8時間目
『魔法訓練室』
遮断魔法が施された室内の魔法訓練室でローブに着替えた加奈は、無心に水魔法を動かぬ標的へ弾のように貫いていた。
丸い的には、四つの円が描かれていて外から中にかけて点数が上がって行く仕組みになっている。
なにが僕のコレクションなの。頭良いくせに厨二病なのあの人?あれ、つまり厨二病に私は殺されたっていうの?
隣で千歳が「体調があまり良くないのに凄いですわ!流石加奈さんっ」と騒いで褒めてくるが耳には入っていても脳にそれは届いていなかった。頭の中はさっきの出来事と雉羽への悪口で容量オーバーだ。
標的が雉羽の顔にすら見えていた加奈の水魔法は正確に的の中心を貫いており、それに気づいた水魔法担当の教師が講義後、いたく加奈を褒めたが、本人は何とも言えない表情を浮かべてぺこりと頭を下げた。
「加奈さん、本当に体調はよろしいの?わたくしが医療室まで付き添って差し上げますわ」
「大丈夫、体調悪いって言ってもほら、女の子特有のあれだし」
魔法器具学を休んだことを心配した千歳のその言葉に、加奈は生理だと遠回しに告げてあやふやにしようとした。
雉羽が手伝ってるときいて恐ろしくて逃げたなんて露ほどに思っていないだろう千歳に、加奈はわざとらしく溜息をついて見せた。
「体調も悪くないしそんな心配そうな顔しないでよ」そう言って笑い飛ばしたくなるのを押し込めて一度薄く笑う。
というかむしろ普通に魔法器具学の講義出てた方がましだったわ。後悔先に立たずってこういうことね。
「え?でもこんなに早く?」
こんなに早く?って、そりゃ先週に生理終わったばっかだけどさ。
「うん」
生理不順とか世の中あるじゃんねー。
『寮ー食堂』
5限目に授業を選択しなかった学生たちが、ちらほらと食堂で雑談をしていたり早めの夕食をとっている中、加奈もAディナーセットの乗ったトレーを持って空いている席に座り、もそもそと頂いていた。
白鳥学園の食堂で提供される食事は一流レストランで働いていたシェフの陣頭指揮のもと見習いコックを中心に作られているだけあって、見た目も味も一流のそれだった。
ナイフとフォークで切り分け一切れずつ口に放り込む。
今日のAディナーセットは仔羊のフィレ肉を使ったソテーを中心とした洋風セットだ。美味しい。
「加奈ちゃんやっほー」
「宏子先輩」
一人で黙って食べていると空いていた前の席に人が座った。顔を上げると宏子が夕食に手をつけようとしていた所だった。咀嚼していた肉の塊を飲み込んで軽く挨拶を返す。
「Cセットですか」
「そうだよー。お魚好きだからこっちにしたの」
トマトやハーブで鮮やかに彩られてる白身魚のポワレを切り分け頬張る宏子に加奈も引き続きるフィレ肉を頬張った。
舌に広がる独特な子羊の肉の味を味わうのも半分、呑み込むとパンを千切った宏子をちらりと見て加奈は何だが奇妙な気持ちに晒されていた。
「友人から聞いたのですが魔法実践学で鷲野さまが宿木さまと対戦したらしいのよ」
「まあ、それは知らなかったわ。そういえば雉羽さまが魔法器具学の助手を務めたとか…優秀な方よねぇ」
そんな微かなざわつきが加奈の耳に届き、雉羽という単語にナイフが皿を貫し抜きかけたたがぐっと堪えた。
相変わらずあれ以降宏子と加奈の間に会話はなかったがループしてここ一ヶ月友人を敢えて作らなかった加奈にとって、こういう二人での食事がどこかこそばゆかった。
「新歓祭の準備終わったかー?」
「まだまだ。今日は夜まで準備だってよ。そっちは?」
「俺んとこも一緒」
ようやくメインを食べ終え、さあデザートだ!とパリパリなブリュレのカラメルにスプーンを差し込んだ所でようやく静かに食事をとっていた宏子が口を開いた。
「そういば倶楽部どこに入るか決めたの?」
「いやあ、今年一年はやめとこっかなあって。宏子先輩って室長と同じとこ入ってますよね?」
「城下町研究倶楽部!平日いつでも街に降りれる特典付きだよー」
しかも室長のガイド付き!
大袈裟な口上を付け加えた宏子に加奈は思わずぷっと噴き出した。どこかで室長がくしゃみをしてるに違いない。
デザートをつつきながらの会話はとんとんと綺麗に続いて最後の一口を口に収めると、宏子は友人に声をかけられて、また加奈も自室に戻るため「またね」と簡単に声を交わして席を立った。




