45.ギロ〇ン!
今回は、取扱説明書が、しつこい回になります。
ウラヌス討伐の報告を終え、ボク達はギルドを後にした。
ギルド本部には、ギルド長のレッドから連絡しておいてくれることになっている。
未だにジノンは、オチン〇出て……じゃなくて落ち込んでいた。
ただ、それが思い切り災いした。
普段なら、不審な誰かが近付いて来るのを、真のS級冒険者であるジノンが間違いなく察知してくれただろう。
しかし、今の彼は、それが出来る精神的コンディションじゃなかった。
一方、なんちゃってS級冒険者であるボクの場合は、その不審者が男性の場合、完全にノーガードで接近を許してしまう仕様なんだ。
飽くまでも、ヤラれてナンボな人形だからね。
『取説君:ルカ‐0721号は、男性であれば誰でも受け入れOKです』
気が付くと、ボクは背後から何者かに薬品付きの布を口に当てられていた。
ジノンも同様だ。
とは言え、ボクは生物じゃないから、本来なら、これで気を失うってことは無い。
しかし、余計な機能が付いている。
よりによって、ここで、お持ち帰り機能が発情……じゃなくて発動してしまった。
酒を飲んでいないのに……。
『取説君:ルカ‐0721号は、お持ち帰り機能が搭載されています。アルコール濃度に関係なく、ワイングラス三杯の酒を飲むと、勝手に酔い潰れます』
『取説君:ルカ‐0721号は、麻酔薬や睡眠薬に対しても、お持ち帰り機能が発動します』
❖ ❖ ❖
気が付くと、そこは、日が射さない薄暗い部屋だった。
しかも、ボクは何故かギロチン台にセットされていた。
また、ボクの頭部の下には大きな桶が置かれていた。
普通に考えれば、これで流れ出る血でも受け止めるんだろう。
ボクの目の前にいたのは、かつてそれなりに綺麗だったであろう中年女性が一人と、その使用人と思われる男性が数人。
ジノンの姿は無かった。
取り急ぎ、ボクはフェロモン魔法とHP値を下限まで下げる。
そうしないと、相手が落ち着いて話が出来ないからね。
『取説君:ルカ‐0721号は、睡眠をとった後は、如何なる理由があろうと全てが初期値に戻ります(Lv値のみ保持)。HP値やフェロモン魔法の出力等を調節したい場合は、再設定が必要になります』
『取説君:ステータス画面の表記の意味は、次の通りです。
Lv:Lover、即ち愛好者数を意味します。実質的には使用者数です』
ステータスをチェックする限り、ボクのLv値に変化は無い。
つまり0更新のままだ。
誰にもヤラれていない。
『取説君:ルカ‐0721は、全身から超フェロモン魔法を放っています。そのため、同性愛者を除く全ての雄性動物(人間を含む)、及び異性愛者を除く全ての雌性動物(人間を含む)から愛されます』
『取説君:その分、ルカ‐0721は、基本的に異性愛者である全ての雌性動物(人間を含む)から敵視されます』
『取説君:HPが高ければ高いほど、異性愛者の異性及び同性愛者の同性を、動物種問わず性的に欲情させます。そのため、ルカ‐0721のHPを初期値(2,500,000)のままにしておくのは大変危険です』
しかし、使用人達は、よくボクを襲わなかったな。
その中年女性も、よくボクを殺さずにいられたものだよ。
普通は、強烈なフェロモン魔法と超高HPが放出されていたら、平静じゃいられなくなるはずだからね。
「ジノンは?」
「アンタの連れの男性かい? ソイツなら、ホウテイ市冒険者ギルドの前に放置しといたよ。いくら美形でも、男の血は不要だからね」
「血?」
「そうよ。吸血魔女って知ってるかい?」
そう言えば、ズヴァルトが言ってたっけ。
帝国には、
『目立つ女性は吸血魔女に襲われて命を失う』
との都市伝説があるとか。
「じゃあ、ここはイミダゾール帝国?」
「よくお分かりね。そして、私はギロリン伯爵夫人。巷で吸血魔女と呼ばれる女よ。勿論、まだ世間からは疑われているだけで、確定はされていないけどね。証拠が押さえられていないから」
つまり、この場所の存在が、まだ外部の人間に漏れていないってことだ。
そう言えば、タンヤオ市冒険者ギルドの受付嬢は、ボクがこうならないように敢えて不当にFランクにしたって話だったな。
それにしても、よりによってボクをターゲットにするとはね。
絶対に後悔するな、このギロリン伯爵夫人とか言う女。
「それで、ボクをギロチンにかけて、血でも回収しようってこと? ご丁寧に、ボクの頭の下に大きな桶を置いて」
「そうよ。良く分かってるじゃない」
「でも、なんでボクが選ばれたんだろ?」
「若くて活力のある女性をターゲットにしているからよ。陰気な血を貰っても無意味だからね」
