閑話2. サッカー 中編
「ごめんなさいっ……ごめんなさいぃぃっ」
ハーフタイム。
この程度のビハインドなら良くあることだし、まだまだ大丈夫だから頑張ろうってみんなで励まし合うのがいつものわたしたちだ。
でも今日はそういうわけにはいかない。
助っ人のくっき~ちゃんが自分のせいで失点したって思って泣いて落ち込んじゃったからだ。
どっちの失点も確かにくっき~ちゃんが抜かれてからの失点だったけど、どっちもくっき~ちゃんは悪くない。先取点の方はわたしたち全員が棒立ちになっちゃったせいだし、2点目もカウンターを成功させて1VS1にしてしまった時点でわたしたちの負けだ。
そう慰めようにも簡単には行かない。
人気絶頂のわたしたちと一緒にプレーするというプレッシャー
それが彼女の肩に大きく圧し掛かっているからだ。
まぁでもわたしはあんまり気にしてなかったりする。
だってここには『大先輩』がいるんだから。
「こらっ!」
「あいたぁっ!」
おおう、ゆ~ちゃんの綺麗なチョップが決まった。舌かんでないかな。大丈夫かな。
「な~にグダグダ言ってんのよ」
「せんばいぃ~」
「うっわ、ちょっと泣きすぎでしょ」
「らっれ~!」
「ちょっと近づかないでって!ダメっユニフォームがっ!汚れるって言ってるでしょおおおお」
「あいたぁっ!」
湿っぽかった控室の空気が一気に和らいだ。流石ゆ~ちゃん。
「まったくもう、『この程度』のプレッシャー、どうってことないでしょ」
「……ふぇ?」
「あんたねぇ、曲がりなりにも同じ会社でアイドルやってるだからこれ以上の修羅場を何度も潜ってるでしょうが」
「…………」
いやいやいや、この状況以上の修羅場って何なのよ。下手すればわたしたちのファンから総スカン食らうかもしれないんだよ?
「そう……ですね」
えええええ!肯定しちゃったよ!
山宮さーーん!
あなた自分のところのアイドルに何やらせてるんですか!
「で、たっぷり泣いてスッキリした?」
「……えへ、大分」
あ~この娘も図太い神経もってるわぁ。完全に見誤ってたかも。怖い、この会社のアイドルたち怖いよぅ。
「でも先輩、このままじゃ流石にまずいです。打開策ありませんか?」
「ふふ」
ん?ゆ~ちゃん何?こっち見られてもわたしは今のところ案は無いよ。
「あの娘、とんでもないわね」
「玲菜?」
「最初から気持ちをスッキリ切り替えるために大泣きしてたのよ」
「そうなの?」
泣いてぐずってたのは素なのかと思ってた。
「それはそうよ。だってあの娘、あんなに泣いている間、一度たりとも『交代させて』って言わなかったもの」
うわ……確かに。
交代要員の助っ人はちゃんと用意してあるし、精神的にボコボコにされたら逃げたくなるのは当たり前だ。でもそんな素振りは全く見せずに後半も出場することが当然だって考えてる。
やっぱりこの人たちおかしいよ!
「ま、おかしいのは私たちもだけどね。毎回これだけの逆境に陥っても絶対負けないって信じ切ってるんだもの」
「それでそのおかしい一員の玲菜さん、何か策はありますか?」
「そうね……一つ賭けて見ようかしら」
ハーフタイムが終わってグラウンドに出てくる。
相手チームの方が先に出てたみたい。
わたしたちは前半と同じく気合十分のまま各ポジションに向かう。
円陣?そんなのやらなくても気持ちは1つだよ。
壮絶なプレッシャーの中、全力で手助けしてくれたくっき~ちゃんのためにも1点もぎとる!
