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53.まさかの!

 双眼鏡で確認する限り、ガイアは、たしかに灼熱魔法を放って周囲のモノを自然発火させていた。

 ただ、彼女の前方の物質に対しては、灼熱魔法が発動していなかった。


 彼女を中心角として後方に広がる扇型の範囲で灼熱魔法は放たれているように見える。

 中心角は90度くらい?

 半径は数百メートルか?


 まだ、全てがハッキリしたわけじゃないけど、たしかにこれなら、彼女が通り過ぎた付近は、自然発火し、完全燃焼する。


 さすがに、瞬時に街一つを蒸発させることは出来ないと思うけど……。

 デュスレが一瞬で蒸発したってのは、多分、誇張表現だな。



「ちょっと確認してきます」


「えっ? 確認って?」


「転移!」



 ボクは、単身でガイアの数十メートル手前まで転移魔法で移動した。

 勿論、万が一の際には、超高速稼働か転移魔法を使って、一瞬で一気に距離を取る。



「ボクはルカ。君の名は? あと、何の目的でここに」


「ルカね。イヤな名前だわ。私の元彼と同じ名前だなんて。性別は違うけど……」


「……」


「ゴメンなさいね、初対面でいきなり変なこと言って」


「いや、別に……」


「私の名前は江本……、いいえ、ここでは、ガイアってことになっているわね。神々の王を名乗るサキュレントってのに異世界から召還させられてきたの。この世界の破壊と再生を行うために」



 ボクは、ガイアのステータスを覗き見した。

 これを見るために、敢えて危険を承知で、ここに来たんだ。

 ただ、書かれていた内容は、ボクとしては、正直見たくないものだった。



『(前世の業)刈部瑠佳の元彼女で初体験の相手。初体験は苦痛であり、しかも、その直後に瑠佳と別れたことで男性不信となった。その後、誰とも付き合わず(勿論、誰とも突き合いもせず)に人生終了。

(前世死因)〇月〇日午前4時に急性心不全にて。

(特記事項)元彼を奪った二次元に対して嫌悪。

(備考)魔素を取り込むことで生命維持できるため食事は不要。食事をしない限りにおいて、ルカ‐0721号と同様に排泄も不要』



 やはり、気のせいじゃなかった。

 ガイアは、ボクの元カノ……脱童貞の相手だった。


 しかも、前世の業の内容が、ボクにとっては読むのがキツイ。

 ある程度、予想していたこととは言え、ボクは、ショックで全身が硬直していた。



 ただ、巴も亡くなっていたとはね。

 まさかって思った。


 しかも、彼女が亡くなったのは、日時からして、ボクが殺された数時間後。

 偶然なんだろうけど、ほぼ、同じ頃に彼女も命を失っていたんだ。


 ただ、ボクとは違って、彼女の魂は、堕天使サキュレントの手で、この世界へと連れて来られていた。



 突然、ガイア()が、

「見ていて、ドンドン腹が立ってくるわね、アナタ。殺してやりたいくらい」

 と言いながらボクを睨みつけて来た。


 ボクのフェロモン魔法とHPの影響を受けているようだ。

 敵意を通り越して殺意へと変わって行く。

 ウラヌスの時とは違って、フェロモン魔法とHPの完全抵抗性を持たされているわけではないってことだ。



「聞いてるの?」


「えっ?」


「今日は、先ず、アナタから成仏させてあげるわ。私は、私を中心角に、後方に90度角で半径300メートルの扇型の範囲を自然発火させるの。方向は、後方から他の方には変えられないけどね」


