62.滑らすなよ!
「あっ! 口が滑っちゃった」
トモエは舌を出しながら、
『テヘッ!』
とした顔をしていた。
ついうっかりって感じだ。
ただ、ボクに対して、
『申し訳ない!』
なんて感情は、まるっきり無いようだ。
「滑ったじゃねぇよ」
「でも、いつかは話すつもりだったんじゃないの? そのタイミングが早くなったってことでイイじゃん?」
自分がやってしまった失態に、他人の都合をムリヤリ合わせようとする。
こう言う考え方って、ボクは大嫌いなんだ。
そもそも、ボクは自分の前世のことを誰にも話すつもりは無かった。
と言うか、言いたくなかった。
なので、当然、この言葉にカチンとくる。
「お前、何なんだよ、それ!」
「だって、言っちゃったものは、しょうがないじゃん!」
ボクが文句を言ったことでトモエは半ば切れたのか、急に攻撃的な口調に変わった。
当然、こんな言い方をされては、ボクだって余計に頭にくる。
以前のトモエは、こんな人間じゃなかった気がするけど?
たしかに、ボクと別れてから二十年近くが経つし、それなりに性格が変わることもあるんだろうけどさ……。
「ジノン。場所を変えたいんだけど」
「了解だ」
ボクは、サッサとビアガーデンの精算を済ますと、建物から出ようとした。
ジノンに、ボクの前世のことを話すかどうかは置いといて、今は、とにかくトモエの顔が見たくない。
その辺をジノンは察してくれているんだと思う。
それ以前に、トモエは、元死天使ガイアだから、ジノンとしては、未だに警戒をしている部分があるんだと思うけど。
ところが、何故かトモエがボク達の後を付いて来た。
コイツは、ボクがビアガーデンから出て行った理由が分かってないのか?
今のトモエみたいな思考回路が大嫌いだから、トモエを視界から消し去りたくて店を出たんだけど!
「なんで付いてくんの?」
「せっかく会ったんだったら、ちょっとルカに頼みたいことがあってね」
「イヤだね。一昨日来な」
「ナニ怒ってんのよ!」
またもやトモエは、半ば切れた感じの攻撃的な口調になっていた。
もしかして、初H後にボクが二次元に走って、トモエから距離を置いたことを二十年近く経った今でも根に持っているのだろうか?
もしそうだとしたら、トモエがこう言う態度を取って来ても仕方が無い。
しかし、だからと言って、この流れで頼みごとをしたいと言うのは虫が良過ぎないか?
「転移!」
ボクは、ジノンを連れて転移に入った。
とにかく、さっさとトモエと距離を取りたかったんだ。
転移先は宿の前。
ボク達は、宿の一階ラウンジに入り、飲み直しながら話をすることにした。
『取説君:ルカ‐0721号は、お持ち帰り機能が搭載されています。アルコール濃度に関係なく、ワイングラス三杯の酒を飲むと、勝手に酔い潰れます』
ジョッキでビールを飲んだ後だし、これ以上酒を飲むと、ボクのお持ち帰り機能が発動する可能性がある。
なので、ジノンは酒を頼んだけど、ボクはジュースにした。
「それで、さっきガイア……今はトモエか。彼女が言っていた地球って?」
話を切り出したのはジノン。
ただ、ボクの方から視線を外していた。
「信じられないかも知れないけど、ボクが前世で住んでいた、こことは別の世界だよ」
「じゃあ、ルカは異世界転生者? 前世の記憶があるのか?」
「うん」
丁度ここで、頼んだ酒とジュースが来た。
どっちも木製のカップに入っている。
ジノンは、早速、カップに口を付けた。
ボクもジュースを一口。
結構美味しい。
正直、もっと気分がイイの時に飲みたいよ、これ。
「あと、あの感じだとトモエも地球に住んでいたってことだな?」
「そうだよ」
「彼女も前世の記憶があるみたいだし。知り合いだったのか?」
「うん……。と言うか、付き合ってた」
「えっ?」
ジノンは、相当驚いていたようだ。
急にボクの方を振り向いたけど、カップを持つ手は止まっていた。
「もしかして、女性同士で?」
驚くのソコ?
って言うか、そもそも論として、ジノンがそれを言う?
