30.試験開始!
翌日、ボクとジノンは、九時半くらいにギルドに入った。
十五分前って言われたけど、早い分にはイイだろうとの判断だ。
戦闘服と言うことで、ボクは、女王様服を着用。
今後も、魔獣討伐とかの際には、これを着ることになるんだろう。
昨日、リマに言われた通り、一番右の受付カウンターに進む。
すると、そこにいたのはリマと副ギルド長のベルデだったけど……。
この時、ベルデは甲冑を着ていた。
ボクの試験担当ってことだけど、甲冑を着て戦うつもりか。
なんか、リマ以外の受付担当者を見ない気がするけど、別に、他の女性受付担当者が、このギルドにいないわけじゃない。
多分、ボクとの会話を許容できる受付嬢がリマしかいないから、ボクの前には、リマしか出てこないんだと思う。
基本的にボクは女性異性愛者の敵だからね。
「おはようございます」
「おはようございます。お待ちしておりました。一応、受験票の確認を致します」
ボクとジノンは受験票をリマに提出した。
リマは、それらをざっと確認すると、その場でボク達に返却した。
「OKです。では、これは試験終了まで持っていてください。それと、武器の確認を致しますので、副ギルド長に提示をお願いします」
こう言われてジノンは、
「俺は、ギルドで用意した剣を使わせてもらう」
と答えた。
普通に剣の使い手だからね。
変わった武器を使うわけじゃない。
むしろ、問題はボクの方だ。
「ルカさんは、どうされます?」
「ボクは、これらを使うので、確認をお願いします」
そして、ボクはアイテムボックスから、一本鞭に赤い蝋燭、縄、それからピンヒールを順に出してカウンターに並べた。
鞭も蝋燭も別に刃とか硬い突起がついているわけじゃないし、特に問題無いと思う。
縄も、首を絞める道具になり得るけど、今回の判断基準からすれば問題無いはずだ。
ピンヒールは……一応、硬い突起がついているけど、先端が刃になっているわけじゃないから、多分、大丈夫だと思う。
ただ、これを見て、ベルデ副ギルド長は、
「なんだこれ? ふざけてるのか?」
と半ば怒っていた。
さすがに戦闘用の武器には見えないからね。
女王様用の武器だけど。
「いえ、別にふざけてませんけど」
「いやいや。それに、そもそも、こんなカカトの高い靴じゃ動けないだろ! これで戦うって舐めてるのか?」
すると、リマが、
「ギルド長が、ルカさんとの戦いを避けた理由の一つが、このカカトが異常に高い靴なんですよ」
と嫌みな笑みを浮かべながらベルデに言った。
「はぁ? これが?」
「まあ、ギルド長と同じことを繰り返さないことを祈ります。勿論、この靴以外にも理由はありますけどね。ルカさんがショッシーを呼び寄せた時のことを再現したくないって言うのが、一番の理由みたいですから」
「ちょっと待て。この娘がショッシーを呼んだのか?」
「そうですよ」
「まさか、噂の『魔獣を手懐ける娘』が相手だったとはな」
なんか、ショッシーの話を聞いて、ベルデはむしろ、気合が入っちゃったよ。
ボクの武器を見て舐めてかかってくれていたままの方が楽だった気がするんだけど。
ただ、ボクがショッシーを呼んだ時って、ギルド長は犬になっていたし、リマは精神的に暗黒物質にまみれていたけど、あの時の記憶って無いんじゃなかったっけ?
「もしかして、あの時のことを覚えているんですか?」
「あの直後は忘れていましたけど、あの後、数時間くらいしてから少しずつ思い出しまして。それで、例の魔法石に記憶させた映像を確認したところ、それが真実だと知って、結構ショックでした」
「まあ、女性は、ああなるのが普通ですから」
「いえ、私の方は、まあ、仕方がないかと。普通にしていたって女性から殺意が飛んできますでしょ?」
改まって、そう言われると、ボクとしても、それなりにショックを受ける。
フェロモン魔法の出力を最低まで下げて、HPも下限値まで落としても、一般的感性からすれば、確実に女性の敵なのは自覚しているけど……。
「もしかして、ショックだったのってギルド長のこと?」
「はい。しかも、今日、副ギルド長もああなるのかと思うと楽しみで」
意外と、リマって性格悪いかも。
ただ、こうなったらリマの期待に応えないとイケないな。
「ちょっと、それってギルド長の身に何があった?」
こう聞いたのはベルデ。
あんな言われ方をしたら気にならない方がおかしい。
若干、焦りの表情が出ていた。
「それは、是非体験してみてください」
「それって、答えになってねえぞ! たしか、魔法石に記憶しているんだよな? 予めチェックしておきたいが、何処にある?」
「もう、ギルド本部に提出済みです。ギルド長の失態も、既にギルド本部に知れ渡っていますよ」
「ちょっと、失態って何だぁ!?」
ベルデのトーンが自然と上がった。
失態と言われたら、気にするなと言う方が無理だろう。
「今日の試験も魔法石に記憶して本部に提出することになっていますので、提出前に、是非ご確認ください」
「頼むから教えてくれ」
「それより、武器の殺傷性には問題ありませんよね?」
「問題無いが、ギルド長の失態の方が問題だ。マジで、いったい何があった?」
「だから、ナニがあったんですよ」
「それじゃ、全然分からん」
「じきに分かりますよ」
リマも、笑いながら、のらりくらりとかわしている。
絶対に楽しんでいるだろ、これ。
ただ、ボクは、ギルド長が、このギルドのトップだから、ジノンのSランク試験を担当するんだって思っていた。
それから、ボクとジノンの両方の試験を担当するんだと大変だから、ボクの方は、副ギルド長のベルデに依頼したんだろうって勝手に推察していた。
勿論、対外的には、そう捉えられると思う。
でも、本当はボクとの戦いから逃げていたってことか。
犬になるのを恐れて。
「それより、もう時間になりますので、試験場に移動していただきます。ルカさん、武器の方をお忘れなく」
「あっ……はい」
ボクは、その場に陳列した女王様の武器をアイテムボックスの中に収納した。
でも、試験会場って、ボクとベルデ以外には、いないんだろうか?
