29.試験資格取得条件!
「じゃあ、残りの手続きとかは、リマの方でやっといてくれ」
そう言うと、ギルド長はベルデを連れて奥に戻って行った。
ボクとジノンは、
「ありがとうございます!」
と改めて大きな声で礼を言いながら、ギルド長とベルデに向けて頭を下げた。
一方のリマは、ボク達よりもワンテンポ遅れたタイミングで、
「承知しました」
とギルド長に答えると、カウンター越しに、ボクとジノンに受験票を差し出した。
「では、こちらが受験票になります。明日は、十時スタートですので、その十五分前までには、受付の方に来てください。ただ、この一般受付ではなく、一番右のカウンターになりますので、お間違いの無いように」
「了解です」
ボクとジノンは、リマから受験票を受け取った。
この世界には、写真なんてモノは無い。
替え玉受験なんかも不可能じゃなさそうだ。
もっとも、今回は、顔と名前が割れているから替え玉は出来ないけどね。
するつもりも無いけど。
「当日は、殺傷能力の高い武器は使えません。剣とか槍でしたら、当ギルドにある試験用のモノをお使いいただきますが、当ギルドに無い武器を使われる場合は、受付で殺傷能力が低いことを確認させていただきます」
たしかに、受験する側も審査する側も、試験中に死んじゃったらマズい。
それで、殺傷能力の高い武器を禁止しているみたいなんだけど……、その判断基準は、刃とか硬い突起物がついているか否かを指す程度だ。
マトモに大怪我させるようなモノじゃダメだってことみたいだけど、刃の付いていない剣だって、それでマトモに後頭部を叩けば死ぬ。
試験で死人が絶対に出ないわけじゃないだろう。
ただ、ボクが使える武器って……。
『取説君:ルカ‐0721号は、Hに関連するアイテムであれば、何でもそつなく使いこなします』
結局は、鞭に蝋燭程度か……。
他にも無いか、今夜、考えてみよう。
「試験に関しては以上です。何か質問などはありますか?」
「いえ、特には」
「では、当日は遅れないようお願いします。あと、今回のワイバーンの討伐代ですが、依頼主に連絡後、お支払い致します」
「はい」
しかし、今回は、結果的にだけど、討伐代よりもジノンの受験資格の方がメインだったからね。
それに、レックスの討伐代があるから、特に今すぐワイバーン討伐代が入らなければ困るってわけでもない。
それ以前に、最悪の場合は、
『愛人に貢ぐ金! 出ろ!』
って唱えれば金貨数十枚が出せるから、基本的に、お金には困っていない。
『取説君:ルカ‐0721号は、Hに関連するモノなら何でも魔法で作り出せます』
多分、生きて行くことだけを考えたら、この能力が、ボクに授けられた能力の中で最強だろう。
こんな反則級の能力をボクに与えられるくらいだからね。
ボクを作ったエロスは、魔導士としての才能(?)だけなら、このトリフィオフィルム世界で一番なんだと思う。
ただ、その才能を使う方向がおかしいだけで。
「それと、もう一つ。ルカさんが不当に低ランク割り付けされていた件ですが、既にギルド本部とタンヤオ市ギルドには通信システムを使って報告済みです。例の魔法石も、既に当ギルドの転移魔法使いの手によってギルド本部に提出されています」
「もう報告されていたんですね。ありがとうございます」
「タンヤオ市ギルドからは、調査をする旨の報告を受けています。また進展がありましたらご報告致します」
「はい。ワザワザありがとうございます」
ボク達は、これでギルドを後にした。
カウンター脇では、武器屋の女が、ボク達に向かって頭を下げていたけど、多分、ボクがあの店に足を運ぶことは無い気がする。
一先ず、ボク達は近くの飲食店に入った。
これから昼食だ。
ワイバーン討伐が、思っていた以上に早く済んだんで、実は、まだお昼ちょっと前。
多分、この時間帯なら、まだ飲食店もすいているだろう。
ボク達は、ウェイトレスに窓際の席に案内された。
ここは、一昨日にも入ったけど、その時も、この席だった気がする。
それと、この店にある昼食メニューはA定食とB定食のみ。
あとは酒ばかりで、完全に冒険者達が、飲んだくれるのが目的の店じゃないかって思う。
今日は、一昨日とは逆で、ボクがB定食、ジノンがA定食を頼んだ。
あと、『取り敢えずビール』も一杯ずつ。
受験資格が得られたことのお祝いだ。
注文してすぐにビールが運ばれて来た。
ボク達は、
「乾杯!」
早速、ジョッキに口をつけた。
特に大きな仕事を終えた後のビールは格別だ。
