25…書状を受け取り、
アーティとチョークがミアから贈られた美しいカーテシーを最後に見て、もう5ヶ月が経った。
秋の入口だというのにまだ残暑が厳しく、日中はうだるような暑さだが、夜に吹く風は幾分かマシになってきた。
アルカル国の王城の眺めが良いバルコニーに人影がある。
1人は手すりに座って、1人は身を乗り出して遥か遠くを見ている。
今巷で大人気な皇子、リカルド・カルド・アルカルだ。
2人で1人を演じていることは王城内だけの内緒話ということもあって特別感もあり、この毎夜のお馴染みの光景を、目の保養に女性従者たちが入れ代わり立ち代わりでこっそり見に来るくらいだ。
「ミア、来るかな」
「断われないから、来るしかないだろ」
アーティもチョークもため息をついて、まだ遠くを見ている。
奇麗だろうな……
ここで毎日、他愛のない話からどっちがどの公務をするかの話合いまで行われているのだ。
◇
ミアが、カイとジュゼとお茶をしていると、スフィル辺境伯がやって来た。
「アルカル国皇太子の即位式があるんだが……ミアとカイを招待したいそうだ」
スフィル辺境伯はミアに招待状を渡した。
「そう、ですか」
落ち着いた素敵な招待状……
はっきり返事をしないミアの様子を気にしなら、カイがため息混じりにダメ元で聞いてみた。
「断れないっすよね」
「反旗を翻したと捉えられかねんからな」
緊張しているような動揺しているようなミアを見て、ジュゼがスフィル辺境伯に提案した。
「僕にも一時帰国の要請が来てるから、一緒にどうかな」
ということで、今はアルカル国へ向かう広々とした馬車の中、3人で話をしているところだ。
「アルカル語はなんとかいけんだけど、マナーとか俺さっぱりだ」
「ああ、エスカー語で、偉そうにしとけば大丈夫だよ」
「ぶふっ」
ジュゼの斜めぎみの予想外のアドバイスにミアが吹き出してしまった。
「ご、ごめんなさい。面白くて。ふふっ。それなら、カイは大丈夫ね。私は隣りで黙っておけば良いわよね」
「姉上は黙ってたら迫力出るからなぁ」
「えっ……」
美人が無表情で黙ると迫力があるのだが、ミアは気付いていない。
「僕も一緒にいるよ。それなら誰も話し掛けられないから」
「おおっ、それが良いな」
3人の作戦は上手くいくのだろうか。
わいわい話をしていたら、あっという間にアルカル国の王城に到着した。
「……え、滞在先って」
ミアが真っ青になって王城を見ている。
幾何学建築でいつ見ても素敵なのだけれども。
「王城にある来賓用の客室にしたよ。移動が楽だし」
ジュゼが淡々と答える。
「キラキラしていない、落ち着いた部屋はありますか」
ミアの願いは虚しくも叶わず、きらびやかな部屋へと案内された。
◇
翌日、皇太子の即位式に出席するために着飾ったカイとジュゼが、ミアを迎えに部屋に入って来た。
「お待たせして、ごめんなさい。あの、やりすぎじゃない?? もっとキラキラを減らしてってハルノに言ったんだけど、減らしてくれないの」
朝から支度をして着飾ったミアが部屋の真ん中に立っている。
カイとジュゼを見たミアが目を大きくした。
「わぁ、2人とも素敵!!」
ミアの言葉を思わず聞き流して、カイもジュゼも息をのんで立ち止まってしまった。
ジュゼが、珍しく恐る恐るミアの前まで進んで、そっと手を取ってキスをした。
「奇麗だよ。ちょっといつもより肌が出てるね。人に見せたくないくらい」
ミアが青ざめていく。
「人に見せられない……」
目が点になっているジュゼの所へカイがやってきて、ため息をついた。
「ジュゼ、着飾った姉上はウザいくらいネガティヴなんだ。可愛いんだけどな」
◇
「ねぇカイ、何だかすごく見られているような気がするのだけど。ねぇ聞いてる? ねぇカイってば」
「うるさい。姉上のせいだろ」
ショックを受けたミアは、カイとジュゼの腕を持ったまましょんぼりと黙ってしまった。
「こうしないと静かにならねぇんだよ。可哀想だけど、ほぼ記憶に残んねぇから大丈夫」
ミアがカイの扱い方を分かっているように、カイもミアの扱いをよく分かっているのだ。
ずっと会話内容を知られないようにエスカー語で話をしている美形3人。
注目を集めないわけがない。
国王と皇太子が入るという合図があり、会場は静まり返り、全員が頭を下げた。
2人の足音しか聞こえない。
一瞬、1人がなぜか立ち止まったようだったが、足早に進んでいった。
2人が玉座に着いたら、全員が頭を上げた。
あ、チョークだわ。
ミアは5ヶ月振りに見る、20才になったチョークを懐かしいような初めましてのような不思議な感覚で見ている。
目が合わないのが寂しくてうつむきそうだけと、カイとジュゼの腕を持ったまま、気丈に姿勢を正した。
「あなた婚約者候補なんでしょ?」
「うらやましい」
「お会いしたの?」
どこかでそんなやり取りが始まっている。
……そうよね、目が合うわけないわ。
動揺して手が震えているのを両隣に悟られないように、ミアは呼吸を整えた。




