第3章 ドルメンの石棺
第1話 ウガモ・マリルへの訪問
「はい。これが今回のエジプト石碑調査の結果です。棺の中にあったものに関しては、未だ特定できていません。それと、石碑に刻まれていた文字についても、確証は持てませんでした」
「そうか。では、この報告書では、どれも不鮮明なものが残っているということか」
「その通りです」
「君は、この問題が起きた場所での調査を続行しない、という結論を出しているな。その理由を聞かせてくれるか?」
「はい。今回の石碑調査で最大の障害となったのは、石碑、もしくはそこにあった棺の持ち主と思われる、メネス=ナルメル=ホル・アハという人物が、未だ近くにいる可能性が高いことです。それと、彼自身が『この辺りに人間はいない』という発言をしていました。そのような状況で、私以外の研究員を連れて調査を続行するのは、あまりにも危険だと判断しました」
「そうか。君がそこまで警戒するというのであれば、その意見を飲もう」
本部は一度、報告書へ視線を落とした。
「では次に、この報告書に書かれている石碑の文字を解読した人物――ユイザキ・ハルカと、ほか4名を連れてインドネシアの調査を頼もう」
「インドネシア、ですか?」
「今回の調査では、遺跡などをくまなく調査するのはもちろんだ。加えて、そこに存在するアニミズム由来の宗教団体を訪ねてほしい」
「かしこまりました」
「以上だ。理解したら、研究室に戻りたまえ」
「はい」
局長は一礼すると、研究室へと戻っていった。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様」
そこへ、日本の調査へ向かっていたメンバーが帰ってきた。
「ソフィー・ミュラー、ただ今帰りましたー!」
「お帰りなさい。どうだった? 日本は楽しめた?」
「ええ、もちろんです! 現地では私たちが思っていた以上に異常も何もなかったので、期間の半分以上は観光してました!」
「えぇ! ソフィーさん、日本行ってたんですか! 先に言ってくださいよ!」
「いや、君は私たちが行く前に急にエジプトへ行ってたじゃないですか。色々話を聞いてから行こうとしてたのに、いなかったんですもん」
「くっそ、タイミングが悪い……。名古屋の鬼まんじゅう食べたかった……」
「おぉ、奇遇ですね。私たち、愛知県にも行ってたんですよ」
「ほんとですか!」
「ああ、ちゃんとお土産も買ってきたぞ」
「ありがとうございます!」
ハルカは受け取った袋を覗き込む。
「は……神。ルーカスさん、鬼まんじゅう入ってるじゃないですか!!」
「なんだ? その鬼まんじゅうとやらは。俺はシンプルに文字がカッコよかったから買ったんだが……満足してくれたならいいか」
「あ、そうなんですか。でも何はともあれ、鬼まんじゅうはありがたい。名古屋にいた俺からすれば、これ以上に懐かしい名古屋名物はない! ひつまぶしとか、味噌煮込みうどんとか色々あるが、そんな物より俺は鬼まんじゅうが好きだ!」
「ソフィーさん。報告書の提出が終わったら次の話があるから、声かけてね」
「らじゃーです! あ、でも特に何事もなかったので、現地で全部終わらせてます」
「あら、じゃあ書類を頂くわね」
「どうぞどうぞ!」
「ありがと」
局長は書類を受け取ると、すぐに本題へ入った。
「じゃあ単刀直入だけど、来週からインドネシアに行ってほしいの。今回は現地調査と、ドルメンの石棺について。データは明日送っておくから、確認してね」
「わっかりました!」
「ハルカ君も、来週からインドネシアね!」
「了解です!」
――後日。
研究室に届いたデータを、メンバー全員で確認することになった。
「ではでは皆様方、局長から頂いたデータをさっき送ったので、確認をお願いしますね~」
ソフィーが端末を操作しながら続ける。
「それと今回は、現地調査とドルメンの石棺について。少し脱線はしますが、インドネシアの宗教団体も訪ねようと思います」
