40.ヒール抵抗性!
ビーチー市の冒険者ギルド前から、十秒もかからずにロト・カスマニア市の回復ギルド前に到着。
転移魔法での移動は、時間節約にもなるし、本当に有り難い。
ただ、回復ギルドの中に入ってすぐ感じたのは、やっぱり男性達からのエロい視線と、女性達からの殺意に満ちた視線だった。
なので、ここでも、
『受付嬢に聞く担当』
は、ジノンにやってもらった。
どうせ、ボクに対しては塩対応だ。
「済まない。ちょっと聞きたいのだが?」
「何でしょう?」
「俺達は、アサスズメ王国冒険者ギルド本部長から、イイオ氏の治療を依頼されて来たんだが、イイオ氏は、ここの別館に入院しているのか?」
「はい、入院されておりますけど、治癒術師の方ですか?」
「俺は治癒魔法を使えないが、連れが高度の治癒魔法が使えてね」
「連れ?」
受付嬢は、ようやくボクの存在に気付いた。
ジノンしか視界に入らなかったのと、ボクを視界に入れたくなかったことの相乗効果が働いていたんだろう。
今までボクの存在は、彼女の中では完全に消し去られていたようだ。
ただ、ボクの存在を意識し始めるのと同時に、もの凄い嫌悪の念と殺気がボクの方に飛んで来る。
初対面なのに、もの凄い嫌われようだ。
「顔を洗って出直すことをお勧めします。多分、アナタの治癒魔法では、イイオさんを治すことはできませんから」
随分とトゲのある言い方だ。
ボクを嫌っているのがイヤと言うほど伝わって来る。
しかも、それを営業スマイルで、堂々と言ってくるから、ある意味スゴイ。
「それって、どう言う……」
「御存じありませんでした? イイオさんは、ヒール抵抗性体質なんです」
もしかして、それって治癒魔法が効かない体質ってこと?
それだと、ピンヒールで踏んでも治せないんじゃない?
ズヴァルトは、そのことを知らなかったのだろうか?
「イイオさんは、どのような容態なのでしょうか?」
受付嬢に、こう聞いたのはボク……なんだけど……。
しかし、受付嬢の視線は、ここでボクの方から外れる。
他の表現では、ジノンの方を向いたとも言う。
本当は、ジノンの砲を剥きたいんだろうけど。
『取説君:ルカ‐0721号は、エロ要素の入ったオヤジギャグが好きです』
でも、ジノンの砲は、そう簡単には反応しないだろう。
フェロモン魔法抵抗性とHP抵抗性のダブル疾患持ちだからね。
「彼は、半年ほど前から、激しい腹痛を訴えています」
腹痛と言われても、それだけじゃ、何の病気か分からない。
もっとも、診断できたところで、ヒール抵抗性を持っているんじゃ、どの道、高次治癒魔法でも、超上位治癒魔法でも治しようが無いんだけど。
「診察だけさせてもらえないでしょうか? 診察は無料にしますので」
「それは、ご本人と直接ご相談ください」
「了解しました」
「それより、アナタ方の身分証明になるモノはありますか?」
「ああ、これは失礼しました」
ボク達は、受付嬢に冒険者カードを提示した。
これを見て、さすがに受付嬢もビビったようだ。
一瞬で、怖い何かでも見ているかのように怯えた表情に変わった。
蒼褪めるほどではなかったが、少なくとも全身を小刻みに震わせていた。
「まさか、お二人共、Sランク冒険者様でしたか?」
「まあ、それでボク達は、アサスズメ王国冒険者ギルド本部長から直々にイイオさんを診て欲しいと言われまして……」
「た……大変失礼致しました。こちらになります」
受付嬢は、ボク達をイイオ氏の入院している病室に案内してくれた。
今までとは打って変わって、キチンと対応してくれている。
ビビりながらだけど……。
やはり、Sランクって言うのは、ボクが思っている以上に、強い権力とか高い身分とかが約束されるのかも知れない。
「この病室です」
「案内してくれてありがとう」
「いえ、それでは、これで失礼致します」
受付嬢は、そう言いながらボクに頭を下げると、逃げるように去って行った。
ボクに悪態をついていたから、
『マジでヤベェ』
とか思っているのかも知れない。
別に、あの受付嬢をどうこうするつもりは無いけど……。
病室は、一人部屋だった。
室内には、一人の初老の男性がいた。
その彼とボクの目が合った。
しかし、HP……ハレンチパワーを50に抑えているボクに欲情して来る様子はない。
それだけの体力も既に失っているんだろう。
HPを2500000にしたら元気になるとは思うけど。
「イイオさんですか?」
「はい。アナタは?」
「ルカと言います。隣の男性はジノン。実は、アサスズメ王国冒険者ギルドのズヴァルト本部長に依頼されまして……」
丁度この時だった。
イイオ氏のステータスが開いた。
ボクのステータス覗き見スキルが発動したんだ。
そこには、
『胃癌のため、積極的にHする力はない』
と書かれていた。
腹痛って、やっぱり癌だったか。
「ズヴァルトが?」
「はい。ボクにイイオさんが治せないかと」
「君は、治癒術師かね?」
「冒険者ですが、超上位治癒魔法が使えます」
「そうか。それは凄いな……。しかし、俺は治癒魔法抵抗性なんで、超上位治癒魔法でも治せるかどうかは分からん」
「なら、試してみましょう」
手順としては、普通なら高次治癒魔法を試してみて、それでダメなら超上位治癒魔法を使うと思う。
でも、超上位治癒魔法でダメなら高次治癒魔法を使っても治すことはできないだろう。
だっから、最初から超上位治癒魔法で勝負だ!
