28…再会し、
キラキラとした水面が遠くの方まで続いている。
空との境目がはっきりと見えて、今日がとても良い天気であることがよく分かる。
「カイ、きれいね。そしてやっぱり広いわね!」
今日は波打ち際まで行かず、それでもできる限り近付いて、ミアとカイが海を見ている。
「何で勝手に動いてんだろーな」
「カイもそう思う? 私もずっと気になってるの。不思議よねぇ。ずっと見ていられるわ。1度も同じ事は無いんだもの」
スフィルへ戻る前に、次はいつ来れるかわからない海にミアとカイはもう1度来たかったのだ。
予定が入っているため来れないジュゼが不服そうに反対するのをなだめて、2人でやって来た。
ミアのはしゃぐ姿を、ジュゼももう一度見たかったのだろうけれど。
「最近、ジュゼは分かりやすくなってきたよな」
ミアとカイの仲良し姉弟は手をつないで浜辺を歩きながら、感情をよく表に出すジュゼの話をし始めた。
もうかれこれ1年以上一緒にいるので、ジュゼは2人にとって頼れる兄のような、時に弟のような存在なのだ。
「あと少しでジュゼの留学も終わりなのね」
特にカイはジュゼに懐いているので、実はかなり寂しいらしく、先日も延長しろと駄々をこねていた。
「ジュゼだけスフィルにもらえねぇかなぁ。あの皇子たちの中でジュゼが1番ツンデレでネコっぽいよな。あ、やべぇ、どんな子猫だったか気になってきた」
ミアとカイはジュゼの子猫姿を想像して、ああでもないこうでもないと言い合いながら、海を見ながら歩いている。
きっと稀に見る輝く宝石のような奇麗な猫だったに違いない。
ふとミアとカイの会話が止まり、穏やかだけれどしっかりとした波の音だけが聞こえてきた。
「ふふ、この波という物の、音が良い、わよ……ね」
何かがミアの脳裏によぎった。
いつだったか、ミアは幼い頃この波の音を聞いたことがあることを思い出した。
一瞬ゾッとしたミアは、とっさに繋いでいない方の手でカイの腕をつかんだ。
「姉上、どうした?」
突然立ち止まって顔色が良くなくなってきたミアを見て、カイは驚きながら、崩れ落ちそうなミアを支えた。
「カイ、私、幼い頃、海に……おじい様たちと、来たことが、あるみたい」
「思い出してくれたんだね?」
全く気配もなく現れた男を見て、ミアもカイも一瞬で青ざめた。
あの男だ。
前回の海で話し掛けてきた男が笑って立っている。
「姉上」
カイがミアを自分の後に移動させた。
「ああ、ごめんごめん。恐がらせてしまったかな。君に会ったことがあるんだ。だから少し確認したくて」
男はミアをのぞき込むようにしたが、カイが阻止して近付くことはできないようだ。
「申し訳ありませんが、どこでお会いしたかも、あなたのことも、覚えていなくて」
カイの後ろから、ミアははっきりと伝えた。
カイがとにかくミアに近付くことを許さないので、男は距離だけでもと、離れたり近付いたりし始めた。
すると「やっぱりそうだ」とつぶやきながらミアとカイに近付いて来た。
ここアルカル国は騎士ですら外出時に帯刀を許されないため、勿論カイも丸腰だ。
カイはミアをしっかり自分の後ろに移動させなら、男を見据える。
時折ミアが様子を見ようとするのも許さない勢いで。
そんな様子のカイとミアを見て、男は苦笑いしながらミアに話かけた。
「君と離れて、またおかしくなってしまうのは困るなぁ。少しの間、一緒にいてくれると有難いんだけど」
刹那、男はカイの後ろに現れた。
「はっ?!」
ミアを抱きかかえ指を鳴らして、魔法のようなもので創った空間の中に入ってしまった。
ミアもカイも対応する間もなく。
男の創った球体のそれは、他に誰にも侵入を許さない。
カイがどんなに頑張っても入れないのだ。
男はそれに絶対の自信があるのか、ミアをそっと下ろし、満足そうに離れ離れになったミアとカイを見ている。
ミアが魔法を使ってみても、パンッと音を立てて消えてしまった。
「この中で魔法は使えないよ」
男は笑顔でミアに教えた。
カイが青ざめて球体に手をつき、中にいるミアと目を合わせた。
「嘘だろ……」
ミアは動揺を見せないように、ゆっくりと球体の外側にあるカイの手に合わせるように手を置いて、平気そうな顔をした。
「カイ、私は大丈夫。大丈夫よ。ビターにお願いして、アルカル国に内緒でスフィルへ連絡、相談して。おじい様から何か聞いているかもしれないから」
ミアはにっこり笑ってカイにお願いした。
すでにもう真っ青なカイが、これ以上不安にならないように、いつも通りのミアの笑顔で。
「っっ、分かった!」
男はカイに笑い掛け「お姉さんを少し借りるね」と言い残し、ミアを抱きかかえ海へと消えていった。
「ああ、やっぱり体の状態が良いな。手放せなくなりそうだ」
男はミアの頬に触れて、愛おしそうに笑った。