「じゃあ、今回は俺が宗教団体について事前準備をしておこう」
「お願いします! あと、ハルカさんは局長から名指しなので、今回はルーカスさんと一緒に宗教団体について調査をお願いします」
「了解です。ルーカスさん、お願いします!」
「おう。ちゃんと働くんだぞ~」
「では、3日後にインドネシアへ行こうと思います。皆さん問題はないと思いますが、万が一に備えて、現地のルールや原則は各自調べておいてください!」
「はい!」
集まっていたメンバーは解散し、それぞれの仕事へ戻っていった。
「インドネシアか……。行ったことは今までなかったか。まさか、この研究室に入ってから2年。ひと月半の間に2つの国に行くことになるなんて思わなかったな」
ハルカは椅子に座りながら、届いた資料を眺める。
「よし。何もないことに越したことはないが、役に立つようにしっかり準備していかないとな」
「おーい、ハルカー」
「……あ、はい! なんでしょう?」
「さっきソフィーから聞いたんだが、俺らは宗教団体についての情報集めがメインらしいから、一緒に下調べでもしようかなと思ったんだが、大丈夫そうか?」
「はい、全然問題ないです!」
「よし。なら早速なんだが、今回はインドネシアのスマトラ島。詳しくは、パガール・アラムっていうところだな。今回のドルメンの石棺も同じ場所だ」
「そもそも、石棺なら分かるんですけど、わざわざ宗教団体って意味あるんですかね?」
「それが、実のところそうでもない。さっき少し調べたんだが、インドネシアにはアニミズムと呼ばれる思想を持っている団体もある。主に宗教っていうのは、キリスト教やイスラム教、その他の宗教も含めて、神を信仰するものが多い。その中で、アニミズムというのは自然物や生命などを信仰の対象にすることもある。おそらく一番有名なのが、精霊信仰だろう。だからソフィーは、宗教まで調査したいんだと思う」
「精霊信仰……あまり聞いたことがない単語ですね。でも、なぜ今さら宗教なんですかね? 宗教ぐらいなら、正直もう知り尽くしてる感じはあるんですけど。違うんですか?」
「たしかにな。そう考えるのが妥当だとも思う。ただ、基本的にこの研究室に回される依頼は、2パターンしかない」
ルーカスは資料をスクロールしながら続けた。
「元々、議題にすら上がらなかった危ない物がうちに来るか、先行して研究していたチームのレベルでは問題を解決しきれなかったか。その2種類だ」
「え、ここってそんな危なくて、よく分からない案件ばっかり行ってるってことですか?」
「簡単に言えば、そうなるな。まだハルカは2年目だし、基本的に解析データの入力が多かったから、まだ知らなかっただろ?」
「えぇ、全然知りませんでした……。先輩方って、そんなに大変な毎日送ってたんですね。てっきり、ずっと海外に飛んでは遊びに行ってると思ってました。お土産も沢山くれるし……」
「ハルカ、お前そんなこと思ってたのか!? 心外だな。意外と命を張る場面だってあるんだぞ?」
「あ、やっぱそうですよね。僕もこの間行ったエジプトで死にかけました。緊急事態すぎて、お土産も買う暇なく帰ってきたので……」
「ははっ、それは災難だったな。でもハルカはかなり珍しいぞ? まだ2年目で現地に行くなんて、全くないからな」
「え? そうなんですか?」
「そりゃもちろん。ある程度の経験値と戦闘能力、あとは論文ぐらいは書く能力を身につけないとやっていけないからな。でも多分、局長が気に入ってるからだろうな。ハルカは仕事も学力も一般より少し上ぐらいだが……意外とイケメンだからな」
「顔だけってことですか! 酷いこと言いますね」
「冗談だ」
ルーカスは笑いながら端末を閉じた。
「さて、一応ある程度方向性は決まってる。後でデータを送っておくから、ハルカの方からも色々調べてみてくれ。よろしくな」
「了解です!」
さてと、今回はインドネシアか。
