34.通達!
ジノンがジャンプして剣を振り下ろした。
彼の剣が、巨大アンデッドの頭にヒット!
そのまま頭蓋骨を縦真っ二つに切り裂いた。
……わけだけど、相手は不死。
斬られた断面が、何事も無かったかのように元通りくっついて復活しやがった。
ただ、これはボクとしても想定の範囲内だ。
この巨大アンデッドは、胸に大きな魔石を持っている。
骨組みしかないから、その魔石の存在が見て分かる。
ソイツを砕けば、コイツは浄化されるだろう。
多分、ジノンとしても、元々は、魔石を砕こうって考えだったに違いない。
しかし、ボクが聖水を持っていると知って考えが変わったみたいだ。
「さっさと片付ける! ルカ。聖水を貰えないか?」
「飲むんじゃないよね?」
「さすがに飲まないよ。剣にかける」
「剣に?」
これは、ボクとしても抵抗があった。
いくら何でも、ボクのアソコから出した液体をジノンの剣にかけるなんて、精神的に受け入れ難いものがある。
恥ずかしいとかじゃなくて、凄く申し訳ない気分になる。
彼の剣を汚すみたいで。
しかし、悠長になどしていられない。
今度は、巨大アンデッドが、ジノンに向けて拳を振り下ろして来た。
これをジノンが間一髪で避けた……けど、ボクが覚悟を決めないと、ジノンがあの拳をいつかは喰らってしまう。
たしかに、巨大アンデッドを倒すには、剣に聖水をかけるのが一番手っ取り早い。
ここは、腹をくくって堅実性を最優先する。
「じゃあ、これ、使って」
ボクは、アイテムボックスから聖水入りのビンを取り出してジノンに向かって投げた。
彼は、これを片手でキャッチすると、フタを開けて聖水を剣にかけた。
さすがに、この時ばかりは、ジノンに向かって、
「(生きていてゴメンナサイ。エロ体質でゴメンナサイ。存在してゴメンなさい……)」
と心の中で謝罪したよ。
ジノンの剣が、『Hな聖水』まみれになった。
それを振り被り、ジノンが再び巨大アンデッドに斬りかかる。
巨大アンデッドは、本能的に察知したのか、ジノンの剣を避けた。
と言うか逃げ出した。
ジノンに背を向ける巨大アンデッド。
完全に聖水を恐れているって感じだ。
ジノンは容赦なく、
「死ねぇ!」
と叫びながら巨大アンデッドの後頭部に剣を叩き込んだ。
アンデッドに『死ね』と言うのは、ちょっとブラックに感じたけど。
聖水が効いたのか、巨大アンデッドは、この一撃を食らって浄化された。
残ったのは巨大魔石のみ。
ジノンは、その巨大魔石をアイテムボックスに収納した。
「一先ず今日は、ここまでにしようか」
「了解」
「じゃあ、ホウテイ市まで戻ろう」
「その前に、このダンジョンを出ないとだけど」
ダンジョン内には、特殊な結界が張られているようで、転移魔法が発動できないようになっている。
ボクの転移魔法は、通常の結界なら通過できる特別性だけど、ダンジョンに張られている結界を剥こうか……じゃなくて無効化することまでは、できないらしい。
なので、残念だけど、ここから来た道を逆戻りする。
第一階層とか第二階層で、昆虫型の魔物のオスがボクに群がって来るし、身体に引っ付いて来るし、正直、気持ち悪いんだけど……。
『取説君:ルカ‐0721は、全身から超フェロモン魔法を放っています。そのため、同性愛者を除く全ての雄性動物(人間を含む)、及び異性愛者を除く全ての雌性動物(人間を含む)から愛されます』
ダンジョンを出ると、ボク達は、ボクの連続転移魔法でホウテイ市の冒険者ギルド前まで移動した。
ジノンが討伐した巨大アンデッドの魔石の査定&買取りをしてもらいたい。
ボク達は、ギルドの中に入ると、リマのいる受付へと急いだ。
「リマさん。ジノンが取った巨大魔石の査定をお願いしたいんだけど」
「ルカさん。ようやく来ましたか」
「えっ? 何かボクと待ち合わせの用事とかってありました?」
「いいえ。実は、ギルド本部から連絡がありまして。魔石の査定の方は、他のスタッフにお願いします。ルカさんは、私と一緒にギルド長のところに来てもらえますか?」
「わ……分かりました」
ギルド本部から連絡って、何かマズいことでもあったんだろうか?
