12.パーティ結成!
串焼きの出店には、例のおっさんはいなかった。
アレをやらかした後だからね。
さすがに人前には出難いのかなって、この時、ボクは思っていた。
ジノンと一緒にギルドに入った。
すると、受付カウンターのずっと後の方……会社で言えば管理職席みたいなところに、例のおっさんが座っていた。
しかも、何気に偉そうな雰囲気を醸し出していた。
分かり易く言えば、態度がデカい。
男性スタッフの一人が、例のおっさんのところに行って、
「ギルド長。この件ですが……」
と言いながら、何やら資料を見せていた。
『取説君:ルカ‐0721号は、男性(異性愛者、同性愛者共に)の声なら、どんな小声でも聞き逃すことはありません。また、女性同性愛者の声も聞き逃しません』
別に小声じゃなかったと思うけど、距離がある。
なので、普通には聞こえないレベルだ。
でも、ボクの場合は、この機能があるので、キチンと聞こえていたってことだ。
ただ、あのおっさん、ギルド長だったんだ。
だから、今は串焼き屋じゃなくて、コッチにいるってことか。
でも、だったら、さっきも串焼きなんか売っていないで、ギルドの仕事をキチンとやってくれ!
ボクとジノンが、一緒に受付カウンターへと向かう。
フェロモン魔法の出力を下げているから、タンヤオ市のギルドの時ほど、受付嬢はボクのことを敵視してこないだろう。
もっとも、この時、受付嬢の視線は、ジノンに釘付けだったけどね。
超美男子のジノンしか、彼女の視界には入っていなかったみたいだ。
「どのような御用件でしょうか?」
受付嬢は、妙にニコやかな表情をしていた。
目の保養が出来て、相当嬉しいんだろう。
「彼女とパーティを組みたいんだが、その手続きをと思って」
「えっ?」
受付嬢は、ようやく、ジノンの隣にいるボクの存在に気付いたようだ。
一瞬、受付嬢の敵意ある視線が、コッチに飛んで来たよ。
すぐに、取り繕った表情をしていたけどね。
「彼女さん……ですか?」
「いや、付き合っているわけじゃないが」
「そ……そうですか」
受付嬢が、ホッと胸をなでおろしていた。
コイツ、ボクとジノンが突き合っている……じゃなくて付き合っていると勝手に勘違いしていたってことか。
別に突き合うつもりも、付き合うつもりも無いけど!
「では、冒険者カードをご提出ください」
ボクとジノンが、その受付嬢に冒険者カードを提出した。
すると、すぐさま彼女が、
「本当によろしいんですか? ジノンさん。アナタは、この女性に何か弱みとか握られているんですか?」
とジノンに聞いて来た。
これには、ボクも、
『そこまで言うか!』
とは思ったけど、この受付嬢が、そう言う反応をするのも分かる。
Aランクで、しかもSランク目前のジノンが、昨日登録したばかりでFランクでしかないボクとパーティを組むのは、極めて不自然だからね。
「それは、ルカさんに失礼だろう。ボクの方から是非にとお願いしたんだ」
「そ……そうですか。これは失礼しました」
この時のジノンの声は、ちょっと怖かった。
それだけ、彼がボクとパーティを本気で組みたいって思ってくれているってことなんだろうけど……。
ただ、パーティを組みたい理由が、
『昔の知り合いの女性に似ている』
だからね。
普通だったら、
『その女性の代わりにする気? 失礼でしょ!』
とか言われてもおかしくない。
もっとも、ジノンの場合はイケメン過ぎて、普通の女性なら、
『別に代わりでもイイから一緒にいる!』
ってなっちゃうんだろうけど。
ボク自身は、
『その女性の代わりかよ』
とは思ったけど、ジノンに土下座されて、周りにいた女性共から、
『ジノン様が可哀想』
とか言われちゃったから、仕方なくってところだけど。
でも、ある意味、一人じゃなくなって有難いって言うのはある。
実を言うと、ボクは、この世界では、ずっと一人になるかもって思っていた。
男性陣からはエロい目でしか見られないし、女性達からは敬遠されるからね。
それが、こんなに早く、共に行動する仲間ができたわけだから、ある意味、感謝しなくてはならないのかも知れない。
不能状態だからHを要求してくることも無いし。
ただ、行く先々で、女性達からは、より一層、煙たがられそうだけど。
受付嬢は、冒険者カードを確認すると、ボク達に返却した。
それと、書類を一枚、ボク達に渡して来た。
「では、これに必要事項を記入してください」
「はい。じゃあ、ルカさん。冒険者カードを見せてください」
こうジノンに言われて、ボクは、ジノンに冒険者カードを渡した。
それを見ながら、書類は、ジノンが勝手に書いてくれたよ。
記載事項は、二人の名前と冒険者ランク、性別、年齢とリーダー名、パーティ名くらいだけどね。
勿論、パーティリーダーはジノンだ。
「ルカさん。俺と同じ十七歳だったんだ!」
「へー、凄い偶然」
まさか、ジノンの年齢が、書類上のボクの年齢と同じとはね。
ただ、ボクの本当の年齢は言えないけどね。
中身は三十五歳のおっさんだから。
「ところで、パーティ名は何にする?」
「別に、何でも構いませんけど?」
「じゃあ、サクラなんてどう?」
一瞬、偽客の方を想像したけど、パーティ名に、そんな意味を込めるはずがない。
普通に考えて、桜のことだろう。
特に反対はしない。
でも、どうして、ジノンはサクラなんて単語を知っているんだろう?
