39.ヒドいネーミング!
時は、ルカがトリフィオフィルム世界に転生する一か月ほど前まで遡る。
その日の夜、山井忠二は、死んだように眠っていた。
彼は中二病を患った中二男子。
特に秀でた能力は持っていなかったが、何故か自分は特別な存在であると信じて疑わない痛い人間であった。
それこそ、自分は神に等しい存在で、天界に戻ったら地球を存続すべきか破壊すべきかの決定権を持っているとさえ思っていた。
思うだけなら勝手だが……。
「目覚めよ、ウラヌス。目覚めるのだ、天空を司る者よ!」
どこからともなく、力強い男性の声が彼に語りかけて来た。
この声に、忠二は目を覚ました。
「この我を呼ぶのは誰だ?」
「我が名はサキュレント。神々の王だ。天空を司るお前が、何故、こんなところでウダウダしておる」
「天空を司る? 我が?」
「そうだ」
「やはり我は、特別な存在だったのか!」
忠二は、サキュレントの言葉を当然のこととして受け止めた。
しかも、これで自分が特別な何かであることが立証されたと信じて疑わなかった。
彼の顔に笑みが灯った。
同時に彼は、
『選民思想バリバリで周りを見下したような、どこぞの宗教信者』
にも似た、周りから見て非常に腹立たしい空気を全身から醸し出していた。
「繰り返す。そのお前が、何故、こんなところでウダウダしているのだ?」
「そんなの決まってる。この世界は人間のレベルが低くて、見ているだけで嫌気がさすからだ! もう地球は破壊すべきとさえ思っている」
正しくは、彼の方が、数段レベルが低いのだが……。
さらに言ってしまえば、彼に地球を破壊する決定権は無いのだが……。
しかし、真実を受け入れられるほど、彼はマトモな思考回路を持ち合わせていなかった。
完全に妄想の中のみで生きていたのだ。
「なら、今すぐ我が世界に戻って来い。そこで、お前は再びウラヌスの名を名乗り、世界を支配するのだ。それから、任務全うのため、女性の色香に惑わされぬよう、特殊能力を与えておこう」
「たしかに、その能力は、あった方が間違いないな」
言うまでも無く、忠二は童貞である。
当然、彼は女性の色香に簡単に惑わされる自信がある。
なので、この特殊能力は、忠二にとって絶対に無いと困ると言える。
「では、すぐに我が世界に向けて転移させる。先ず、足掛かりとなるのはランタノイド王国。今すぐ、その地に降り立つのだ!」
こう言われた次の瞬間、忠二の視界が真っ暗な闇に閉ざされた。
そして、再び視界が明るくなると、そこは、見知らぬ街のど真ん中だった。
中二病の彼は、瞬時に(勝手に)理解した。
ココこそが、彼が支配すべき世界であると……。
…
…
…
❖ ❖ ❖
一方、天界では、忠二が何者かによってトリフィオフィルム世界に転移してきたことを監視担当の天使がリアルタイムでキャッチしていた。
そして、監視担当から報告を受け、三級天使サクラが女神ピルバラナのところに駆け込んで来た……と言うか、文字通り飛び込んで来た。
天使なのだから、当然、空を飛べる。
「大変ですー! 堕天使サキュレントが困ったタイプの人間を召喚しましたよー!」
「困ったタイプ?」
「中二病で、自分は選ばれた何かと勘違いしているヤツです」
「えっ? ああ……。日本に、それなりに湧いている輩ですね」
「また、私が退治に行きましょうか?」
そう言いながら、サクラは目をキラキラ輝かせていた。
本音は、その『困ったチャン』の件を解決したいと言うよりも、何か理由を付けて下界に見物に行きたいと言ったところだ。
「今回も、オートマタ・パラスになってですか?」
「はい」
「しかし、そろそろ例の『性処理機能付き女性型オートマタ(オート股?)』が地上で完成する見込みです」
「マジですか? じゃあ、誰かに、その身体で転生してもらって、その女性に解決してもらうってことでしょうか?」
「ええ。そうしたいと思います」
「それじゃあ、私の下界見物は無しですかね?」
少し残念がるサクラ。
天使でもトリフィオフィルム世界で行ったことが無い場所は沢山ある。
それらを、一つでも多く、その目で見てみたかったのだ。
「飽くまでも、その身体に納まることを、少しでも希望する者がいればの話です。オオゴトになるまでに、その身体での転生希望者が現れなければ、パラスの姿で出撃してもらうことになります」
