26…ダンスをして、
即位式は何事もなく終わり、その後パーティがある。
会場に入ると、キラキラが抑えられていて幾何学建築の良さを出した空間が広がっていた。
「すごく素敵ね」
ミアは会場に着いてから、自分好みに装飾された空間を隅から隅まで見回している。
ミアに元気がないのを気にしたカイが「姉上ダンスしよう」と言うので、今はカイとミアがダンスに参加するところだ。
あちらの方でルカと出会ったジュゼが、ミアとカイに手を振っている。
驚愕の顔でジュゼを見ているルカが目に入って、ミアとカイは見合って笑った。
ダンスを楽しんでいる時、ミアは誰かとぶつかってしまった。
「あ、すみません」
「すまない」
あ、アーティ……
アーティは一瞬ミアと目が合ったが、すぐそらして離れていってしまった。
「何だあいつ。子猫の時は、あんなに可愛かったのに。別人じゃねぇか」
ミアがショックを受ける時間も無いくらい即カイが悪態をついたので、ミアはカイの頬にキスをして、懐かしむような表情になれた。
「そうね、可愛かったわ。夢だったのかも」
カイは「もう夢で良いんじゃね」と吐き捨てるように言って、抱きしめるくらいミアを引き寄せた。
せめて自分はそばにいると伝えて、ミアが悲しまないように。
ミアもカイに身を任せて「そうね」と笑ってダンスを楽しんだ。
カイと一緒で良かったわ。
1人では、きっとこの場にいられなかった。
婚約者候補と踊るアーティを見ていられなかった。
次はジュゼが踊ってくれるらしく、ダンスが終わったミアの目の前にすぐ現れた。
ジュゼは何かから隠すように、ミアを大切そうにエスコートして連れて行く。
◇
「……俺と、踊っていただけませんか」
ミアの前にアーティが来て手を差し出した。
カイとジュゼとのダンスが楽しくて、やっと気にならなくなってきた時に。
皇太子からの誘いを無下に断れないので、ミアはカイとジュゼに目配せしてから、アーティの手に自分の手をそっと置く。
久しぶりに触れたアーティの手が暖かくて優しくて、ミアは泣きそうになったけれど。
姿勢を正して、笑顔を作って、アーティを見る。
「20才おめでとうございます。喜んで」
2人のぎこちないダンスが始まった。
「ミア、いつも奇麗だけど今日は更に奇麗だな」
遠慮気味に、優しい顔をした20才のアーティ。
ミアはアーティの目から視線を外せなくなってしまった。
自分の想いに気付くなんて一瞬だ。
ミアは嬉しくて仕方がない自分に気付いてしまったけれど、必死に抑え込んで、表情を変えずに踊っている。
気付きたくなかった。
ダメだわ、きちんとお祝いして帰るのよ。
「ありがとう。婚約者候補の方々はもっとお奇麗だったわ」
アーティは少しムッとした顔をして、話し始めた。
「チョークが奇麗なミアを見て驚いて、一瞬立ち止まったって。俺も目を合わせていられなかった。さっきは、ごめん」
ダンスに誘わなければならないご令嬢の順番をアーティは全然覚えず、ルカが教えてくれていたのでよそ見をしていたらしい。
「どうしても、ミアと踊りたかったんだ。ルカに怒られるだろうな」
ーー本当はジュゼより先に踊りたかった。手を取って楽しそうに踊るミアを見て、胸が苦しくて居ても立っても居られなかった。
「ありがとう。でも、ルカさんをあまり困らせないようにね」
ーーミアと踊れるなら、ミアに触れられるなら、もう何だっていい。
「会場の雰囲気どうだ?」
ミアは目を輝かせて、アーティを見た。
「すごく素敵ね! 私の好きな装飾なの。キョロキョロしすぎてカイに注意されちゃった」
やっと普通に話し始めたミアを見て、アーティは嬉しそうに笑った。
「俺とチョークで考えたんだ。ミアに気に入ってもらいたくて」
ミアはずっと我慢していた涙を、不覚にもポロポロと落としてしまった。
ーーやっぱりミアが大好きだ。
アーティが愛おしそうにミアの頬に手を当てて、そっと涙を拭いた。
ーーキスしたいな
アーティは我慢してミアの頬にキスをして、会場を後にした。
◇
「もう一度、よろしいですか」
アーティと変わったのであろうチョークが息を切らしてやって来た。
カイとジュゼと談笑していたミアに、そっと手を差し出したのだ。
チョークはミアの耳元に寄って、小さな声で「僕とも踊って」と困った顔をして笑った。
勿論断れないミアは手を取って、皇太子殿下と2回目のダンスを始めた。
あのご令嬢はどこの誰だと会場内はざわつき始めたが、幸い自分を抑えるのに必死なミアの耳には届いていない。
ただ2人、カイとジュゼはいらつきを隠さず、黙りこくってミアとチョークを見据えている。
先ほど差し出された手に、アーティの髪の毛のようなものが付いていて、ジュゼに「双子でむしり合いでもしたの」と冷たく突っ込まれていた。
服にも付いていたので踊りながら手で払い、ミアは思い出して笑ってしまった。
「会いたかったわ」
ミアは本心だけれど言わないと決めていた言葉を、自分の声で聞いてしまい耳を疑うしかない。
2人といると、ミアはどうしても自分が抑えられないようで、どうしたら良いか分からない。
チョークは嬉しそうな顔になり、髪をつかんでいた事の説明をし始めた。
「ミアの誕生日パーティの時、僕たち9才でミアと踊れなくて悔しくて。いつか踊れたらと思ってたんだけど、あいつが抜け駆けして先に勝手にダンス申し込むから、ちょっと揉めたんだ。今はルカに怒られてるだろうね」
次は僕が怒られるだろうけど。
良いんだ、ミアの近くにいることができるのだから。
チョークはダンスが終わると、ミアの手にキスをして耳元に近付いた。
エスカー語で何かを伝えて、チョークは足早に国王の隣りへ戻りに行ってしまった。
手を振る国王に、息をするのも忘れていたミアは、1度息を吸ってカーテシーで応える。
「ミア、僕たちはずっと、君が好きだよ」
「スフィルを発ってから、想わない日は無かった」
ミアは涙を我慢して、震える自分の手を隠すように握りしめた。




