20.お手!
スーカンツ村冒険者ギルドの建物から出た。
ただ、治した十三人以外にも患者はいたはずだよね?
出て来ちゃって良かったのかな?
「ギルド長。他の部屋の患者達を治さずに出て来ちゃいましたけど?」
「今回、審査用に提供されたのは、あの部屋の患者達だけだからな。もし治療するのなら有料で対応してもらいたい」
もしかすると、ギルド長のレッドは、ボクに、
『下手に安売りするな』
と言いたいのかも知れない。
甘くし過ぎると、つけこまれるからね。
優しくするのはイイけど、限度があるってことなんだろう。
「分かりました」
「よろしい。では、次は、カンブリ市に行ってもらいたい」
「カンブリ市ですか?」
「ああ。場所は、ここになる」
ギルド長が地図を広げて、カンブリ市の位置をボクに指し示してくれた。
そこは、ショウサンゲン湖の畔の位置する街で、ボクとジノンが出会ったダイサンゲン村とは少し離れた位置にある。
また連続転移での移動になるんだろう。
それにしてもカンブリって……。
多分、これは、
『寒ブリ』
を意味しているわけじゃないと思う。
ここは、アサスズメ(麻雀)王国だからね。
俗に、
『リンシャン振り込み』
とも呼ばれるローカル役のカンブリを意味しているんだと思う。
「ショウサンゲン湖ですか?」
「ああ。そこで、ショッシーの生息が確認されたとの情報を得てだな」
「情報が早いですね」
「まあ、大きな出来事があった場合は、通信アイテムを使って他のギルドに報告することになっているからな。しかし、ジノンはともかく、ルカは全然驚いていないな」
隣を見ると、ジノンは意外にも驚いていた。
彼は、ショッシーが現れた時、にショウサンゲン湖の畔にいたはずだけど?
でも、現場から一時間近く歩いたところにいたんだっけ?
それじゃ、知らなくて当然かも知れない。
一方のボクは、まさにショッシーに水面から顔を出させた張本人だからね。
今さら驚くことは無い。
むしろ、その情報が、思っていたよりも早く拡散された方に驚いていた。
「まあ、ボク自身は、ショッシーを見ましたので」
「本当か?」
「はい。では、今からショウサンゲン湖に行くと言うのは、次の試験にショッシーが関係しているんですか?」
「魔獣を従わせる能力があるのなら、ショッシーを呼ぶことが出来ないかと思ってな。まあ、半分は俺の興味本位なんだが……」
多分、フェロモン魔法を全開にすればショッシーは現れるだろう。
その時に、ジノンはともかく、ギルド長と受付嬢が平静を保っていられるかどうかは分からないけど。
「そうですか。多分、呼べると思いますけど」
「本当か?」
「はい」
「だったら、是非、カンブリ市に行ってくれ」
「分かりました。では、カンブリ市の、湖の畔に向けて連続転移に入ります。転移!」
そして、連続転移に入ったわけだけど……。
転移が終了すると、案の定、ギルド長と受付嬢は体調を崩して吐き気を催していた。
スーカンツ村ギルド前に出た時と全く同じだ。
二人共、顔が蒼白い。
立つどころか、座るのさえ辛そうだった。
実は、この時、ボクはまだピンヒールを履いていた。
履き替えるのを忘れていてね。
なので、ここで発動するのは超上位治癒魔法(S-eX-ヒール)じゃない。
今回も高次治癒魔法だ。
『取説君:ルカ‐0721号は、ピンヒール等のハイヒールで治療対象者を踏むことで、高次治癒魔法を発動できます。しかし、女性異性愛者にはハイヒールを発動することが出来ません』
『取説君:例外的に、男性に懇願された場合は、ルカ‐0721号は女性異性愛者にハイヒールを発動することが可能になります。その際、懇願者がHP50以上の男性であれば一人で条件クリアとなりますが、懇願者がHP50未満の男性の場合は、同時に複数人からの懇願が必要となります』
ただ、女性異性愛者に対して制限がかかるからね。
ここでも、ボクはジノンに、お願いすることにした。
「済まないけど、またボクに依頼してくれないかな?」
「了解。受付嬢を治してやってくれ」
「うん」
これで、二人共、回復させることが出来る。
ただ、他の人がこんな状態なのに、ジノンは平然としていられるんだよね。
相当、体力があるんだろう。
先ず、ボクはギルド長の背後に回った。
そして、本当は、
『このブタ野郎!』
とでも言った方が面白いのかも知れないけど、無言で背中をピンヒールで踏んであげた。
ギルド長は瞬時に回復。