残り2日。この範囲で、できるだけアニミズムと信仰について予備知識を入れておかないと、おそらくエジプトのときみたいに、現地に行ってから何もできなくなってしまう。
頑張らないと。
「まずは、アニミズムについてか……」
そう言って、パソコンの画面を眺める。
アニミズム。
自然や物にも、人間のような霊や意思、生命が宿っているという考え方。
「なるほど。意外に日本と同じ感じか」
日本にも山の神様だったり、水に関係する神様だったり、自然にまつわる存在が色々あることは知っている。
「俺の問題としては、そもそもどこから切り口を作るかが問われることか……。日本人って、とことん解決能力だったり、ずる賢さだったりが他の国と比べて劣ってるからな~。上手いことできない」
少し考える。
「じゃあ、局長ならどう考えるかを考えてみるか……」
宗教。
信仰。
アニミズム。
「うん。何も分からん」
その瞬間、呆れたような自動音声が頭の中へ入り込んできた。
『今回、アニミズム及び宗教の情報を探ることは、以前ホル・アハが言っていたことに紐づけられます』
「そうか。あいつが言っていた言葉……。たしか、転生? あとは固有スキルの上限」
ハルカは一度、画面から目を離した。
「そもそも、寿命が存在しない世界で、なんで転生なんか面倒くさいことをするんだろうか?」
考えれば考えるほど、疑問が増えていく。
「死なないんだから、転生っていうのも愚問なのか? それとも、何かがきっかけで死んでしまったのか……」
そして、ふと思い出す。
「そうか。世の全てが不死ではあるけど、死んだ人間や偉人は、日本でも同じように祀られたり、記録が残されたりする。でも、日本って不思議なことに、生きた人間を祀るところもあるよな」
ハルカは腕を組む。
「そういうこと? そもそも信仰って、生きてるものに対して行うものなのか?」
『その認識で問題ありません。ですが、さらに明確にすると――』
自動音声が続く。
『信仰の根本は、何かを称えることです。それが長い年月の中で変化した結果、現在の信仰形態へと収まりました』
「なるほど」
ハルカは画面を見つめたまま考える。
「ということは、崇めることそのものが本質じゃなくて、築いた功績に対して正当に評価する行為が信仰ってことか」
「まぁ、たしかに。信仰される何かって、基本的にはかなりの強者ではある」
しかし、どうしても引っかかる。
「ただ、引っかかるのはそこか……」
ハルカは再び考え込む。
「不死でありながら、なぜ強者のみがことごとく現代まで生きられなかったのか。争いがあったのはもちろんだけど、どうもそれだけでは例外が多すぎる気もする」
日本のことを思い出す。
「日本だと、戦争で亡くなった人や、そもそも架空の存在まで祀ってたりするし……。個人的には、裏付けが多く取れてる海外の方が実在する確率は高いと思ってる」
一度、画面を閉じた。
「……そこは、現地に行って聞いてみるしかないのか」
――そして、2日後。
インドネシア出発の日。
「さて皆さん! ちゃんと揃ってますねー!」
ソフィーが元気よく声を上げる。
「では、いざインドネシアへ! しゅっぱーつ‼」
「どうだ~、ハルカ。ちゃんと調べてきたか?」
「もちろんです! 抜かりなしです!」
「おっ、そうか。じゃあ頼りにしてるぞ」
飛行機へ乗り込み、しばらくして。
ソフィーが全員を見渡した。
「では、飛行機の中ですけど、今回はハルカさんが初参加なので、久しぶりにスキルのすり合わせをしようと思います!」
「まずは私から!」
ソフィーは胸を張る。
「ソフィー・ミュラー。私の持っている固有スキルは、還元! 基本的には、物を還元する能力です!」
「例えば、古びた鉄を綺麗にしたり、とかですかね~」
「それと面白いところは、還元された物質について、その情報が完璧に分かるところです! そのぐらいですね~」
「じゃあ、次にルーカス君!」
「おう」
ルーカスが口を開く。
「ルーカス・スミスだ。俺の固有スキルは、物動干渉」
