46.これがクロゼット(クローゼット)かい?
続いてボクは、
「ワレっ娘機能発動!」
マッチョ系女性に変身すると、使用人の一人を担ぎ上げた。
コイツに案内役をしてもらう。
「まず、ここがドアになっているんでしょ?」
「はい、女王様!」
「開けるのは、どうやるの?」
「右上のボタンを押してください」
たしかに言われた辺りに小さなボタンがあった。
これが開閉スイッチってことだ。
ワレが、そのボタンを押すと扉が開いた。
スライド式だ。
扉をくぐり抜けると、そこから上り階段が真っ直ぐ伸びていた。
しかも、それなりの明かりが取れるように、ところどころに照明用の魔道具が設置されている。
階段を上り切ると、そこは行き止まりになっていたけど、今度は左側の壁に小さなボタンが付いていた。
「これを押せばイイのかな?」
「はい、女王様!」
ワレが、そのボタンを押すと、今度は正面の壁が、ボクから見て内開きに開いた。
ここも扉になっていたんだ。
しかし、その扉を通り抜けると、そこは幅1メートル、奥行き1メートル、高さ2メートルくらいの空間になっていた。
床も天井も壁も全て金属製で、まるで巨大な金庫の中にでもいるような感じだった。
「正面の壁を押してください」
使用人にこう言われ、ワレは、その指示に従った。
すると、今度はその壁が外に向かって開いた。
これって、ドアノブは無いけど、外開きの扉だったんだ。
ただ、扉を通り抜けて初めて分かったんだけど、それは、巨大な金庫を装った『隠し部屋への入り口』だった。
その後部分は、後ろの壁に接合し、下部分は床と接合していた。
さらに、両脇には同じ大きさの金庫らしきものがあった。
これらも後部分は後ろの壁に、下部分は床に接合していた。
マジでこれらが金庫なら、完全に持ち出し不可能だ。
「これって? 他の二つも隠し部屋に繋がっているとか?」
「いいえ。隠し部屋に通じているのは真ん中の金庫だけです。後の二つは普通に金庫です。この出入り口も、普段は中の扉を閉めて金庫として使いますが、隠し部屋に行く時だけ、中に入れたモノを他の金庫の中に移すんです」
ギロリン伯爵夫人の使用人が、そうワレに説明してくれた。
今だけは、完全にワレのペット状態だから、全部、正直に教えてくれるってことだ。
今、ワレが居るところは、窓も扉も見当たらない部屋だった。
ここ自体が、既に隠し部屋なんだろう。
ワレを殺した後に、ギロリン伯爵夫人達が、ここを通る予定だったからだと思うけど、一応、うっすらとだけど、この部屋には明かりが灯っていた。
ふと、正面の壁に、縦に細長い隙間ができていて、そこから光が漏れていることにワレは気が付いた。
この部屋よりも明るい場所が、その先にあるってことだ。
近付いてよく見ると、それは横にスライドする扉だった。
ワレは、それをスライドさせた。
すると、その先には広いベッドルームがあった。
スライド式の扉だと思っていたモノは、実はスライド式の本棚だった。
この本棚の後に隠し部屋があり、そこに設置された三つの金庫のうちの一つが、さらなる隠し部屋へと通じる入り口だったんだ。
ベッドルームには、一人の初老の男性がいた。
ステータス画面覗き見スキルによると、この男性はギロリン伯爵。
吸血魔女の旦那だ。
今、思い出したけど、ギロリン伯爵夫人のステータス画面は見るのを忘れてたな。
でも、別に興味ないからイイや。
『取説君:基本的に、ルカ‐0721号は女性異性愛者(人間以外も含む)に興味がありません』
窓からは月の光が射していた。
既に日は暮れていたってことだ。
ボクは、結構な時間、眠らされていたようだ。
「貴様、誰だ?」
ギロリン伯爵が、近くに置いてあった剣を手にしてワレの方を睨みつけた。
いきなり不審者が入って来たんだから当然だろう。
ところが、次の瞬間、ギロリン伯爵は剣を放り投げるとワレの前まで来て正座した。
しかも、モノ欲しそうな目をしながらハアハア言っていた。
まるでペット状態!
