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異世界人の友達と日本を旅しよう  作者: マノイ
1章 隠岐諸島「優しい女の子」
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閑話1. サッカー 前編

サッカー好きでない or 知らない人は飛ばしてくださいな。

「みんな、行くよ!」

『オー!』


 円陣になって、いつもとは違う掛け声をかける。スポーツをやる場合は何となくこっちの普通の掛け声をするのが恒例になっていた。


 わたしたちは野球の試合をやって以来、いくつものスポーツを体験してきた。勝敗は五分五分。山宮さんが選ぶ対戦相手が毎回絶妙なレベルの強敵なんだもん。むしろ良く半分近く勝利できたと思うよ。


「朋、勝つわよ」

「もちろん」


 玲菜と軽く拳を合わせ、センターサークルへと向かう。


「ゆ~ちゃん、頼りにしてるからね」

「もちろん、弓弦に任せて!」


 先に待っていたゆ~ちゃんに声をかけ、2人揃ってキックオフの時を待つ。


 今回の対戦相手はアマチュアのチームだけれど、大きな大会で好成績を残している強豪だ。野球の時と同じで、素人のわたしたちが勝負になる道理は全くない。それでも、持ち前の身体能力と絆の力で全力で立ち向かえば結果はついてくると信じている。


 ここは静岡県日本平スタジアム。プロのサッカー選手が試合をする会場が、ファンで埋め尽くされている。Webでの放送もあるし、無様な姿は見せられないね。


 ちなみに今回サッカーをやる理由は、ワールドカップを見て異世界組が興奮したことが原因だったりするとかしないとか。


「ふふふ、ざわざわしてるね」


 スタメンは事前に公開してある。でも、改めてわたしたちのフォーメーションを見てファンのみんなが驚いているみたい。


 ゴールキーパーはねこにゃん。

 センターバックはすみれさんとシェルフの背が高いコンビ。

 左サイドバックはミカン、右サイドバックは助っ人の『くっき~』ちゃん。


 サッカーは11人必要だけどわたしたちは10人しかいない。

 悩んだ結果、ゆ~ちゃんの後輩アイドルに白羽の矢が立ったんだ。

 助っ人って言ってもくっき~ちゃんもサッカー未経験だけどね。

 でも、山宮さんの事務所だからか、スタミナはかなりのものだ。


 ボランチ(守備的ミッドフィルダー)は玲菜とプラム。

 左サイドがパステルちゃんで、右サイドがシャモアちゃん。

 トップ下(攻撃的ミッドフィルダー)はゆ~ちゃん。

 フォワードはわたし。


 これがわたしたちのフォーメーション。


 そりゃあ驚くよね。

 だって球技が大の苦手のゆ~ちゃんを攻撃の要のトップ下に入れてるんだもん。

 ふふふ、ちゃんと意味があるんだからね。




 そんなざわめきが収まらないうちに、キックオフの笛が鳴り響いた。

 わたしたちのボールで開始。

 まずは玲菜の方へボールを下げる。

 相手の選手が玲菜のもとに素早くプレスをかけにいくけど、センターバックのすみれさんやシェルフに戻して落ち着いてボール回しをする。


 素人集団がどんな試合をするのだろうか。

 流石にサッカーは通用しないだろう。

 少しでも健闘できれば十分でしょ。


 そんな空気をまずは打ち砕いてやる。

 こっちは最初から最後まで全力でぶつからなきゃボコボコにされるだけなんだから。


「玲菜!」


 後方でのパス回しの流れで玲菜にボールが渡ったタイミングで合図する。

 相手がわたしたちのやり方を知らない間に、奇襲で先取点を取るぞ。


 わたしの合図に反応して玲菜がパスを出した。ゆ~ちゃんに。


 相手はゆ~ちゃんが球技が苦手なことは承知だったので厳しいマークはつけていない。

 どうせミスするからそこを奪えば良い。

 それは普通なら正しい判断だと思う。


 でもね。


 玲菜からのグラウンダーの速いパスを受けたゆ~ちゃんはそのボールを足でトラップして止め……ることは出来ず、明後日の方向にボールが転がってしまう。


 やっぱりダメか。


 なんて思わせないよ。


 誰もが予想だにしなかった方向にボールが飛んだはずなのに、そこにはわたしがいるんだもん。


「ゆ~ちゃん、ナイスパス!」


 わたしとゆ~ちゃんと玲菜の絆を舐めてもらっては困る。ゆ~ちゃんがどんな風に失敗するかなんてわたしだったら簡単に予想できるんだ。だから、ゆ~ちゃんがボールに触る前に、ボールが飛ぶと予想した方向にわたしは走り込んでいる。


「シャモアちゃん!」


 わたしがそのボールを受け取ると信じていたシャモアちゃんが右サイドを駆け上がっているのでパスを出す。シャモアちゃんは能力はあるけど1人だとポンコツな行動をすることが多いから、この試合、右サイドは捨ててるって思った?