誰かのためにプレーし始めたわたしたちは、強いよ。
後半のキックオフ
相手チームの攻めに対して前半と変わらず人数をかけて粘り強く守る。
そして奪った後は、前半にはほとんど無かった右サイド中心の攻めを試みる。
シャモアちゃんにパスが通った後、全速力で追い越すように前へ走るくっきーちゃん。
これまではくっき~ちゃんは守りに専念してたけど、攻め解禁だ。
もちろんその分守備が脆くなるからそこは後ろのメンバーでカバーする。
シャモアちゃんからくっき~ちゃんへ出すパスは鬼のような高速パス。
全力で走って追いかけるもののゴールラインを割ってしまう。
シャモアちゃんのパスがインターセプトされた場合は、全速力でひたすらボールを追い回す。
走って走って走って走りまくる。
どう考えても残り時間持つわけがない無謀な特攻。
傍からはそう見えるだろう。
でも、それくらいの気迫があるからこそ、相手はくっき~ちゃんの迫力を恐れて速攻を仕掛けることが出来ず後ろに回してゆっくりと攻めざるを得ない。
流石にもうそろそろ走れなくなるだろうと誰もが思った後半10分。
徹底して右サイドから攻めていたけど、ここで左サイドへとボールを回す。パステルちゃんを追い越すようにミカンが走り、そのミカンの前へ鋭いパスを供給する。ただ、こっちはシャモアちゃんのような追いつけないパスじゃなくてトラップしやすい絶妙な距離だ。
ほんのちょっとだけでも、頭の片隅にでも、『今度もパスが長くてゴールラインを割るかもしれない』って相手に思わせることが出来れば御の字。
本当にそれが影響したのかは分からないけど、ミカンはオフサイド無しに左サイドを突破することができた。
わたしとゆ~ちゃんが中に詰めてミカンがドリブルでペナルティエリア内に切り込む。目の前には2人のDF。何度か繰り返されたこの光景。今度はシュートか、マイナス方向へのパスでプラムのミドルシュートか、それともこれまで一度も選択してないわたしかゆ~ちゃんへのクロスか。
ミカンが選んだのはゆ~ちゃんへのクロスだ。
狭いペナルティエリア内、天賦の才をもつゆ~ちゃんは相手のマークを軽やかに躱してフリーになり、ミカンのクロスに頭を合わせた。
「えいっ!」
ゆ~ちゃんの頭に跳ね返ったボールは、何故かゴールの反対側へと飛んで行く。
ペナルティエリアギリギリのそこは誰も居ない空白地帯で、ミドルシュートを用意していたプラムが走り込むには少しだけ時間がかかる位置。プラムもミドルシュートを警戒されてマークされていたから、そこに転がったとしても結局は打てなかった。
「っ!」
そこに猛スピードで走り込んで来たのはくっき~ちゃんだ。
ミカンがボールを持った時にはまだ右サイド後方で守っていたのに、ここにボールがこぼれると信じて走ってきたんだ。もちろんわたしたちがこうなるって教えたんだけどね。
誰よりも速くこぼれたボールの元にたどり着いたくっき~ちゃんはその勢いのまま右足を折り曲げて……
「せんぱ~い!」
シュートをせずにそのまま目の前にいるゆ~ちゃんに飛びついた。
勢いを殺せずもつれあって倒れ込む2人。
更にはシュートだと思いシュートコースを消そうと相手選手はスライディングをして倒れている。
触れられなかったボールの元へ走り込むプラム。
プラムをマークしていた選手は走り込んでいたくっき~ちゃんに気を取られてマークを外されていた。
そりゃあ、この瞬間に注目させるためだけに、後半目立つようなプレーをさせていたんだもん。
プラムの目の前には倒れ込んだ人たちの上に広大なスペースがある。
ゴールキーパーも目の前でゆ~ちゃんとくっき~ちゃんがもつれていたからプラムの姿は良く見えていない。
後はガラ空きの左隅に向かって、
「ふっ!」
力強く振り抜いたプラムの一撃が突き刺さった。
「やったあああああああああああああああああああああああ!」
「プラムーーーー!!!!」
両手を天に突き上げてガッツポーズするプラムのもとに、わたしたちは殺到した。
あ、気持ち良い。ふにふに。
「選手の交代のお知らせです。くっき~選手に変わり、ハル選手が入ります」
全力を出し切ったくっき~ちゃんはここまで。
試合再開の前に交代だ。
パチパチパチパチ。
そのきっかけは誰だったか分からない。
ただ、その音はあっという間に爆発的に広がった。
スタンディングオベーション。
みんな、くっき~ちゃんが頑張ってたって分かってるんだよ。
良かったね。
わたしたちも拍手で送りだす。
そんなスタジアムの様子を不思議そうな表情で見渡すくっき~ちゃん。
「あ……」
その目が捉えたのは、相手チームの選手による拍手だった。
「あなた、凄かったわ」
「くっき~ちゃんって言うのね。私、ファンになっちゃうかも」
「試合終わったら連絡先教えてよ。次のライブ絶対行くから!」
その言葉を受けたくっき~ちゃんは一瞬軽くうつむいた後、満面の笑みで答えた。
「はい!」
くっき~ちゃんのファンが爆発的に増加した瞬間だった。
か、かわいい。わたしもライブ行きたいかも