もしかして、ボクと同じで日本からの転生者なんだろうか?
それについては、後で改めて聞こう。
ここで聞いてもイイけど、受付嬢とかがいる前じゃ話し難いかも知れないからね。
「イイですよ」
「じゃあ、パーティ名はサクラで」
ジノンが書類を書き終えて受付嬢に提出した。
書類は、そのまま受理されて、ボク達は、一先ずパーティを組むことが決まった。
「それで、ルカさん」
「何でしょう?」
「お互い、名前を呼ぶのに『さん付け』とかは無しにしないか? 互いにパーティの仲間だし」
「それでよろしければ、そうします」
「じゃあ、そうさせてもらうよ。あと、互いに敬語も無しにしたい」
「分かりました。では、早速……そうする」
一先ず、一段落したところで、ボク達はギルドの近くの飲食店に入った。
そこで昼食だ。
『取説君:ルカ‐0721号は、魔素エネルギーを吸収してエネルギーに変換します。そのため、特に飲食の必要はありません』
『取説君:ルカ‐0721号は、使用者が一緒に食事を楽しめるよう、飲食機能が付いております。なお、食に関しての好き嫌いはありません』
本来、ボクは食事を取る必要が無いけど、人間として生きて行くなら、食事をしないと不自然だ。
もっとも、ボク自身、この世界の食べ物を色々食べてみたいって気持ちがあるから、全然、断食とかする気は無いけどね。
でも、食事を取り過ぎると、体内エネルギー変換量が一時的に規定値を超えて、フェロモン魔法の出力が下げられなくなる。
なので、食べ過ぎには気を付けないとイケない。
『取説君:ルカ‐0721号は、お持ち帰り機能が搭載されています。アルコール濃度に関係なく、ワイングラス三杯の酒を飲むと、勝手に酔い潰れます。』
あと、飲み過ぎにもね。
ジノンが守ってくれるから、大丈夫だとは思うけどさ。
「お客様は、二名ですか?」
近くにいたウェイトレスに出迎えられた。
「はい」
「では、こちらに」
ボク達は、そのウェイトレスに、窓際の二人席へと案内された。
ちなみに、この世界は危ないウイルスが流行しているわけじゃないから、客同士の間が板で区切られているってことは無い。
ボクは、メニューを開いた。
ただ、昼食に適した食べ物はA定食とB定食だけ。
おつまみみたいなのは、結構たくさんあるけど。
あと、酒が安かった。
冒険者ギルドの近くだからね。
ヤツラが安酒をかっ喰らうための店ってとこなのかも?
メニューを見ていると、別に、こっちが呼んだわけじゃないけど、近くにいたウェイトレスが、ボク達のところまで来た。
「オーダーはよろしいでしょうか?」
要は、
『早く注文しろよ!』
ってことなんだろう。
「じゃあ、俺はA定食とビール大ジョッキで。ルカは?」
「ボクはB定で」
「飲み物は?」
「オレンジジュースで」
「酒は飲まないのか?」
「嫌いじゃないけど、余り飲めないので」
「そうか。じゃあ、以上で」
ウェイトレスは、
「分かりました」
とだけ言うとカウンターまで戻って行った。
復唱していないし、ちょっと心配だな。