「うふふ、ナイスパスだよ!」


 虚を突かれた相手のサイドバックを置き去りに右サイド相手陣内奥深くまでドリブルするシャモアちゃん。中央にはわたしとゆ~ちゃんが待っている。相手の方が人数が多いけど、良いクロスがあがれば……


「えいっ!」


 フリーであげられたクロスは、中央で待つわたしたちの上を大きく通過した。


 ああ、やっぱりシャモアちゃんは肝心なところで、なんて思った人もきっといただろうな。


 でもね、シャモアちゃんは絶対に失敗しない場合があるんだよ。


 わたしたちを越えたボールは逆サイド、ペナルティエリアの少し外で待ち受けていたパステルちゃんの胸に収まった。そう、パステルちゃんへのパスをシャモアちゃんが失敗するはずが無いんだ。


 少し遠いけど、パステルちゃんは胸でトラップしたボールが地面に落ちるのを待って、そのままノーバウンドでゴールに向かってシュートを……しなかった。


 シュートフェイント。


 シュートコースを消そうと相手DFが滑りこんで倒れている。


「はいっ!」


 パステルちゃんはそれを確認するより前に、パスを出していた。

 いわゆるマイナス方向のパス。

 ペナルティエリア中央の外側に勢いよく転がったボールに向かって走り込んだのはプラム。


 右半分、シュートコースは空いている。


「プラムーーーー!いっけえええええええええええ!」


 ノートラップで振りぬいたプラムのシュートは弾丸ライナーともいえる高速の軌道で相手ゴールの右隅へと向かい…… 


 惜しくもサイドバーに当たりゴールラインを割ってしまった。


「ナイッシュー!プラム良い感じだったよ!みんなも練習通りで凄く良かった!次は点取ろう!」


 惜しかったなあ。プラムのミドルシュートは練習では半々くらいの成功率だったから、しょうがないかな。


「よし、守備集中!」


 ファンのみんなや相手が驚くことなんて想定内だ。わたしたちはその雰囲気に飲まれずに、まずはしっかり守らないと。


 でもちょっとだけ思っても良いかな。


 どうだ!わたしたちのイレブンは!ライブと同じで楽しいでしょ!




「くっ……」

「ボールをしっかり見て!相手の動きに惑わされないように!」


 サッカーの技術については大幅に劣っているわたしたちが点を取られないように守るには、人をかけるしかない。もちろん世の中には何人で囲もうとも余裕で突破してくる人もいるけれども、それをやられたらもう仕方ないと割り切って人数をかけて守るしかない。


 1人には2人で、2人で突破されそうなら3人で。突破されても諦めず、パスを回されても振り回されないように慎重に距離を測る。そして一番重要なのはシュートコースを作られないこと。後は気合だ。


 と思っていたんだけど、パス回しに翻弄されたのか、すみれさんとシェルフの間が少し空いてシュートコースが出来てしまった。


「あっ!」


 ペナルティエリア内か外かギリギリのところから打たれたシュートは幸運にもクロスバーを越えてゴールラインを割った。


「よしっ」

「やったでござるっ」


 あれ? 2人が喜んでる。どういうことだろう。もしかしてわざと打たせた? そういえばシュートコースが空いてるって思ったけどねこにゃんの正面だったような。そんなテクニック練習してないよね、どこで覚えたの!?


 すみれさんとシェルフのセンターバックコンビは、わたしが想像していたよりも遥かに強固だった。ハイボールは高さで跳ね返し、シェルフのスピードが裏への突破を簡単には許さない。


 間違いない、絶対わたしの知らないところで特訓してたよ、これ。


 背が高いからって簡単に空中戦で競り勝てるわけないもん!足が速いからって相手のスルーパスを簡単に止められるわけないもん!


 相手チームはわたしたちを思いの外崩せなくて少し焦り気味かな。逆に会場の雰囲気はいけるかもって感じになってわたしたちを後押ししてくれてる。


「玲菜!」


 この雰囲気にのって今度こそ先取点だ!って思ってゆ~ちゃんへのパスを狙ったんだけど……


「くっ……」


 わたしに徹底マークすることでゆ~ちゃんを経由したボールをカットしてきた。くそぅ、流石に 1VS1じゃ勝てないよぅ。


 攻め手を1つ失ったわたしたちはなすすべなく相手の攻撃にさらされ続け……とはいかないよ。


「プラムっ!」


 今度はプラムからゆ~ちゃんへのパス。ゆ~ちゃんの失敗コースを予測して走り込むけど、変わらず徹底マークされていて辛い。


「ぱ、ぱすっ!」


 ゆ~ちゃんの失敗パスはわたしの方と逆サイドへ。そしてそこへ走り込んでいたのが……


「ナイスパスよっ!パステルっ!」


 玲菜だった。わたしはおとりだよん。玲菜だけじゃない、他のみんなも完璧とは言えないけどある程度ゆ~ちゃんのボールがどこへ行くか想像することが出来る。選択肢は沢山あるんだ、簡単には奪わせないよっ!


