4時間目
『図書棟』
授業態度も上々で、相変わらずネストの焼き鳥連中と遭遇することはなく加奈は今度の「生」は上手く行くかもしれないと、そう思っていた。思っているだけで楽観視はしていないが。
無事に昼を終えた加奈はその足のまま図書棟へと向かった。蔵書の数の圧巻さに圧倒させられるが何百回と足繁く通っているとどうにもやはり慣れてしまい、今ではむしろこの古臭い独特な本の匂いと静かな図書棟は自室に次ぐ憩いの場だ。
奥に長い図書棟は、本よりも内装に目が行くのではないのかと突っ込みたくなるくらい重厚なロマネスク調で建立されている。
ホール以外には隙間があれば本棚を鎮座させるのがポリシーかと疑いたくなるほどに敷き詰められた本棚の間を縫った先にある階段を加奈は登った。
蔵書の数は国内の五本指に入るのは分かるが、本の迷路のような節操のなさには辟易とせざるを得ないとの評を得ている白鳥学園の図書棟であるが、加奈は迷わず目当ての本が置いてある三階の右奥、手前から八個目の本棚へと歩みを進める。
「(あんまり今日人いないな)」
三階の吹き抜けから下を見下ろしてそう感想を呟く。この図書棟は四階まであり、中央に吹き抜けがあるのだ。吹き抜けの天井には魔素粒子をモチーフにした異彩を放つ天井画で敷き詰められており、艶のある銅像や絵画がぽつんと設置されている。
まあ、本の洪水だと言って息づらさを感じると不評を述べる生徒たちは試験前以外ではそうそう立ち寄る場所でもないのだけど。
そう独り話を終わらせ加奈は本棚を曲がって、見知った神経質そうな紫紺の瞳に慌てて足を引っ込めようとしたのだが加奈が行動に移す前にどうやら気づかれたらしい。向こうから声がかかった。
「平井か?」
その冷静そうな声に、加奈は一瞬気付かないふりをして立ち去ろうと考えたが銀髪の彼のことだ。後日また何か言われるだろうと思い、加奈は仕方なく隠れていた本棚から顔を出した。やっぱり見間違いじゃなかった。
「どうも、赤松先生」
「ああ」
小さく頭を下げると赤松先生も小さく応えた。相変わらずの神経質そうな顔に加奈はそっと視線を外して赤松の反対側の本棚に近づいた。どうやら魔法器具の歴史に関わる棚らしい。
「平井は確か特待生だったな…本の探し方は知っているのか?」
「はい。前回来たときに司書に聞いたので」
ぼんやりと手持ち無沙汰に棚に並ぶ本を眺めていると赤松先生が尋ねてきた。といっても司書に聞いたのは一回目の『生』だったけれど。
というか、むしろ先生が持ってるその
『魔素粒子の結合化に関する精神汚染について』を探してたんです。到底一年生が読む代物ではないそれを横から貸して下さいなんて言ったら変なフラグが立ちそうで恐ろしい。
さっさとそれを置いて立ち去ってくれないだろうかと加奈はシルバーフレームの向こうの紫紺色の瞳を見上げたが既に視線は逸らされていて。
「あの、探してた本もあったので失礼します」
「ああ。講義に遅れないように」
仕方なく取った『魔法器具学の歴史』を手に加奈は身を翻し見えないように舌をつきだした。
「(遅れたら先生のせいだっての!)」