前世で女性同士……、ボクの先行機を使っていたくせに。
そうは言っても、ジノンは前世の記憶が無いから仕方が無いんだろうけどさ。
「いや、ボクは……前世で男だったんだ?」
「へっ?」
ジノンが、持っていたカップを落とした。
グラスじゃないから割れなかったけど、テーブルの上でカップは横転。
ただ、幸いなことに、七割がた飲んでいたみたいで、テーブルの上は、まともに酒まみれには、ならなかった。
ボクが急いで、おしぼりでテーブルの上を拭く。
「済まない、ルカ」
「別にイイって」
「ただ、男時代の記憶があって、今は女性って、色々やり難くないか?」
「まあ、慣れた」
「ただ、トモエ……、いや、ガイアとの戦いでは辛い思いをさせたな。まさか、前世の彼女と戦わせていたとは」
「もう済んだ話だよ」
「いや、俺にもっと力があったら」
ジノンが再びボクから視線を外して俯いた。
コイツのことだから、多分、
『自分に力があればルカを戦わせずに済んだ』
とか思っているんだろう。
そこまで彼が背負う必要は無いと思うけどね。
「ジノンが気にする必要は無いよ」
「しかし」
「あの時、ボクはSランク冒険者としての義務を果たしただけだから」
「そりゃ、そうなんだろうけど……」
「それに、トモエは生き返っているし、トドメを刺したのだってボクじゃない。あと、ボクは、たまたま前世の記憶を持っているけど、他の人達だって記憶が無いだけで、前世で関わった人と戦っているかも知れないじゃん」
「たしかに、そう言われれば、そうなんだけどさ」
「むしろ、ボクはジノンが過去に会った例の女性のことの方が気になっているよ」
「ここで、話をそっちにもって行くか?」
「いや、別に、その話を展開するつもりは無いから。それより、ハルは凄かったね。クラーケンを簡単にやっつけちゃって……」
一先ず、話題をハルのことに切り替えて、ココでボクについての話は強制終了。
トモエとは初H後に自然消滅したことも、ボクの正体が……例の女性もだけど、性魔玩具だってことも言わなかった。
ムリに話す必要も無いだろうから……。
❖ ❖ ❖
翌朝、ボクがフロントに行くと、近くのソファーの上には、既にジノンの姿があった。
必ずと言ってイイほど、彼はボクよりも先に来ている。
ボクは、急いでチェックアウトしてジノンのところに行く。
しかし、ここでボクは初めて、ジノンから少し離れたところに、余計な人物がいたことに気が付いた。
どうやってボク達を探したのかは分からないけど、トモエが来ていたんだ。
ボクは、トモエに気付いていない振りをした。
「ジノンお待たせ」
「ああ。ただ……」
ジノンが、トモエの方をチラ見した。
そこは無視して欲しかったんだけどなぁ。
すると、案の定、トモエがボクに話しかけて来た。
「ルカ。ちょっとイイ?」
ボクは、トモエの方を振り返らず、敢えて背を向けて答えた。
顔を見たくないしね。
「良くないけど?」
「ナニそれ?」
「昨日の、ナニあれ? 頼みたいことがあるって言ってたけど、あれって、人にモノを頼む態度じゃなかったよね」
「しょうがないじゃん」
「しょうがなくないだろ! 行こう、ジノン」
ボクは、そのまま宿を出ようとした。
すると、トモエがボクの腕を捕まえた。
「だから、お願い。力を貸して。このままじゃ患者が死んじゃう」
「ボクの治癒魔法は限定的だよ。それに、トモエは、治癒術師なんだろ? トモエの治癒魔法の方が確実じゃない?」
「ヒール抵抗性なのよ。どうしても、中級以上のポーションが必要なの」
ってことは、もしかして、ボクの疑似的オ〇ッコとか疑似的ウ〇コが欲しいってこと?
それを他人の口に入れるのは抵抗があるんだけど!
『取説君:ルカ‐0721号の疑似的大便は、魔素エネルギーを質量に変換したところに、さらに大量且つ高純度の魔素を追加しております。そのため、最上級ポーション(エリクサー)と同等の効力を発揮します』
『取説君:ルカ‐0721号は、疑似的大便と同様に魔素エネルギーを質量に変換することで疑似的尿を放出することが可能です。勿論、飲料として使用可能です』
『取説君:ルカ‐0721号の疑似的尿は、ポーションとして使用可能です。しかし、疑似的大便と比較しますと魔素が薄まっているため、効力は中級ポーションレベルとなります』
少し前に、ヤーリサ聖公国のロト・カスマニアで、ボクの『中級ポーションの代用品』を使ったことがある。
飲ませたのはイイオ氏で、冒険者ギルド本部長ズヴァルトの知人だった。
そう言えば、ズヴァルト達から中級ポーション代用品に関するリクエスト……つまり、飲〇プレイのおねだりは来ていないな。
やっぱり、イイオ氏も、アレは口が裂けても言えないんだろう。
普通は、
『飲〇プレイしたら治りました!』
とは言えないからね。
イイオ氏が正常な思考回路を持っているようで良かったよ。
少なくとも、そっち関連の趣味では、イイオ氏はズヴァルト達の仲間じゃなかったってことだ。