「なんで、そんなことを教えてくれるんだ?」


「さあ、何ででしょうね? 私にも分からないわ。でも、分かったところで何もできないでしょ? 覚悟しなさい!」



 そう言うと、ガイア()は、ゆっくりと後ろを振り返った。

 多分、彼女自身が言う通り、魔法照射の方向を変えることは出来ないんだろう。

 それで、ボクを攻撃するために後ろを振り返ったわけだけど……。


 ただ、ボクをホンキで殺すつもりなら、一瞬で振り返ったと思う。

 それを、敢えてゆっくり振り返ったと言うことは、ボクに逃げる猶予を与えてくれたってことだ。



「超高速稼働!」



 ボクは、一気にジノン達のいるところまで移動した。

 身体に焼け跡……つまり、特に自然発火させられた形跡は無い。

 ただ、移動直後、


「ナニ、一人で行ってんのよ?」


「いくら素早さに自信はあってもキケンだろ。独りよがりな行動はよせ!」


「余り無茶するなよ」


 と、三人に叱られたわけだけど……。

 加えて、ジノンとトムソニーに頭を一発ずつ殴られたけど……。

 あっちの一発はされていないからイイけど……。



「済みませんでした。ただ、彼女から確認して来たことを話します。彼女の名はガイア。神々の王を名乗るサキュレントによって異世界から召還された者です」


「召喚者ぁ? それに、サキュレントは堕天使だろ?」


「そうですけど、彼女は、こことは別の世界から連れて来られています。サキュレントが堕天使と言うことを、多分知らないのでしょう」


「それで、サキュレントが神々の王と信じているのか?」


「分かりません。ただ、サキュレントから破壊と再生を行うよう命じられ、それに従って動いているようです」


「さしずめ、異世界から来た破壊神ってとこか」


「あと、何故か自分の攻撃スキルを教えてくれました。彼女を中心角に、後方90度角、半径300メートルの扇型の範囲を自然発火させるとのことです」


「敵さん、随分と口が軽いな。ただ、分かったところで何も出来ねえがな。近付いたところで背を向けられたら一発でアウトだ。だから、言ったんだろうが……」



 たしかに、トムソニーの言う通りだ。

 それこそガイアが、身体を横に一回転させれば、彼女を中心に300メートル圏内は全てが焼失する。

 やむを得ず、ボク達は、一旦、ピサン・ラジャまで引き返した。



 ❖  ❖  ❖



 ピサン・ラジャの冒険者ギルドに戻ると、ボク達は、会議室に移動した。

 何とかして、ガイアを倒す方法を考えなければならない。



 ガイアの超灼熱魔法の稼働範囲は、彼女から300メートルまで。

 しかも、後方に中心角90度の扇型と限定されているから、コチラからの攻撃が一切不可能な訳ではない。


 例えば、もし、この世界に拳銃が存在すれば、四方からの一斉射撃で、簡単にガイアを倒すことが出来るだろう。

 彼女が全ての鉛球を蒸発させる前に、一発くらいは彼女の身体に当たるだろうから。



 しかし、この世界に拳銃は無い。

 飛び道具と言えば弓矢くらいだ。


 こっちには魔法弓使いのヴェルティナがいる。

 とは言え、さすがに弓矢で300メートル先のターゲットを射抜くのは不可能だし、仮に届いたとしても弓矢の速度じゃガイアの超灼熱魔法で焼かれて終わる。

 何か工夫が必要だ。



「ルカ。超高速稼働で、聖水付きの短剣でガイアを刺すことはできるか?」



 こうボクに聞いてきたのはジノン。

 ただ、この言葉にトムソニーが反応した。



「ガイアから俺達のところまで戻って来た、あの素早い動きのことか?」


「ああ。ルカの特殊スキルだ。実は、俺がSランク冒険者の受験資格が得られたのも、ルカの存在が大きい。ルカが超高速で移動しながら、五体のワイバーンの背中をゼリオンの汁付きの短剣で順に傷つけて行ったんだ」


「一気に五体も?」


「ああ。弱ったワイバーン共の首を刎ねたのは俺だが、ルカの活躍が無ければ、俺はSランク冒険者の受験資格を得ることはできなかっただろう」


「じゃあ、その超高速稼働で、毒付きの剣でガイアを刺せれば……」


「それは、もしかすると聖水でイイ。ウラヌスの時は聖水が効いたからな」


「いや、聖水なんて、そう簡単に手に入らないだろう?」


「それが、ルカは聖水を作り出すこともできる」


「おいおい。聖水って、あっちの聖水じゃねえよな?」



 さすがトムソニー。

 御名答だ!

 ボクの場合、あっちの聖水が本物の聖水と同じ効果を持っているってだけなんだよ。


 ただ、ジノンは、

「いや、アンデッド退治にも使ったから、本物の聖水だ!」

 って力説していたけど。



「ソイツはスゲエな。マジもんの聖水が作れるって、嬢ちゃんは聖職者か何かか?」


「いえ、そう言う訳じゃないんですけど……」



 ボクは、そう言いながら苦笑していた。

 一応、ルカ‐0721号は聖女シリーズってことになっているけど、仕様を考えたら、少なくとも『聖』の文字からは程遠いからね。



『取説君:ルカ‐0721号は、聖女シリーズの第一号です。ちなみに、他のシリーズは、まだ存在しません。等身大自律型魔玩具は、ルカ‐0721号が、トリフィオフィルム世界では初の作品となります』



『取説君:ルカ‐0721号は、どちらかと言うと精食者です。妊娠機能が無いため生殖者ではありません』



 ただ、短剣で刺すとなると、ガイアとボクの距離は事実上0メートルになる。

 一歩間違うと、ボクが自然発火圏内に入る可能性があるだろう。



「ええと、話を戻しますけど、短剣だと接近し過ぎちゃうので危険です。鎗とか薙刀とかは無いでしょうか? ただ、刃以外のところも木製じゃなくて金属のヤツ」



 鎗とか薙刀なら、ちょっとだけガイアと距離を取った状態で刺すことが出来る。

 しかし、刃以外の部分は、一般に金属じゃない。


 ボクが持っている短剣は、全体が金属なので、一応、超高速稼働に耐えている。空気摩擦で熱くなるけどね。

 だから、ワイバーン討伐の時にもウラヌス討伐の時にも使うことが出来た。


 しかし、金属以外の部分を持つ武器だと、その部分が、恐らく空気摩擦で燃えてしまうだろう。



「全部金属じゃねえとダメなのか?」


「超高速稼働に耐えられないんです。空気摩擦で燃えだします」


「嬢ちゃん自身は大丈夫なのか?」


「強化魔法で身体は守れますので」


「なるほどな。ただ、距離が取れればイイんだったら、普通にロングソードでも構わねぇんじゃねえか?」


「そうですね。でも、出来れば長めで軽いモノの方が有難いです」


「ちょっとギルドに相談してみるか。もしかすると、1メートル以上の長さのモノもあるかも知れねえし」



 ここで、ボク達は、一旦会議室を出て冒険者ギルドの受付へと向かった。

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