 玲菜はサイドを駆け上がるパステルにパスを出した。


「あちゃ~オフサイドだったか~」


 パステルちゃんが少し早すぎたのか、オフサイドだった、残念。また左右で揺さぶってから決めようと思ったのに。


「カウンターくるよっ!」


 この声が影響したのか、じっくり攻めてきた。さぁ、徹底して粘るぞ。


「もらいですっ!」


 相手の司令塔からフォワードへ当てるパス。それを読んでいたプラムが奪取した。


 プレーの大半は相手がボールを保持しているけれども、時々奪うと会場が大歓声に包まれる。今度こそ決めるぞっ!


「えいっ!」


 プラムはそのままゆ~ちゃんにパスを出す。と、今度は相手がゆ~ちゃんをマークしてボールを奪いに来た。そりゃあそうだよね、ゆ~ちゃんが変なパスを出すとは言え、そもそもボールに触らせなければ惑わされないってのは当然のこと。


 でもね、ゆ~ちゃんを舐めてもらっちゃあ困るよ。


「任せてっ!」


 相手のマークを外してボールをもらいにいく動き、それはゆ~ちゃんが得意とすることなんだから。


「なっ!」

「あっ!」


 ゆ~ちゃんは足元に来たボールを軽くトラップして華麗にターンしてマークされていた相手を突破……なんて出来るわけもなく、最初にボールに触ったものの明後日の方向に大きく蹴りだしてしまう。


「ナイスパス!」


 左サイドライン際ギリギリ。パステルちゃんに通った。


「いっけえええええええ!」


 パステルちゃんの高速ドリブルだ。中にはわたしとゆ~ちゃんが走り込んでる。パステルちゃんはそのまま中央へ向かってドリブルし、ペナルティエリア内に入ってきた。


 目の前には相手選手が2人、わたしとゆ~ちゃんにもしっかりマークがついている。


 パステルちゃんの選択は……


「えいっ!」


 シンプルに軽く振り抜き、ボールは相手ゴールキーパーの左側、ニアサイド、狭い方へ向かって飛ぶ。


 ガンッ!


 惜しくもサイドバーに当たったボールは逆サイドの方へ向かって飛び出す。


 そこに走り込んでいたのはシャモアちゃん、わたしとゆ~ちゃんは中央でつぶれて相手選手を引き付けている。


 ゆ~ちゃんは球技が苦手だ。

 でもそれは、ボールの扱いが苦手と言うこと。

 つまり、ボールを持ってない間の動きは苦手では無くて、むしろ得意なんだ。

 しかも最初のプレーでゆ~ちゃんがボールを触ることに意味があるって相手に思わせたから、しっかりとマークせざるを得ない。

 そう思わせればこっちのもの。ゴール内での動きで相手を引き付けるなんてゆ~ちゃんにとってはお手の物なんだ。


 さあシャモアちゃん、ゴールキーパーとの間に相手選手はいないよ!


「ふんっ!」


 シャモアちゃんのシュートはゴール右端へと向かって邁進し、相手ゴールキーパーの横っ飛びのスーパーセーブで弾きだされた。


 うっそ、今の弾くの?あんなの見てからじゃ絶対間に合わないよね。まさか勘で飛んだの!?


「悔しいいいいいいいい」


 うんうん、シャモアちゃんのその気持ち、わたしたち全員が思ってるよ。絶対先取点取れたと思ったのにぃ!


 それから先は相手のマークもより激しくなり、必死に守る時間帯が続いた。時折攻めることはできるものの、決定機にはならない。前半はこのまま終わるのかという雰囲気になりかけた前半40分。


 ピピーッ!


 ドリブル突破しようと試みた相手選手を止めようと、玲菜の足がかかってしまった。カードは出なかったけどペナルティエリア外ギリギリのところでフリーキックだ。


 セットプレイはまずい。相手はたくさん練習しているだろうけど、わたしたちはもちろん経験がほとんど無いから苦手だ。た、確か近すぎると逆に狙いにくいって聞いたことがある。壁にひっかかってくれることを祈るしかっ!


「大丈夫です皆さん!練習通りいきましょう!」


 後ろでねこにゃんが叱咤激励してくれる。そうだ、ここまで無失点に抑えてきたんだ。腹を括って気合で守り切るんだ!


 そんなわたしたちの異様とも思える集中力。


 それを嘲笑うかのように、相手選手は大きく後ろにボールを戻し、


 予想外のことに対応できずに止まってしまったわたしたちの一瞬の隙をついて、


 相手側から見てペナルティエリア内左側に出されたスルーパスが綺麗に通り突破され、


 ダイレクトで打たれたシュートがゴールネットを揺らしてしまった。




「みんな、大丈夫! まだ前半だよ!」


 前半残り時間があとわずかでの失点。


 いけるかもしれない、勝てるかもしれないとにわかに思えていた状況での失点。


 それが、わたしたちの心に重くのしかかったのか、


 あるいは、これで前半は1点取られたまま終わりかなと思ってしまった油断があったのか、


 前半アディショナルタイム。


 全体的に少し前がかりになってしまったわたしたちは、


 カウンターを受けて、相手左サイドを突破され、 2点目を許してしまった。


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