顔の赤みがさして来た。
しかも、恍惚の笑顔。
踏まれて嬉しいみたいだ。
続いて受付嬢の背中を踏んだ。
そして、瞬時に回復。
ただ、女性異性愛者がボクに踏まれるのって、本来なら相当抵抗があるんじゃないかって思う。
だからだと思うけど、受付嬢は、複雑な表情をしていたよ。
体調不良から解放されたのは嬉しいけど、踏まれるのは、さすがにって感じだ。
「回復魔法に感謝する。じゃあ、早速だが、ショッシーを呼んでくれ」
こう言って来たのはギルド長。
何気にワクワクしている。
踏まれて喜んでいるのもあると思うけど、それ以上に、ショッシーを生で見られるんじゃないかって、かなり期待しているようだ。
「ただ、オスを引きつけますので、人間の男性も女性も影響を受けます。ギルド長も受付の方も、正気を保つようお願いします」
「分かった」
「あと、ジノン。悪いけど、ボクの横と後に多重障壁を展開できないかな? 誰かがボクに突進して来ても困るし」
フェロモン魔法強度を上げるからね。
対応は、しておかなければならない。
ここで突進してくるのは、基本的に脳みそがエロに支配されたヤロウ共だけど、女性も刃物を持って突進してくる可能性がある。
なので、ボクの周りをガードしておきたい。
「分かった。じゃあ、多重障壁!」
ジノンが、ボク達をコの字で取り囲むように多重障壁を展開した。
これで、一応、外野がボクに飛び付いてくることは無い。
ギルド長と受付嬢は、何をするか分からないけど……。
そして、ボクは、
「フェロモン魔法全開! HP1000000まで上昇!」
オスを引き付ける魔法を最大出力に、オスを欲情させるパワーを、この世界で一番エロい女性の一万倍まで一気に上げた。
これでも、HPは最大値じゃないんだけど。
すると案の定、ギルド長が欲情してボクに抱き付いて来たよ。
なので、
「SP値を300まで上昇! MP値を30に設定!」
ボクは女王様モードを発動した。
「ギルド長。お座り!」
「ワン!」
この瞬間、ギルド長はボクの犬になったようだ。
コイツのことは、もうレッドでイイや!
いや、むしろ、これからは、ポチと呼んであげよう!
ただ、ポチが欲情したのと同時に、受付嬢から殺意にも似たドス黒いオーラをボクは感じ取った。
殺されないうちに、ショッシーに来てもらわないと……。
ボクは、
『ショッシー、早く来い!』
と強く念じた。
すると、ボクの念を感じ取ってくれたのか、湖面から巨大な首が伸び出て来た。
ショッシーが、顔を出してくれたんだ。
ボクは、
「お手!」
と言いながらショッシーに右手を差し出した。
すると、
「ワン!」
と言いながらポチが、彼の右手をボクの右手の上に乗せて来た。
この様子を見ながらジノンは、
『お前じゃない!』
って言いたげな顔をしていたよ。
「ポチ、お座り!」
「ワン!」
ポチが、ボクの横でお座りした。
ただ、全然、ショッシーの方を見ようとしていないんだけど!
オマエがショッシーを見たいから、ここに来たんだろ!
とは言え、やっぱりボクがフェロモン魔法強度とHPを最低値まで下げないと、今の状態からは抜け出せないんだろう。
ポチのことはさて置き、ここでは、ショッシーを手懐けて見せなければならない。
ボクのレベルを評価すべきレッドと受付嬢が壊れちゃっているけど、ボクは、再び、
「ショッシー、お手!」
と言ってショッシーに右手を差し出した。
すると、ショッシーが前右ヒレをボクの方に差し出してきて、見事、お手をしてくれた。
まさに歴史的瞬間だろう。
続いて、ボクが、
「お回り!」
と言うと、ショッシーは右ヒレを水中に戻し、その場でグルグル横回転し始めた。
ここでボクは、
「フェロモン魔法出力低下! HP設定50! SP、MP値0!」
オス欲情セット……フェロモン魔法の出力とHP値を下限ギリギリまで下げ、同時に女王様モードを解除した。
次の瞬間、
「あれ?」
と言いながらポチ……いや、ギルド長のレッドが正気を取り戻した。
そして、
「あれって、もしかして!」
と大きな声を上げながら、ショッシーを指さしていた。
受付嬢も、
「マジですか!」
と興奮した声を上げた。
二人共、やっとショッシーがいることに気が付いた。
それだけ、ボクのフェロモン魔法と高HPは、強烈だってことだけど……。
多分、二人共、ショッシーがボクにお手をしたことなんて覚えていないだろうなぁ。