「了解です。でも、希望者がいるとイイですね。でないと、ヴァ……じゃなくて、ジノンが可哀想ですから」
「そうですね」
そして、その数週間後、ルカがトリフィオフィルム世界への転生者としてピルバラナ達のところへと送り込まれることになる。
ピルバラナは、本当は、その性処理機能付きオートマタ……魔導士エロスの作品に、女性の魂を入れるつもりだった。
しかし、女性希望者は、なかなか見つからなかった。
結局、その身体には、男性の魂……しかも、Hの才能が無いと自己判断したルカが入ることになった。
ルカの転生時に、ピルバラナは煮え切らない顔をしていたのは、実は、当初の意に反する形になったためであった。
このことをルカが知る日は、永久に来ないだろう。
…
…
…
❖ ❖ ❖
ボク……ルカは、Sランク冒険者カードを受け取ると、
「転移!」
早速、ヤーリサ聖公国に向けて連続転移に入った。
勿論、ジノンも一緒だ。
ボクは先ず、国境に位置する街、リューイーソー市まで移動した。
この街からヤーリサ聖公国の街ネートリー市に入る時に、入国手続きをする。
ただ、ネートリー市って……。
ビーチー市以上にヒドイネーミングな気がする。
ちなみに、リューイーソー市は、面積が少ない割に人口が多い……つまり、人口密度が非常に高い都市らしい。
故に、アサスズメ王国の中でも、特に緑が少ないところと言われている。
完全に名前と逆行していると思ったよ。
リューイーソーは、麻雀だと役満で、『緑一色』って書くからね。
それにしても、役満の名前で市なのは、これが初めてじゃなかろうか?
ここは、単なる人口密集地帯で、特に見学したい何かがあるわけではない。
人が多過ぎて、人酔いしそうだ。
なので、ボク達は、入国手続きした後、急いでビーチー市まで連続転移で移動した。
ビーチー市に着くと、ボク達は、早速、冒険者ギルドを訪問した。
冒険者ギルドの場所は、マップ機能を使えばすぐに分かる。
地図上に『冒険者ギルド』って書かれているからね。
ただ、イイオって……多分、元は『飯尾』じゃないかな?
本人か、それとも、その人の先祖のどちらかが、日本からの転移者なんだろう。
ここでも、ギルドに入ってすぐ感じたのは、男性達からのエロい視線と、女性達からの殺意に満ちた視線だった。
こればかりは、何処に行っても同じだ。
どうせ、ボクが受付に行っても受付嬢から塩対応されるのがオチだ。
なので、イイオ氏の居場所はジノンに聞いてもらった。
「ええと、アサスズメ王国冒険者ギルド本部長から、イイオ氏の治療を依頼されて来たんだが、イイオ氏の居場所を教えてもらえないか?」
「イイオさんでしたら、ロト・カスマニア市の回復ギルド別館に移りました」
回復ギルドとは、治癒術師達だけのギルド。
ある意味、この世界の医師会みたいなモノなのかも知れない。
ただ、ロト・カスマニアって、一瞬、タスマニアみたいだなって思ったけど、ロト・カスって逆から読んだら『スカ〇ロ』じゃない?
と言うか、これって、スカト〇・マニアのアナグラムかよ!
ネートリー以上にヒドいネーミング来たwwwって思ったよ。
「別館?」
「そこが、入院施設になっているんです」
「ありがとう」
「どう致しまして」
そう言えば、この時、ボク達は冒険者カードを提示していなかった。
つまり、受付嬢にとっては、ボク達が何者か分からない状態だ。
自称、
『アサスズメ王国冒険者ギルド本部長から依頼されて来た者達』
でしかない。
それなのに、受付嬢は、イイオ氏のことを話してくれたよ。
個人情報もへったくれも無い。
多分、イケメンのジノンに聞かれて、ついうっかり喋ってしまったってヤツだろう。
イイオ氏の居場所が分かれば、ここに用はない。
ボク達は、冒険者ギルドを出て、ロト・カスマニア市の回復ギルドへと急いだ……と言うか、転移魔法で移動した。
勿論、回復ギルドの場所もマップ機能で確認したんだけど……、その時、ふとロト・カスマニア市の隣に位置するラーウンコパティ市の名前が目に留まった。
『名前にウ〇コって入ってる! ヒデエ……』
とか思ったけど、何気にこれって『乱〇パーティ』のアナグラムだよ!
より最低なネーミングだな、コレ。




