になってなきゃ良いけど。
「朋殿、戻るでござる」
「え?シェルフどうしたの?」
「この先に行っちゃダメー」
「この先は危ないです」
「え?え?」
攻撃態勢ではないけど、すごい真面目な顔してる。どうしたんだろう。
「一体どうしたの?」
「戻ってから説明するでござる。さぁ早くでござる」
「ま、待ってよ。いきなり動いたらあの鹿がびっくりして襲ってくるかもしれないよ」
「大丈夫でござる。アレはこっちが退く分には何もしてこないでござる」
う~ん、仕方ないか。
シェルフの言う通り、鹿は戻る私たちに襲ってくることもなくそのまま立っているだけだった。
「で、どういうことなの?」
車に戻ってきた後、シェルフたちが何を気にしていたのか確認する。
「アレが私たちにこの先に進まないように警告していたでござる」
「警告?」
「そうそうー動物たちの警告は素直に受け取るってのが常識なんだよー」
あっちの世界でのお話かな。
「あの動物は私たちに敵意はありませんでした。その上でこの先に行ってはならないっていう強い意志を感じました」
「そんなの分かるんだ」
「皆さんは分からないのですか?」
いやいや、動物たちの考えていることなんて分からないよ。しかも野生動物だし。向こうの世界でサバイバルしてきたシェルフたちだからこそ分かることなのかな。
「う~ん、でもなんで通してくれないんだろう」
「玲菜、あの先には何があるの?」
「天城トンネルですわ」
『天城トンネル』
石で作られた長いトンネル。トンネル自体の古さと石造りの珍しさ、後は有名な小説にでてくることから観光名所として有名。
「御影様、次へ参りましょう」
「根古ちゃん急にどうしたの?」
「いえ、考えても仕方のないことですし、ここで時間を潰すよりも先に進んだほうが有意義だと考えただけのことでございます」
なんか心なしか顔が青ざめて慌てているような。
「あっれ~仕事中毒ってば怖いの?」
「そそそ、そんなことはございません!」
怖い?ああ、そういえば天城トンネルって。
「天城トンネルは普通の観光地ですわ。心霊現象なんて起きませんわ」
「心霊ってなに~?」
「亡くなった方が幽霊として出てくるとか、そういう眉唾物の話ですわ。霊なんているわけがないでしょう」
横石さんはお化けが平気なんだね。わたしとゆ~ちゃんは小学校の近くがお墓だったから怖いのは鍛えられてるんだよね。中学のころ部活で遅くなった帰りに真っ暗なお墓のそばを通って帰るのはかなり怖かったもん……
「なるほど、怨霊の類でござるか」
「だからあの鹿さんたちは止めてくれたんだね~」
んん?それって向こうの世界だけの話だよね。
「怨霊は聖魔法でないと攻撃できないので厄介なのです。こっちの世界では魔法が無いから野放しにされているってことなんですね」
「しかしそんな場所が観光地になっているとは、この世界での観光にかける執念はすごいでござるな」
いやいや、それは向こうの世界の話だってば、こっちの世界にはそんな物騒なのいないよ。……いないよね?
「ななな、何をおっしゃいますか。れれれ、霊だなんてそんなものが実在するわけが」
「いるでござるよ?富士宮でも二夜殿も良く知っているあの……」
「あああああああああああああああ聞こえないいいいいいいいいいいいい」
ちょと根古ちゃん!車に乗って自分だけで出発しようとしないで!待って~~~!!!
「はぁ、わさび田の水が透き通っていて綺麗ですね。心が洗われるようです。仕事を、仕事をしないと。いっそのこと、ここでわさび作りをはじめようかな」
走り去った根古ちゃんはすぐ近くのわさび田でたそがれていた。
ちょっと短いですがここまで。トンネルの話は数行で終わらす予定だったのですが盛り上がってしまいました。
ちなみに親子鹿に行く道を塞がれて嫌な予感がして引き返したのは実話です。




