52.Sランクカルテット!
「で、ギルド長。そのウラヌスの女性版って言うのは、今、どの辺りにいるんです?」
「デュスレからハジャライって街に向かっているとのことだ。もうすぐハジャライに到着する。その延長上に、王都ピサン・ラジャが位置している」
「王都方面に向かっていると言うことですね」
「そうなる」
「名前は?」
「不明だ」
ボクは、既に取説君経由で三級天使サクラから相手の名前がガイアだって聞いていた。
しかし、ラジャプリ王国でも、まだ、そこまでは掴んでいないってことだ。
取り敢えず、ボクはガイアって名前を知らない振りをする。
「そうですか。では、一先ず、ピサン・ラジャの冒険者ギルドに行ってみます」
「キツイ依頼だが、よろしく頼んだぞ、ルカ、ジノン」
「「はい」」
ラジャプリ王国は、アサスズメ王国の南側に位置する。
ワイバーンを討伐したダイスーシー村跡の、さらに南側だ。
ボク達はギルドを出ると、ダイスーシー村跡から北西に150キロほど離れた街ピンフ市まで転移魔法で移動した。
ピンフ市で入国手続きしてラジャプリ王国の街ヘレン市に入る。
そして、ヘレン市から再び連続転移を行い、ラジャプリ王国の王都ピサン・ラジャ市に入った。
本当は、ダイスーシー村跡の方がピサン・ラジャに近いんだけど、キチンと入国手続きしないとイケないってことで、今回の経路を取った。
ちなみにピンフ市は、実はアサスズメ王国の中でも、最も治安が悪いところらしい。
全く以て平和じゃない!(麻雀を知っていないと分からないな、コレ)
そして、その日の昼にはピサン・ラジャの冒険者ギルドに到着した。
受付にいたのは、例の如く女性職員だったので、取り敢えず受付への話切り出し係はジノンに任せた。
「アサスズメ王国から来た、Sランクパーティのジノンとルカだ」
「パーティ?」
毎度の如く、受付嬢は、ジノンの姿しか目に入っていないようだ。
無意識にボクの姿を視界からカットしているらしい。
ジノンに言われて、ようやく気付いたって感じだ。
「ああ、お二人様ですね」
受付嬢は、ボクの顔を見て、一瞬、殺意ある目をしたけど、すぐに取り繕ったような笑顔を見せていた。
さすが、作り笑顔のプロだね!
「お二人共、Sランク冒険者……ですね。では、奥の打ち合わせ室にご案内します。既に他のSランク冒険者様も来ておりますので」
レッド(ホウテイ市のギルド長)からは事前に聞かされていなかったけど、ガイア討伐には、ボク達以外のSランク冒険者にも既に声がかかっていたようだ。
ボク達は、受付嬢に打ち合わせ室まで案内された。
打ち合わせ室に入ると、そこには中年男性冒険者と中年女性冒険者が一人ずついた。
彼等二人が先に来ているSランク冒険者達だ。
「俺達以外にもSランク冒険者を呼んだと聞いていたが、随分若いな」
こう言ったのは、男性のSランク冒険者。
ボク達くらいの年齢でSランクに昇格するのは珍しいのか、少し驚いていた。
「Sランクに上がって、まだ一か月です。アサスズメ王国のホウテイ市から来ました。ボクはルカ。隣にいるのがボクとパーティを組んでいる魔法剣士のジノンです」
「ルカにジノンか。俺は魔法剣士のトムソニー。コイツは、俺の連れで魔法弓使いのヴェルティナだ。二人共、さっきこのギルドに着いたばかりだ。それにしても、Sランク冒険者と言うよりS嬢の方が似合ってねえか?」
戦闘スタイル(女王様ファッション)を纏っているから、そう言われるのも仕方が無いけど、初対面で言うか、それ?