「俺のスキルでは、無機物、有機物、単細胞生物の運動に干渉できる。例えば、物体の振動や運動方向を変えたりできる」
「単純な物理命令なら与えられるが、二重の命令は与えられない。それが欠点だな」
「ありがとうございます!」
ソフィーはそのまま続ける。
「あと、もう1人は私の妹のルーナ・ミュラーですね! ルーナはここにはいませんが、もう既に現地に到着しているので、私がざっくりお話しておきますね」
「ルーナの固有スキルは、結合! 異なる物質や同位元素、物体の再構築ができる能力です。壊れたものを直したりとか、できます!」
「今回は、私とルーナ、ルーカスさんとハルカさん、それから警備隊の方4名、合計8名で調査を行います!」
「はい! それでは次に、ハルカさんですね!」
「え、あ、えっと……はい!」
ハルカは少し姿勢を正す。
「えっと、僕の固有スキルは――」
その瞬間だった。
『今ここで、ビッグバンの情報を話すのはおすすめしません』
「え?」
ハルカの動きが止まる。
「なんで?」
『所有者以外の思考から法則を創り出した場合、反転が起こります』
「それって、どゆこと?」
『固有スキル、無秩序は、その特異性からクラスがラプラスになっています』
「うん。それは知ってるけど……何か問題が?」
『ラプラスを持たない存在から法則が創り出されれば、世界法則がその乖離を認識し、その存在または根源の抹消が起こるためです』
「……え?」
「ハルカ君? どした?」
ソフィーが不思議そうにこちらを見る。
「い、いや、えっとー……」
『現在のあなたは、世界の第二法則という立場に置かれています』
『第一法則の権限なしに、外部の情報を取り入れるという行為は行えません』
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
『では、これからは固有スキル――』
一瞬の間。
『万能魔力』
「……万能魔力?」
『能力は、全ての法則魔法を使用可能。また、その際の魔力消費はゼロになります』
『これで乗り切ってください』
「まぁ、たしかに……」
ハルカは少し考える。
「新しい法則を創るなら、案外ズレすぎたものでもないのか。よし」
「えっと、はい」
ハルカは顔を上げる。
「名前はユイザキ・ハルカ。固有スキルは、万能魔力です」
「能力は、全ての法則魔法が使用可能で、その際の魔力消費がゼロになる能力です」
「へ?」
ソフィーが目を丸くする。
「えっと、それ、スゴすぎなくないですか? なんでも使えるのに魔力消費もゼロになるの?」
「……ん?」
「私、今何聞いてたっけ?」
「なるほどな」
ルーカスは少し考えたあと、納得したように頷いた。
「たしかに、これならあの局長も目をつけるわけだな」
「えっと、はい。ありがとうございます」
ハルカは苦笑する。
「実際には、まだ勉強不足で、仕組みを理解しないと上手いこと発動しないんですけど……頑張ります」
「わ、分かりました!」
ソフィーは少し困惑しながらも話を切り替える。
「とりあえず、この場はこれで収めておきましょう! では、現地に着いてからのスケジュール等を今から伝えます」
ソフィーは端末を取り出す。
「まずは、インドネシアに着いてから一度、インドネシアの研究所に寄ろうと思います。そこで前任の調査内容をしっかり確認してから、現地へ向かおうと思います」
「その後は2組に分かれます」
「私と妹のルーナ。ルーカスさんとハルカさん。そして、それぞれに警備隊を2名ずつ配置します」
「時間帯は、現地時刻の午後6時には作業を終えてください」
「寝泊まりする場所については後で送っておくので、そちらの確認をお願いします!」
ソフィーは全員を見渡す。
「では、怪我や問題なく、今回も調査していきましょう!」
「はい!」
そして、インドネシアに到着する。
「インドネシアとうちゃく〜!」
「うわぁ、やっぱりインドネシアって暑いですね」