そう言えば、女王様モードに入ったままだった。
これじゃ、ギロリン伯爵とマトモに話が出来ないか。
ワレは、担いでいた使用人を床の上に降ろすと、
「フェロモン魔法出力最小! HP値設定下限値! SP&MP値設定0! ワレっ娘機能解除!」
女王様モードを解除し、自分の設定をいつもの状態に戻した。
これと同時に、ギロリン伯爵も、さっきまでボクに担がれていた使用人も正気に戻った。
ただ、使用人の方は、ボクの姿を見ると再び怯え出したけど。
「ボクは冒険者のルカ。ギロリン伯爵とお見受けします」
「如何にもギロリンだが、貴様、何故ここにいる? 何故、金庫用クロゼットから出て来た?」
一応、金庫が並んだ場所は、クロゼット扱いなんだ!
たしかに、超大型収納だから、間違っちゃいないけどさ……。
とにかく、今はギロリン伯爵に真実を理解してもらわなきゃイケない。
彼が、聞く耳を持つ人物であることを祈る。
「ボクは、ギロリン伯爵夫人の使用人達に拉致され、隠し部屋に連れ込まれたんです。むしろ、ボクの方が被害者であることをご理解ください」
「拉致? 隠し部屋?」
もしかして、ギロリン伯爵は隠し部屋の存在を知らないのか?
だとすると、彼は自分の妻が、あの部屋で何をしているのか一切知らないだろう。
「そうです。アサスズメ王国ホウテイ市で背後から薬の付いた布を口に当てられ、気が付いたら、この屋敷の隠し部屋に連れ込まれていたんです」
「それは真か?」
ギロリン伯爵の鋭い視線が使用人に向けられた。
さすがに使用人としては、伯爵相手に嘘を吐けないだろう。
「は……はい」
「正直に答えよ。この者を拉致して何をしようとした?」
「ギロチンにかけて血を回収しようと……」
「何っ?」
「それが奥方様からの指示でございましたので」
「では、やはりアイツが吸血魔女?」
ギロリン伯爵は、頭を抱えた。
ただ、
『やはり』
と言っていたってことは、ギロリン伯爵夫人が吸血魔女である可能性を、多少なりとも考えていたってことだろう。
「それにしても、お前は、縄で変な縛られ方をして……何て格好をしている。」
「それは、そこの化け物に」
「化け物?」
「そうです、伯爵様。この女は、ギロチンで首を刎ねられたにもかかわらず、身体からは血が一滴も出ず、しかも首を拾い上げてくっつけたんです」
「何を、世迷い事を」
「本当です。信じてください。奥方様も、他の使用人達も、アッシと同じように隠し部屋の中で縛られております」
「ネーゲル(ギロリン伯爵夫人のこと)が?」
ギロリン伯爵の怖い視線が、ボクの方に向けられた。
まさに、名前の通り威圧感のある目力だ。
普通に考えれば、妻が亀甲縛りにされているわけだから、縛ったボクを睨まない方が普通じゃないとは思うけど……。
でも、縛らなきゃ吸血魔女を逃がしちゃうわけだし、Sランク冒険者としては当然の行動をしたまでだ!
「ギロリン伯爵様にとっては愛する奥様でも、その正体は、巷で噂の吸血魔女でしたから。已む無く拘束させていただきました」
「では、ネーゲルが吸血魔女でなかったらどうする?」
「その場合でも拉致罪が適用されます。油断していたとは言え、Sランク冒険者のボクを拉致したんですからね」
「Sランク!?」
「ええ、こんなナリをしていますけど」
「S嬢ならシックリくるが……」
まさに今、そう言う格好をしているから反論できない。
別の恰好……仮に清楚な格好をしたところで、
『エロの権化』
としてしか見てもらえないんだろうけど……。
「伯爵様は、隠し部屋の存在を御存じですか?」
「いや」
「では、済みませんが、ボクに付いて来ていただけますか? 隠し部屋までご案内しますので」
「そこにネーゲルがいるのか?」
「はい」
「ただ、たとえSランク冒険者でも、これがネーゲルに対する冤罪なら、タダじゃおかんぞ!」
「とにかく、御自分の目でご確認ください。他の男性使用人達も一緒です。まさに不道徳的な空間ですから」
ここで、敢えてボクは、
『不道徳的な空間』
なんて言葉を追加した。
もし、ボクがネーゲルに拉致されたってことや、使用人の言うギロチンの話を信じていなかったとしても、これなら、
『秘密の隠し部屋で男性使用人達と不貞行為(1対多の複数プレイ)をしている可能性』
を連想してしまう可能性はあるはず……と思う……。
そうなれば、当然、ボクに付いて隠し部屋まで確認しに行くことを望むはずだ。
「そうか。では、その隠し部屋に案内してくれ」
取り敢えず、ボクの思った通り、ギロリン伯爵は、隠し部屋に行くことを即答した。
不貞行為を疑っているかどうかは分からないけど。




