11.ボクみたいな女性が他にもいたって?
案の定、ジノンを取り巻いていた女性達が、一斉にボクを睨みつけて来た。
予想出来ていた展開だけどね。
正直、ここから急いで逃げたくなった。
「まあ、他人の空似ですかね?」
「そのようだね。ボクはジノン。A級冒険者だ。君の名は?」
ステータス覗き見スキルで名前は知っていたけど、さすがに、それは言えない。
飽くまでも、何も知らない体(カラダじゃなくてテイだよ!)で受け答えする。
前世の身体はともかく、今のこの身体が、何も知らないのは確かなんだけどさ。
「ルカと言います。ボクも冒険者ですが、昨日登録したばかりで、まだ、何の実績もないFランクですけど」
「そうか。君も冒険者か」
この時、ボクは、何やら嫌な予感がした。
まさか、パーティを組もうなんて言い出さないよね?
でも、世の中、イヤな予感程当たる。
今回も、勿論、例外ではなかった。
「俺とパーティを組んでくれないか?」
「ちょっと。さすがに、それは……」
折角の申し出だけど、ボクは断りたいって思った。
女性達の目が怖いって言うのもあるけど、そもそも論としてランクが違い過ぎる。
「どうしてだい?」
「だって、ジノンさんはAランクですよね? さっきも言いましたけど、ボクはFランクですよ!」
「そんなの関係無いだろう?」
いや、関係あるんだけど。
悪いけど、ボクがパートナーじゃ、思いっ切りジノンの足を引っ張っちゃうよ。
ただ、少なくともジノンは、H狙いでボクを誘っているわけではないと思う。
HP抵抗性とフェロモン魔法抵抗性を持っているからね。
「とにかく、ランク差は大きいですし、周りからボクが疎まれてしまいます」
「しかし、君と一緒なら、何かが掴めそうな気がするんだ」
「ナニが掴めそうって、別に一人でいる時でしたら、自由に掴んで構わないと思いますけど?」
「ナニじゃなくて、何かなんだけど」
「えっ?」
どうやら、ボクのしょうもない機能が発動したっぽい。
周りの女性達は、
『コイツ、大丈夫か?』
みたいな顔をしているし。
『取説君:ルカ‐0721号は、聞いた単語を、語呂が近いエロ関連単語と聞き違えることが多々あります』
この身体は、金貨が出せるとか、転移魔法が使えるとか、色々とラッキーな部分はあるけど、こういう部分で不便さを感じる。
どう見ても、思考回路が狂っているからね。
ただ、この時、ジノンは、
『コイツ、大丈夫か?』
みたいな顔はしていなかったけど、非常に驚いた顔をしていた。
一応、美人設定で作られたボクの口から、こんなアホでエロボケなセリフが出て来るとは想像してなかったんだろう。
と、この時、ボクは思っていた。
「済みません。ちょっと、難聴なもので」
「いや、別に、それは構わない。むしろ、懐かしいと思ってね」
「懐かしい? ですか?」
「その昔の知り合いの女性も、そんなボケをかますことがある人だったから」
こんなアホなエロボケセリフを口にする美女が他にいたのかよ!
そんな人間女性がいることの方が信じ難い。
そのお陰で、ジノンにとっては、この手のボケをかます女性の存在自体は許容範囲のようだけど。
まあ、ジノンは、単にエロボケセリフが飛んで来たから驚いたわけじゃなくて、その過去に出会った女性以外にも、こんなことを口に出すアホな女性がいることに驚いていたってことだ。
ボクは、一瞬、
『まさかと思うけど、そのジノンが言う女性も、ボクと同じ自律型魔玩具じゃないよね?』
と思った。
言うなれば、男性の夢が詰まったオートマタ(からくり人形)。
この場合はオート股(?)の方が正しい気がするけど。
すると、取説君の言葉が聞こえて来た。
勿論、これはボクにしか聞こえない。
『取説君:ルカ‐0721号は、聖女シリーズの第一号です。ちなみに、他のシリーズは、まだ存在しません。等身大自律型魔玩具は、ルカ‐0721号が、トリフィオフィルム世界では初の作品となります』
そう言えば、最初の方で、そんな説明をされていたっけ。
だとすると、ジノンの昔の知り合いの女性は、素でそんな変なことを言っていた人間女性ってことか。
マジで信じ難いけど、一度、会ってみたい気がする。
「珍しいですね、ボク以外で、そんなエロボケセリフをかます女性がいるなんて」
「ただ、とても強い女性でもあった。強大な悪の存在を打ち破ったり、巨大魔獣を従えてしまったり」
まさに、その女性って何でも出来てしまうスーパーウーマンだな。
ボクとは全然違って、凄い人だと思う。
「それで、その女性は、今は何処で何をしているんですか?」
「分からない。当時の記憶を、俺は完全に失っていてね。思い出したのは、ごく最近なんだ」