「当たり前です。ヨーロッパとは気候が全く違うんですから」
「あ、やっぱりそうですよね」
「じゃあ、早速研究所の方に行きましょうか」
メンバーは手配されていたバスに乗り込み、研究所へと向かう。
「ハルカ、知ってるか? インドネシアの研究所は、俺らの研究所と違って海の上にあるんだ」
「そうなんですか!?」
「そうですよ〜。インドネシアは島国ですからね。陸地に建ててしまうと、意外と不便が多かったりするらしいです。それと、海の上の方が便利なこともたくさんあります」
「それって、なんなんですか?」
「それはですね〜。行ってからのお楽しみです!」
「あ、そこは焦らすんですね」
「ソフィーはいつも大切なところを焦らすSだからな」
「誰がSですか! ルーカスの方がSですよ。ほら、スキルも焦らすために色々なことできるじゃないですか!」
「俺のスキルを変に例えるなよ! なにが焦らしだ。ったく、酷い言われようだな」
「まぁまぁ、とりあえず着くのを楽しみにしますよ」
バスを降り、フェリーへと乗り込む。
「おっ! 見えてきましたよ〜。あれがインドネシアの研究所、アルヴヘイト魔法大学研究所です!」
「おぉ……すっごいでかいな」
それは、三角形を組み合わせた幾何学模様のような建物だった。
「それでは、ここで答え合わせをしましょう。このアルヴヘイト魔法大学研究所はトラス構造になっていて、とにかく頑丈なんです!」
「え、もしかしてそれだけですか?」
「えぇ、もちろん」
「あ、そうなんですか」
「ソフィー、お前はほんとたちが悪いな」
ルーカスが呆れたように言う。
「いいか? ハルカ。ここはトラス構造なのはもちろんだが、幾何学構造を利用して空にデータを送れるようにしてあるんだ。基本的には情報を外部に漏らしてはいけない。だが、共有すべき情報を得た時には、この建物の形状を変えることで、上空をどこかのタイミングで通過する人工衛星から読み取れるようになってる」
「なるほど、とんでもない技術ですね。でも、どうやったらそんなことができるんですか?」
「それは実際にここの局長に会うことがあれば分かるさ」
そして、無事に研究所へと到着する。
「おはようございまーす! 資料取りに来ましたー!」
「はい。お待ちしておりました、ソフィーさん。こちら、報告書になります。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「いつもありがとうございます!」
すると、ちょうど妹のルーナがやってくる。
「お姉ちゃん、いるならちゃんと言ってよ〜」
「いや〜、別に書類受け取ってからちゃんと呼ぶつもりだったよ」
「いっつも私のこと置いていくんだから!」
「毎回じゃないよ。たまたま書類を受け取った時に忘れて先に出ちゃったりとか、たまたま現地の場所を間違えて送ってたりとか、たまたまご飯をみんなと食べててルーナが先に現地に行ってたりとか。それが七割三分あるぐらいだよ」
その言葉に、全員が口を揃える。
「それ、ほとんど毎回じゃん!」
「まぁ、とりあえず、みんな揃ったことだし、早速現地に向かっちゃいましょー!」
そして、メンバーは目的地へと向かう。
現地に到着すると、ソフィーが全員を見回した。
「とうちゃーく! みなさん、はぐれてないですね! では、ここからは慎重に切り替えていきます。
最初に話した通り、私とルーナ、ハルカさんとルーカスさん、そして各二名の警備隊の方々に分かれて、調査を開始します。何かあれば私に連絡をください。
緊急時は一応、局長も研究所から百眼で多分全部見えているので、局長に連絡するのもありです」
「えぇ、局長そんなこともできるのか……。やっぱり一人だけずば抜けてるな……」
「ということで、みなさん、くれぐれも怪我のないようにお気をつけください!」
「はい!」
「よし、じゃあ俺たちは先にパガールアラム市内の教会を訪ねよう」
「了解です! ソフィーさんたちってどこに行くんですか?」