とは言え、いきなり飛び付いて来たり、
「結婚して!」
とか、
「Hしよ!」
とか言い出さないだけマシだ。
一応、自制心もSランク(?)ってことか。
「まあ、この格好が動きやすいもので……」
「それが嬢ちゃんの戦闘服ってことか。で、もしかして、ランタノイド王国に出た魔人を倒したのはお前等か?」
「魔人ってウラヌス?」
「ああ。俺達も討伐に呼ばれたんだが、前の仕事を急いで片付けて行ったら、既に討伐完了とか言われたからよ。ちょっと気になってな」
あれは、想定していた以上に簡単に終わったからな。
少なくとも、今回のガイアは、ウラヌスほどバカじゃないって思うけど。
「まあ、隙だらけなヤツでしたので、ボクが背後から刺して、ジノンが首を刎ねて即終了しました」
真実は違うけど、そう言うことにしておいた。
ギルドにも、こんな感じで報告していたしね。
「背後からって、アサシンか何かか?」
「まあ、そんなとこです」
「それにしても、即終了とはな。今回も期待してるぜ!」
「ん-ん。どうだろ?」
ただ、今回は、さすがに安請け合いみたいなことは言えない。
ギルド長から『破壊』じゃなくて『蒸発』って言われているのが、凄く気になっているんだ。
「なんだ。自信ねえのか?」
「と言いますか、ウラヌスは、ただ魔法で力任せに破壊するだけでしたけど、今回のウラヌス女性版は、通ったところが全て蒸発していると聞いておりますので……」
すると、ヴェルティナが、思い立ったように、
「多分、超灼熱魔法……」
と言った。
ただ、この時、彼女は、ボクを目の前にしている割には落ち着いているように思えた。
普通は、女性なら、もっとイラついた表情を見せるはずだから。
「超灼熱魔法ですか?」
「ええ。モノを燃やすんじゃなくて、自然発火させる魔法。モノが自発的に燃えるため、ほとんどカスも残らないのよ」
つまり、火を放つんじゃなくて、とんでもない熱量を放つってことか。
たしかに、それなら『破壊』じゃなくて『蒸発』と言われているのにも納得が行くかも知れない。
ただ、そんなのが相手だと迂闊に近付けない。
近付いただけで、こっちの身体が自然発火しそうだ。
ボクも、他の三人もね。
発火したら、いくらボクでも消滅するしかない。
完全焼失しちゃったら、修復魔法を発動することすらできない。
「そんなのを相手に、どうやって戦ったらイイでしょう?」
「まだ、超灼熱魔法って決まったわけじゃないから、一度、女性版ウラヌスを遠くから観察した方がイイと思うけど……」
「たしかに、そうですね」
そう言いながら、ボクはヴェルティナの方を見たんだけど……。
そうしたら、彼女のステータス画面が開いた。
ステータス覗き見スキルが発動したんだ。
困ったことに、彼女のステータスには、
『両刀使い!』
って書かれてあった。
つまり、ボクを目の前にしてもヘイトな感情に支配されなかったのは、ボクを性的対象として見ていたからだ。
この世界に来てから、このタイプの女性に出会ったのは初めてだ。
迂闊に近寄らないようにしよう。
「じゃあ、明日、先ず女性版ウラヌスを観察する。それでイイわね?」
「了解です」
「トムソニーも、あとジノン君だったわね。二人もイイ?」
「構わん」
「俺もOKです」
他のイケイケ冒険者達から見たら、かなり消極的に思われるかも知れないけど、今回は仕方が無いと思った。
一歩間違えれば、ここにいる四人全員が、一瞬で蒸発しちゃうんだからね。
策略無しに突っ込んで行くのは、単なる自殺行為に過ぎない。
先ず、敵を知ることが最優先だ。
「あと、話は変わりますけど、Sランク冒険者って、他に何人いるんですか?」
こう聞いたのはボク。
国家の犬仲間がどれくらいいるのか、少々気になったんだ。
「人間大陸には、現役のSランク冒険者は、ここにいる四人以外には一人しかいねえ。引退したヤツを含めば、その倍になるが、引退した連中は、もうかなりの高齢だからな。戦力にならん」
「意外と少ないんですね」
「まあ、受験資格の基準が、そもそも狂っているからな。普通は試験を受けるところまで到達できねえだろ」
たしかに、トムソニーの言う通りなんだけど……。
ただ、こんな危ない仕事ばかりやらされるとか、貴族連中から下心満載の会食に誘われるとかを知っていたら、そもそも受験資格を得ようなんて考えなかったけどね。
❖ ❖ ❖
翌日、ボク達四人は、ガイアの1キロ手前までボクの転移魔法で空間移動した。
ボクの場合は、『リアルタイムのストリートビュー機能』が付いている。
なので、ガイアの位置を特定して動くことが可能なんだ。
凄く便利だな、これ。
場所は、ハジャライまで2キロと言ったところか。
転移直後、
「マジかよ? 本当に全員連れて転移するとはな」
と、ボクの転移魔法にトムソニーが驚いていた。
『取説君:ルカ‐0721号は、男性だけでしたら異性愛者同性愛者を問わず、転移魔法で同時に100人運べます。これは、乗っても大丈夫な数と同じです』
『取説君:女性同性愛者の場合も男性と同じカウントになります。つまり、女性同性愛者と男性を合計100人まで同時に転移魔法で運ぶことが可能です』
『取説君:女性異性愛者の場合は、男性70人分に相当します。そのため、女性異性愛者を同時に二人、転移魔法で運ぶことはできません』
ちなみに、ヴェルティナは両刀使いのため、女性同性愛者としてカウントされたっぽい。
なので、70人分ではなく、一人分の扱いになるようだ。
負荷が少なくて助かったよ……転移魔法に関しては!
ヴェルティナが、双眼鏡で前方を確認した。
そして、
「マジで?」
前方、約1キロ地点に目的対象物がいるのを知って、メチャクチャ驚いていた。
ボクも、双眼鏡でガイアの姿を確認した。
見た感じ、三十代の女性だ。
ただ、『リアルタイムのストリートビュー機能』で見た時点で、ボクはガイアの姿に何処となく見覚えがあると感じていた。
気のせいであって欲しいと、この時、ボクは祈っていた。