……って言うか、あったよなぁ。
あの昇格試験の映像を見て、
『Aランク取り消し!』
とか、そんなことを言われたんじゃなかろうか?
まあ、そうなったらなったで仕方ないけど。
「じゃあ、ナスカ。ジノンさんの方の査定をお願い」
「了解」
リマは、隣にいた受付嬢……ナスカって娘にジノンの対応を依頼した。
ナスカは、超イケメンのジノンに接近できて、もの凄く嬉しそうな顔をしていたよ。
ジノンは、ボク一人でリマに連れられて行くから、もの凄く心配そうな表情をしていたけど。
「失礼します」
「リマか。入れ」
ボクは、リマと一緒にギルド長室に入った。
ギルド長は、ボクの顔を見るなり、妙に神妙そうな表情に変わった。
「ルカ、来たか」
「ええと、ナニがあったのでしょう?……ってあったんですよね?」
「ああ。実は、一週間後にルカの再審査をすると、王都にあるギルド本部から通達が入った。ルカがAランクなのはケシカランと言ってだな」
まあ、ボクとベルデのSMプレイが収められた映像だからね。
普通は、
『なんだコレ?』
ってなると思う。
ただ、ジノンの方は大丈夫だろうか?
ボクの失態の余波で、ジノンまで巻き込まれてSランク剥奪なんてことにならなければイイケド。
「それって、ボクだけですよね? ジノンは、大丈夫ですよね?」
「ジノンは問題ない。俺がキチンと戦えていないってことで、俺が叱られただけだ」
「そ……そうですか」
これを聞いて、ギルド長には悪いけど、ボクはホッとした。
せっかくジノンは、念願のSランクになれたわけだから、それが無しにならないで済んで本当に良かったと思う。
別に、ボクはBランクのままでも構わないし。
「一週間後の今日、午前十時から再審査になる。審査員はギルド本部長と副本部長、それから王都リンシャン市のギルド長の三人だ」
「えっ?」
「当日は、遅れないようにギルドに来てくれ」
「わ……分かりました」
こんな小娘の再審査に、そんなお偉いさん達が三人も来るのか。
随分と話が大きくなっている。
それじゃ、たしかにレッド(ギルド長)が神妙な顔つきになって当然だ。
「それから、再審査の日まではAランクを名乗ってイイそうだ」
「そうですか。でも、なんか、済みません。ボクがあんな戦い方をしたから」
「いや。ベルデに確実に勝つための手段を選んだだけだろう?」
「そうですけど……」
「なら、あの戦い方もありだ。実際、あの能力を使ってレックスも倒したわけだしな。トドメを刺したのはジノンだろうが」
「はい……」
「それに、当日はワイバーンの討伐でも見せてやればイイ。済まないが、その準備をシッカリとしておいてもらえないだろうか?」
「分かりました」
一先ず、ボクとリマは、これでギルド長室を後にした。
ただ、ギルド長室では考えが及んでいなかったけど、ちなみにベルデはどうなったんだろう?
変な処分を食らったりは、していないだろうか?
「ねえ、リマさん。ベルデ副ギルド長は本部から何か言われていない?」
「お前が担当するとはケシカラン。それだけ言われたみたい」
「それだけ?」
「それだけ」
「処分とかは?」
「特に何も無いみたい」
「そうなんだ」
特に減俸とか左遷とか、それこそ解雇とかにならなくて良かった。
ボクのせいで人生が狂っちゃったら困るからね。
ベルデも、ベルデの家族も。
「あと、ギルド全体に何らかの不利益とかは?」
「特に聞いてないけど……。そうそう、ちょっと話は変わるけど、ルカさんを不当低ランク貼り付けしたタンヤオ市ギルドの方だけど、こっちも注意が行っただけで、特にペナルティーは言い渡されなかったみたい」
「それって、ボクがFランクっだって判断が、あながち間違っていなかったってギルド本部に判断されたんじゃ?」
「それは無いと思う。飛び級審査の映像も見ているはずだし、転移魔法をはじめ、色々な魔法が使えることは理解されているはずだから」
「まあ、そうだけど……」
「それに、もしそうなら、Bランクですらケシカランって言ってくると思うし」
リマの言うことも一理ある。
少なくとも今は、どうやったらギルド本部のお偉いさん方から持たれる印象を悪くしないかだけ考えるようにしよう。
とは言え、仕様が仕様だけに、難しい気がするけど……。