「ソフィーたちはパガールアラム市のデンポ・ウタラ地区に行くそうだ。そこに今回の本命、ドルメンの石棺があるそうだ」
「そうなんですね。にしても、女性二人で大丈夫なんですか? いくら警備隊がいるとはいえ、戦力になるルーカスさんが僕と行動してたら、いざという時どうするんですか?」
「大丈夫だ。ああ見えてソフィーは、俺らの研究所の中で四番目に戦闘能力がある」
「え!? そうなんですか!? なんか話し方も少しおちゃらけ感があるので、鑑定とかの専門かと思ってました……」
「そうだな。だが、ソフィーは使える魔法の種類がとんでもなく多い。今の魔法教育では基本的に下位の魔法学習しかしないが、ソフィーは固有スキルの特性上、普通はできない魔法でも、発動したものに対してスキルを使える。
だから、必然的に下位や中位の魔法が使えるだけで、配列を変えてしまえば上位に昇格させることもできてしまうんだ。まぁ、それもソフィーの才能を含めての、ってところだが。
だから、あいつに心配はいらないさ」
「なるほど。実際は局長と似たような人間なんですね……」
「近からず遠からずってところだな! 局長のあれは桁が外れてる」
「あ、やっぱりそうですよね。
ちなみに、僕らはこれからどこに訪ねに行くんですか?」
「今回は北スマトラ州、ウガモ・マリルという宗教団体を訪ねる。一応、魔法通話をフクロウ便を通して送ってあるが、正直、受け入れてくれるかはまだ怪しいな」
「了解です!」
ルーカスとハルカは、先に現地へと到着する。
そこは、少し古びた石レンガでできた建物だった。
ぱっと見ではそこまで古そうな建物ではなく、ところどころに近代的な施しがされている。
ルーカスが教会の扉をノックする。
「どうも、先日フクロウ便を送ったルーカスです。どなたかいらっしゃいませんか?」
すると、奥から若々しい声が聞こえてきた。
「あ、はい」
やがて、大きな木製の扉が開かれる。
「どうも、ルーカスさん。お返事はできませんでしたが、お待ちしておりました。私の名前はアディと申します。どうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「こちらはハルカと、我々の護衛隊の方二名です」
「そうですか。承知しました。では、外もなんなので、一度中までお入りください」
メンバーは教会の中へと案内される。
「本日は、遠方からわざわざありがとうございます。お疲れだと思うので、こちらでお寛ぎになってお待ちください。今、司教の方をお呼びいたします」
そしてメンバーは、導かれるまま教会内の食堂らしき場所へと案内された。
「なんか、思ってたより教会の中って現代チックなんですね。もうちょっと壁画とか、びっしりあるものだと思ってました」
「教会にも色々な形態がある。お前はまだ研究所に就いてから日が浅いだろうから分からないかもしれないが、案外、歴史の教科書とか博物館に置いてあるような物がたくさんある所なんて、今はかなり少ない方だぞ」
「そうなんですね。なんかちょっと残念です」
実際、教会内は完璧なほどにひび割れもなく、コンクリートのような物で作られていた。
建物内に壁画などは、見渡す限り一つもない。
まるで、少しお金持ちの家の中にいるようだった。
「お待たせしました。こちらが私たちの司教様になります」
「ルーカスです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします! ハルカです! ……って、え?」
ハルカは、とてつもなく驚いた。
だが、それも無理はない。
なぜなら、この教会の司教が日本人だったのだ。
「どうも。この教会の司教のアサノと申します」
我慢できずに、ハルカが言葉をこぼす。
「あ、あの、日本の方ですか?」
「はい。そうです。あなたもそのお名前ですと、日本人ですか?」
「えっと、はい。そうです!」
「そうですか。これはなかなかに。ご縁がありそうですね」