「ふーん。で、その血をどうする気?」
「浴びるのよ。この美しさを保持するために」
もはや、
『それなりの美しさ』
でさえ過去のモノだって言うのに……。
こう言うイカレたヤツって、かつて地球にもいたような記憶がある。
名前は忘れたけど。
もしかすると、各異世界に、一人くらいは存在するパターンなのかも知れないなぁ。
いて欲しくないけど。
「アホくさ……」
「何とでも言うとイイわ。それにしても、よく落ち着いていられるわね。これから殺されると言うのに」
「別に騒いだところでギロチンから外してくれないでしょ?」
「当然よ。その血が欲しいんだから。本当は泣いて騒ぐ姿が見たかったから、寝ている間に殺さなかったんだけど」
「悪趣味だね」
「何とでもお言い。じゃあ、その殴りたくなるくらい美しいアンタの血を、私がもらい受けてあげるから、安心して死になさい。ごきげんよう」
ギロリン伯爵夫人が使用人に合図を送った。
すると、ギロチンの刃が勢いよく落ちて来て、ボクの首を容赦なく刎ねた。
まさに、絶命の瞬間だ。
普通であれば。
床に転がるボクの首。
しかし、ボクは人間じゃないからね。
首から血は噴き出さなかった。
これには、ギロチン伯爵夫人も使用人達も、目を丸くして驚いていた。
「ど……どうして? なんで血が出てこないの?」
ただ、首が刎ねられたお陰で、ボクの身体はギロチン台から抜け出せた。
そして、首なしの状態で歩き始める。
この様子は、ギロリン伯爵夫人達にとって畏怖すべき対象として目に映ったようだ。
全員が全身を硬直させていたよ。
ボクの身体は、ボク(頭部)のところまで歩いて来ると、ボク(頭部)を拾い上げて首断面の上に乗せた。
さらに修復魔法を発動!
これでボクは、何事も無かったかのように元通りに戻った。
『取説君:ルカ‐0721号は、大人のオモチャであれば、何でも修復魔法で直せます。勿論、ルカ‐0721号自身も例外ではありません。たとえ、バラバラにされても、修復可能です』
傍目には超常現象だ。
いくら魔法でも、こんなことは、通常有り得ないだろう。
「ば……化け物!」
「吸血魔女にバケモノ扱いされる筋合いは無いなぁ」
「ち……近寄るな!」
「そう言う訳には行かないかな。超高速稼働!」
ボクは、超高速稼働で移動しながら、アイテムボックスから縄を取り出した。
そして、ギロリン伯爵夫人の背後に回ると彼女を縛り上げた。
勿論、縛り方は亀甲縛りだ!
『取説君:ルカ‐0721号が出来る縛り方は、亀甲縛りだけです』
さらにボクは、ギロリン伯爵夫人の両手首と両足首を、彼女の背中の後で一纏めにして縛った。
ここでは、亀甲縛りの定義が両手首と両足首を背中の後で一纏めにして縛るところ(手足拘束)まで含まれているんだ。
続いてボクは、使用人達の背後にも順に回って行った。
当然、彼等も順にギロリン伯爵夫人と同様の方法で縛り上げて行く。
これで完全にギロリン伯爵夫人と使用人達は身動きが取れなくなった。
「出口は何処?」
「……」
誰も答えようとはしない。
恐らく、ここは隠し部屋とか地下室とかなんだと思うけど……。
ボクの場合、人が張った結界に引っ掛からずに転移魔法で移動できる。
なので、脱出するだけなら簡単だ。
『取説君:ルカ‐0721号は、サプライズで夜這いがかけられるよう、他人が張った結界魔法をキャンセルできます。そのため、結界魔法が張られた場所にも転移魔法で直接入ることが可能です』
しかし、今回は、コイツ等を検挙してもらわないとイケない。
そのためには、この部屋まで人が来られるようにする必要がある。
つまり、場所の特定だ。
「フェロモン魔法出力最大! HP&SP上限値まで上昇! MP30!」
正直言ってワンパターンだけど、ここでボクは女王様モードで発情……じゃなくて、女王様モードを発動した。
ただ、フェロモン魔法とHPのW最大出力は、女性異性愛者にとっては、相当キツいらしい。
殺意を覚えるどころか、身体にまで異常が出ていたようだ。
ギロリン伯爵夫人は、その場で、マジで嘔吐していたよ。
そして、その苦しさからハアハア言っていた。
一方の使用人達は、全員がHな命令を期待した目でハアハア言っていたけど……。
これは、コイツ等が、ギロリン伯爵夫人の手先からボクの犬に成り下がった証拠とも言えるだろう。
「出口は何処?」
「アソコです!」
使用人達が、一斉に顎で出口の方を指した。
手足が縛られているから、顎で指し示すくらいしか方法が無いってことだ。
あと、一応、言っておくけど、別にボクのアソコを指し示している輩はいなかった。