つい、ボクは、
「あー旨い」
と声を出した。
しかも、『あ』に濁点がつくレベルだ。
「たしかに、今日の酒は旨いな」
「でも、明日試験だから飲み過ぎないようにしないとね」
「しかも、まだ昼だしな」
そう言いながらも、ボク達は一気にビールを飲み干した。
そして、ジノンが近くの店員に声をかける。
「ビールをもう一杯。ルカはどうする?」
「ボクは、これでやめとく」
本当は、まだ飲みたいところなんだけど、ボクにはフザケタ機能がついているからね。
下手に酒を飲めない。
『取説君:ルカ‐0721号は、お持ち帰り機能が搭載されています。アルコール濃度に関係なく、ワイングラス三杯の酒を飲むと、勝手に酔い潰れます』
ジョッキ一杯がワイングラス三倍相当に換算されないことは、前に飲んだ時に確認しているけど、そこから先は未確認だ。
明日試験だし、アホな機能は発動させないようにした方がイイだろう。
その機能が働いたら、ジノンに運んでもらわなくちゃならないからね。
試験前日に、そんな負担はかけられない。
二杯目のビールが運ばれて来た。
ジノンは、それを手にすると、一気に半分くらい飲んだ。
相当気分がイイんだろう。
「ルカ。今回はありがとう」
「えっ? 改まってナニ? 別にお礼を言われるようなこと、していないけど?」
「いや。今回、試験資格が得られたのはルカのお陰だ。本当は、少し前にSランクになるのを諦めていてね」
「でも、Aランク最強とか、最もSランクに近い人とか言われているんでしょ?」
「たしかにそうだけど、そう言われる人は、今までに何人もいる。しかし、その中でSランクの試験資格が得られたのは、ほんの一握り。Aランク最強と言われて終わる人は、実は少なくないんだ」
「そうだったんだ!」
つまり、受験資格を得るだけでも相当大変ってことのようだ。
それだけSランクは狭き門と言える。
「しかし、レックスでさえ手懐けてしまうルカを見て、俺にもチャンスが来たと思った。それに、転移魔法まで使える。転移魔法があれば、どんな場所にでも魔獣討伐に行けるからな。ルカをダシにするみたいで済まないが」
「いや、別にダシだなんて思って無いよ。それに、Aランク最強って言われるところまで上り詰めたのはジノン自身の力だし。ボクは、Sランク試験資格を取るために、ほんのちょっと、手伝っただけだよ」
「ほんのちょっとか。ルカらしいな……。じゃあ、Sランク試験の受験資格ってどんなモノか知ってるか?」
「いや、知らないけど?」
「どんな竜種でもイイから竜を討伐することだ。但し、冒険者単独での討伐なら竜を一体。パーティでの討伐なら人数割りで竜を二体以上。つまり、十人のパーティなら二十体の竜を討伐する必要がある」
それは、かなり基準が厳しい。
たしかに、ある程度以上の実力者だけで組んだパーティなら、人数規模が上がるに従って、それだけ強い魔獣を討伐できる可能性は上がる。
しかし、いくら大人数パーティでも、人数割りで二体ずつの竜種を討伐するのはムチャクチャ難しいだろう。
「じゃあ、今回は五体だから余裕だったんだ」
「そう言うことだ。もし、ルカが既にAランクだったら、今回、一緒にSランク試験を受けられたんだけどな」
「別に、ボクはそこまでランク上げに固執していないから」
「しかし、ルカなら試験資格を得るのはすぐだろう。もう一回、ダイスーシー村まで行けば済むことだしな」
「まあ、そう言われればそうだけど……」
ようやく、何となくだけど、この世界の冒険者のことが少し分かって来た気がする。
今回のワイバーン討伐の依頼も、これまでに何人ものAランク冒険者達がSランク昇格試験資格を得ようとしてチャレンジしていたに違いない。
結果的に失敗して、賞金額がつり上がった状態で今まで依頼が残っていたわけだけど。
それから、ジノンが、ボクのAランク試験資格が取れるって言ったのも、今から思えば当然なんだろう。
本来ならSランク受験資格が得られる成果だから、それより下のAランク試験資格が得られないはずがない。
あと、ボクの昇格試験資格が得られるかどうかを聞いた時に、リマが、
『さすがに、Sランクへの飛び級は認められていませんけど……。確認します』
と言ったのも、もしかすると、特例でSランクへの昇格試験資格が得られないかをギルド長に確認しに行ったのかも知れないな。
あの時、ボクは、Bランクになってまだ日が浅いから、Aランクの試験資格を得るのも判断が難しいのかなって思っていたけど……。