興奮のあまり、ハルカは続けて司教へ質問してしまう。
「あの、えっと、アサノさんはどこ出身ですか?」
「おい、今は私情を挟むな。集中しろ」
ルーカスに小声で注意されてしまう。
「えぇ、大丈夫ですよ。私は京都生まれですね」
「あ、ありがとうございます。あと、失礼いたしました!」
「気にしないでください。来る度、みなさんから驚かれます。慣れたものですよ」
「失礼しました。では、早速本題に移ってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、分かりました。では、まずこちらから。先日のフクロウ便での内容ですが、そちらのしたいようにしていただいて構いません」
「そうですか。ありがとうございます。では、さっ……」
ルーカスの言葉を、司教が遮る。
「ですが、とりあえず、この教会をアディと一緒に見学してきてください。それが終わってから、ゆっくりお話しましょう。では、アディ、よろしくお願いしますね」
「承知しました。
それでは皆さん、教会内をご案内します。遠いところから来てくださったのにもかかわらず、なかなかゆっくりできずにすみません。おそらく司教様が何かお考えで、この行動になったのかと」
「いえ、お気になさらず」
「かしこまりました。
では、一番初めに皆さんが来ていただいたところから回りましょう」
そして、アディはメンバーが最初に入った扉の方へと向かう。
「こちらが、我々の教会の正門になります。
こちら、一見普通の木造扉に見えますが、実はこうして魔力を流すと――」
アディが扉に手を置き、円をなぞるようにして魔力を流す。
すると、扉の表面に模様が浮かび上がった。
「そうすると、このように、この教会のシンボルである精霊様の模様が浮かび上がります。
この模様ですが、実はかなり前から刻まれているそうで、今は教祖様しか名前が分かりません。
司教様の教えですと、この模様の名前を知った人は、ことごとく不治の病によって亡くなられているそうです」
「教祖様は、今もご健在で?」
「えぇ、もちろん。教祖様は半神ですので」
「半神?」
「そうです。半分人間で、半分神。それが半神です。
詳しくは、この見学が終わったあと、じっくり司教様にお聞きください」
「分かりました」
「次に、大広間です。
この大広間の下、今まばらにブロックが置かれていますが、これらは全て、精霊が宿るための場所になっています。
大広間の噴水が流れるのはお昼だけ。夜は悪魔が寄り付かないよう、水を止めています。
こちらも先ほどの扉と同じように、魔力を流せば精霊様の模様が出てくるようになっています。
この教会では、お祈りの時間に司教様が毎回魔力を流しています。
扉、大広間の噴水、始祖の眠るお墓、そしてこの建物の上にある鐘。この行動にはいくつか意味がありますが、それもまた司教様に後々お聞きください。
それでは、建物に戻りましょう」
そう言って、アディは次々と教会内を案内していく。
食堂、聖堂、墓地。
教会内にある様々な場所を一通り見て回ったところで、アディが尋ねる。
「いかがでしたでしょうか? これが我々の教会内の全容です」
「あの、すみません。一つ質問いいですか?」
「えぇ、もちろん。なんでも聞いてください」
「では、遠慮なく。
さっき聖堂に行った時なんですけど、あそこの始祖の像の後ろに、部屋みたいなのがあったんですけど、あれはなんなんですか?」
「像の後ろですか?」
「はい」
「あそこは特に何もないですよ。隅には掃除用具を入れる場所ならありますが……」
「そうですか……。ありがとうございます」
「いえ、全然大丈夫ですよ。
では、私の案内はここまでですので、最後に教理室にご案内いたします。そこに司教様がいらっしゃいますので、ご不明点をお聞きください」
そして、アディに案内され、メンバーは教理室へと向かう。
「それでは、私はここで一度失礼いたします」