もし他にも人がいたら、ボクが本気になっちゃマズいんじゃない?
「ねえ、リマさん。試験会場にいるのって、ボクと副ギルド長だけ?」
「いえ、私もギルド長も、他のギルドスタッフもいますよ」
「じゃあ、ボクが本気になっちゃマズくないですか? あの雰囲気に、全員がヤラれちゃうんじゃ?」
「大丈夫です。結界魔法が使えるスタッフが、総出で結界を何重にも張りますので」
それなら大丈夫かも?
周りの状況を見て、マズいようなら出力を下げるようにしよう。
❖ ❖ ❖
試験会場に到着。
広さは、バスケットボールのコート二面分程度だったけど、観客席がついていて、まさにスタジアムって感じだった。
そこには、既にギルド長をはじめ、十人くらいのギルドスタッフの姿があった。
しかも、ギルド長は、やたらと嬉しそうだ。
多分、仲間が出来るからに違いない。
「では、ルカさんの審査から行います。ルカさん、副ギルド長。中へ」
こう、リマに言われて、ボクとベルデは会場中央へと移動した。
そして、ボクはアイテムボックスからピンヒールを出して履き替え、さらに一本鞭を手にした。
対するベルデの武器は大剣。
大柄マッチョマンらしい武器選択だ。
しかも、片手で軽々と大剣を振り回す。
もの凄い筋力だ。
杖を持ったギルドスタッフ達が一斉に立ち上がった。
彼等が結界魔法使いだ。
「結界!」
「結界!」
「結界!」
彼等は、ボクのフェロモン魔法や超高HP……ハレンチパワーをカットするために、観客席の前に何重もの結界を張った。
準備万端だから、ボクの本気を見せろってことだ。
「では、用意はイイな。はじめ!」
ギルド長の声で、試験が開始された。
ベルデは、大剣の先端をボクの方に向けながら、一歩一歩、ボクの方に近付いて来た。
まるで制圧前進だ。
そして、
「覚悟!」
と言うと、大剣を振り被り、ボクの方に向けて一気に突進して来た。
ボクは、
「超高速稼働!」
ピンヒールを履いていたけど、超高速で避けた。
超高速稼働の時は、普通に歩くだけでも、もの凄いスピードなんだよ。
そして、鞭を一発、ベルデの尻に叩き込む。
マトモにヒット。
「ペシッ!」
っと大きな音が、試験会場にこだまする。
「取説君:ルカ‐0721号が物質創製魔法で作り出したアイテムに対しては、超高速稼働の際に、ルカ‐0721号の強化魔法が自動的に発動します」
エロスが作った女王様服は勿論、強化魔法のお陰で、鞭もピンヒールも空気摩擦で燃えることは無い。
ただ、超高速で振り出した鞭だから、生身の部分に当たれば、大変なことになっていただろう。
従来のよりも何百倍も強烈だと思う。
しかし、今回は、甲冑の上から叩いたからね。
さすがに痛みを感じることは無いはずだ。
当然、ベルデからは、
『ん? ハエでも止まったか?』
って言われると思っていた。
ところが、ベルデは、
「何で、そんな靴で、超高速で動けるんだ!?」
って大声を出して驚いていた。
ただ、転移魔法じゃなくて、超高速って言っていたから、多分、ベルデには、一応、ボクの動きが見えているんだろう。
もの凄い動体視力だ。
さすが、副ギルド長まで上り詰めただけはある。
このまま普通に戦うんじゃ、ボクに勝ち目はない。
やはり、リマのリクエストに答えるしか無い。
「フェロモン魔法全開! HP、SP上限値まで上昇! MP30!」
ボクは、HPフルパワーでの女王様モードに移行した。
多分、意図的にHPを全開にするのは、これが初めてだと思う。