「そうですか。でも、そんな凄い人物と似ているなんて光栄です」
「それで、話を戻すけど、パーティの件、お願いできないだろうか?」
ジノンが、その場に正座すると、いきなりボクに土下座して来た。
さすがに、これには周りの女性達からも、
「ジノン様に、ここまでさせるなんて」
「ジノン様が可哀想」
「ヒドい女」
「私が、ジノン様にここまでされたら、その場で何でもOKしちゃうのに」
との声が上がったよ。
ソッコーでジノンからの申し出をOKしていたら、それはそれで文句を言うくせに。
しかし、これで断ったら、ボクは相当な鬼にされてしまうだろう。
完全に『イエス』か『はい』の二択にされた感じだ。
本当は、この世界を色々見て回りたかったんだけど……。
でも、パーティを組んだからと言って、必ずしもアチコチ回れなくなるってわけじゃないか。
「わ……分かりましたから、顔を上げてください」
「じゃあ、パーティを組んでくれるんだね?」
「ただ、仮結成みたいな感じで、お試し期間を設けるってことでお願いします。どう考えてもFランクのボクが足を引っ張ることは間違いないでしょうし」
「そんなことは気にしないで欲しいけどな。じゃあ、早速、村のギルドに行ってパーティ登録をさせてくれ」
「ギルドって、この村にあるんですか?」
「ここから一時間くらい歩いたところだ。じゃあ」
ジノンは、立ち上がるとボクの手を握った。
そして、そのギルドに向かって走り出した。
でも、A+レベルのジノンの足について行くのは、ボクにとっては、マジでキツイ。
ボクだけじゃない。
ジノンに群がっていた女性達も頑張って走って付いて来ているけど、彼女達も相当きつそうだ。
それに、ボク達と彼女達の距離はドンドン広がっている。
さすがにボクは、
「ちょっと、早いですよ」
と、半ば息切れしながらジノンに言った。
『取説君:ルカ‐0721号は、(特にHの)臨場感を出すために息切れを演じる機能が付いています』
人形のくせに、何故かボクは息切れするんだね。
製作者は、本当に芸が細かいよ。
「でも、善は急げって言うし」
「全裸急げって、ボクを脱がす気ですか?」
「全裸じゃなくて、善はだけど?」
「えっ?」
『取説君:ルカ‐0721号は、聞いた単語を、語呂が近いエロ関連単語と聞き違えることが多々あります』(再掲)
また、アホな聞き間違いをしてしまった。
こんなエロボケを聞かされても、ジノンは、嬉しそうに笑っていたけどね。
「本当の、あの人にそっくりだ」
「でも、ボクは、その女性じゃないですよ」
「分かってる」
「それより、ギルドって、本当にどの辺ですか? ボクは転移魔法が使えますので、場所が分かれば、一瞬で移動できますけど」
「えっ? それって、本当か?」
ジノンが足を止めてくれた。
転移魔法が使えるなら、その方が圧倒的に早いからね。
ただ、この時のジノンの表情は、もの凄く不思議そうと言うか、違和感を覚えているような、そんな感じだった。
「ええ」
「そうか。ギルド登録は、何処で行なった?」
「タンヤオ市ですけど?」
「そうか……。じゃあ、向こうの方に、串焼きの出店があるんだけど」
「分かります。そこで、一本買いましたから」
「その裏にギルドがあるんだ」
「えっ?」
そんなの、全然気付かなかったよ。
あの時は、あの串焼き屋のおっさんから逃げることしか考えていなかったし。
ただ、ギルドに行くってことは、あのおっさんに接近するってことか。
余り気は乗らないけど、HPは下限値だし、フェロモン魔法の出力もギリギリいっぱいまで下げている。
これなら、さっきのようには、ならないだろう。
「知らなかったようだね」
「はい。全然気付きませんでした」
「じゃあ、そこまで転移をお願いできるかい?」
「了解です。転移!」
ボクは、転移魔法を発動した。
そして、次の瞬間、ボクとジノンは、さっきの串焼き屋の前に空間移動していた。
ジノンは、かなり驚いていたけどね。
「詠唱無しで出来るんだ!」
「でも、『転移!』って言いましたけど?」
「いや、それは単なる発動の言葉であって、普通は、もっと長い詠唱が必要だけど」
やっぱり、普通は厨二病発表会みたいな、冗長でバカらしい詠唱が必要ってことか。
そんなものを必要としないで済むのは、マジで助かる。
『取説君:Hの最中に魔法の発動が必要になった場合、冗長な詠唱を唱えるようでは、相手がしらけることが懸念されます。そのため、ルカ‐0721号は、基本的に無詠唱で魔法が使えます』
無詠唱魔法が使える理由は最低だけど……。
でも、理由は何であれ、それを可能にしてしまうってことは、ボクの製作者エロスは、やっぱり相当な実力を持った魔導士なんだと思う。