「超上位治癒魔法照射!」
ボクは、イイオ氏に超上位治癒魔法を放った。
しかし、胃癌は全然治る気配が無かった。
超上位治癒魔法でも、治癒魔法抵抗性に弾かれてしまうらしい。
「済みません。超上位治癒魔法でも治せないようです」
「そうか」
「でも、中級ポーションとか上級ポーションとかじゃダメなんですか?」
「今回のは、多分、中級以上のポーションなら治せるだろう」
「じゃあ、ポーションを入手すればイイってことですね?」
「いや、それがだな。中級以上のポーションには、必ずクリペアタと言う植物の抽出液が入るんだが、数年前からクリペアタが見つからなくなってな。それで、そもそも市場に出回らない状態なんだよ」
「そうなんですか? ええと、クリ……」
「クリペアタね。もし売っていても、今じゃ、一般に目安とされている取引価格の、一万倍以上はするだろうし……」
イイオ氏の話では、低級ポーションの原料は、アラタって植物で、結構、アチコチに生えているらしい。
なので、低級ポーションだけは、供給が安定しているとのことだった。
中級ポーションの原料は、さっき言われた通り、クリ……ナントカ。
ボクにとっては覚え難い名前だ。
『取説君:ルカ‐0721号は、聞いたり読んだりした単語を即座に下ネタに変換することが多々あります』
ええと……、クリペアタか。
上級ポーションになると、ここにデュビアと言う植物の抽出液が加わり、最上級ポーションになると、さらにここにイルミネスと言う植物の抽出液が追加されるそうだ。
デュビアとイルミネスの入手は難しいけど、現状では、全く入手できないわけではないらしい。
クリペアタだけが見つからないそうだ。
どうやら、中級以上のポーションを作るために乱獲されたのが原因とのこと。
地球だったら、絶滅種として認定されていることだろう。
そんな状態だから、仮に、どこかにストックがあったとしても、とんでもない超高価格になっているってことだ。
スーカンツ村冒険者ギルド長のカカンによると、中級ポーションと上級ポーションは時価だけど、目安としては、中級ポーションが一回分で大金貨数枚(数千万Gen)、上級ポーションが一回分で聖金貨数枚(数億Gen)ってところだった。
最上級ポーションに至っては、聖金貨数十枚(数十億Gen)にもなるって話だった。
目安額の一万倍じゃ……中級ポーションだって、誰も買えないよ。
と言うか、普段から一般人が買える値段とは思えないけど……。
でも、ボクならポーションの代わりのモノを出すことが出来る。
本当は、これだけはヤリたくなかったんだけど、仕方がない。
「ジノン。悪いけど、一旦、席を外してくれる? 治す方法はあるんだけど、秘密の方法なんで、正直、誰にも見られたくなくて」
「誰にもって、どんな?」
「ゴメン。ジノンにも、まだ教える勇気がない」
「そうか。分かった……」
ジノンは、ちょっと寂しそうな顔をしていたけど、それ以上は何も追及せずに、静かに部屋から出て行ってくれた。
パーティメンバーなのに秘密にするって、ジノンには悪い気がしたけど、さすがに、これを話すのはね……。
こう言った魔法の世界では、パーティメンバーが相手でも言えないスキルって、他の人達でも、稀にだけどあるんだと思う。
それで、詮索せずに出て行ってくれたんだろうけど……。
ちょっと罪悪感があるな。




