6時間目
『特待室』
鷲野による突発的な『避難訓練』で避難できなかった一年生の何人かが保健室に捻挫等で運ばれた。そのため他のグループの模擬実践が中止になり、加奈は精神的に疲れた身体を引きずって特待生室にいた。
外部生が白鳥学園に早く溶け込めるようにと特別に設けられた特待生専用のそこは、謂わば加奈にとって家柄だの格式だとの気を張らなくて良い一種の癒しスポットだった。
チープさが滲み出る魔法器具の数々に、庶民くささが溢れる部屋だったがかえって親近感が湧くそこが加奈の心を解す。
柔らかいソファーに座ってころんと横になっていると、奥の部屋から見知った顔が近づいてきた。
「加奈ちゃんお疲れな感じだね」
「宏子さん聞いてよもー。さっきまで魔法実践学だったんですけどね…」
二年生、高音 宏子は加奈同様特待生として白鳥学園に入園した先輩である。彼女は一つ年下の後輩の愚痴にうんうん、と頷いて聞き終えると大変だったねと慰めるように加奈の頭を撫でた。
「熊鷹くんとか宿木くんとか二年のネストも変だけど、どうして鷲野先輩は突出して頓珍漢なんだろうねえ」
「頓珍漢どころか無自覚暴君ですよ!」
「そのうち慣れるって。がんばって〜」
おっとりとした宏子に先程の鬱憤をぶつけ終え少し落ち着くと、横のデスクで黙々と作業をしていた三年生の室長が口を挟んだ。どうやらネストに物申したいことがあるらしい。
「迷惑な奴らな。後輩まで巻き込んでるんか。焼き鳥にして炙るぞほんまに」
「ぜひ黒焦げになるまで炙ってやってください室長」
そしたら『主人公』が来る前に大きく話が変わるかもしれないし。訛りの強い室長の発言に加奈は賛同して机の上にあった安いチョコを口に放り込んだ。
『講義室』
次の日、赤松先生の符呪学の講義で千歳が昨日は怪我はなかったか、と慌てた様子で聞いてきたが加奈は一言「ないよ」と否定の言葉を告げてなるべく離れて席についた。
配られたプリントをみるとどうやら先週に引き続いて魔素粒子についてらしい。
「魔素粒子の世界というのは言い換えれば生命力の世界であり符呪にとってエネルギー源でもあるといえる」
そこで、魔素粒子の世界のイメージ構築のため諸君らに一部可視化して見せようと思う。
そう言って続けた赤松先生に生徒は少しざわつきを見せたが直ぐに静かになった。まあ、魔素粒子の世界なんてそれこそ姉さんみたいに専門大学か王立大学に入らない限り見る機会なんてないしね。
私の場合は死んでループを繰り返す間に、図書棟から禁書棚を見つけ出したから方法もしってんだけど。
頬杖をつきながら赤松が地球儀のような魔法器具を取り出す様子を加奈は見ていた。前に座っていたのもあって球体の中に魔素粒子を閉じ込めた鉱石が設置されていることに初めて気がつくが、原理を知っているためこれといって目新しさが感じられないそれは、そっとノートに書き留められるにとどまった。
「鉱石に蓄積させた魔素粒子を一度に魔法器具を通して放つと、あんなに美しいのですね…」
ほう、とどこか艶やかな息をつく千歳は今日の符呪学の授業で見た光景を思い出しながら言ったのだろうと加奈は思いつつ口を開いた。
「そうだね」
「魔素粒子を見るなんて王立大学に入学するまで許されないと思っていたけれど、とても良い経験でしたわ。尾を引いた水色の魔素粒子を見まして?」
「うん」
しかし、鉱石に結合して圧縮されただけの魔素粒子の解凍なんていう限定されたものより、加奈は所謂『本当』の魔素粒子の世界を見てきた。
そのため千歳に同意する声がどうしても空っぽに響いてしまい、加奈は早々に千歳から距離をとって次の教室に足早に向かって行った。




